- Amazon.co.jp ・本 (196ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309467733
感想・レビュー・書評
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詩のような、小説のような独特の文体。
余白が多いからこそ、言葉の一つ一つが際立ち、鮮烈なイメージを最後は読者に委ねるようだった。
生まれてから2時間だけ生きた姉
姉が息を引き取るまで、母がささやき続けた「しなないで、おねがい」
もしも姉が死なずに生き続けたら、自分はこの世に生まれていたのか
人ひとりの存在を、人生について思考する試みを文学を通して読む者に投げかけている。
「白いものたち」について紡がれる65の物語は、存在し、生き続けたかもしれない命への祈りとなる。
文学にしかできない表現を、その素晴らしさを体感させてくれた作品だった。 -
産まれてわずか2時間で死んだ女の子。
対峙するのすら辛く息苦しいほどの喪失感を”白いものたち”を通して恢復してゆく。
なんとか救われてほしいと願いながら読んでいましたが、読後感はとても爽やかだったのでどうやら救われたようです。
途中、「わたし」がいったい誰なのかふと分からなくなる。母親なのか亡くなった女の子の妹なのか?それとも・・・。
平野啓一郎氏の解説を読んで、ぼんやりした輪郭がくっきり浮かび上がってきます。
小説というか連作短編か散文に近い。今までにない読書体験でした。 -
すごすぎてなにを書けばいいのかわからない。読んでいるあいだ、薄暗い雪景色のような静謐さに絶えず体が満たされていた。それはひとえにあまりにも洗練された文章(訳文がすばらしいしきっと原文もすばらしいに相違ない)のなせるところだろうと思う。白いものには無数のイメージが重ねあわされて、厳粛さや脆さ、寂しさ、残虐さ、清廉さ、様ざまの印象が圧倒的な静けさに飲みこまれながらも同時にそれを形成してゆく。そういうなかに、生まれて二時間で亡くなった姉との(間接的な)交流が立ちあらわれる。白いものたちは、生と死をも包みこむ。それはあたりを覆う霧のように無限のひろがりをもつようでもあれば、蝶や、雪の一片一片のようにものすごく小さな世界の細部に宿るようでもある。そこにはあるものが生じて消滅してゆくことの厳然さがある。そうしてそのなかでひとはひとりの人間が生まれて死にゆくこの事実を、個々人の確たる実感として引きうけねばならないことを悟るのだ。それはこの世に生まれ(得)たすべてのものへの祈りとなる。
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詩的なモノクロ映画を見ているような雰囲気でした。
著者の実体験が基になっていて、痛みを乗り越える方法を模索しているのかな、と読んでいました。
ガーゼや雪など、この本に出てくる白いものたちは、背景が暗いほど際立ち、著者の抱える痛みが強いほど、背景と対象物のコントラストがはっきりと現れるように感じました。
表現が魅力的で、どんな風に文章が誕生するのだろうと思います。
誕生は白く、死は黒い、というイメージを、読みながら感じていました。
戦争や災害などで一度破壊されてしまった場所が、建物など新たな体を得て生きていくことは、それまであった体の痕跡を抱きしめるように、また新しい服を着ていくことなのかな、と思いました。
そのような街は、白さと黒さが入り交じったように感じるかもしれません。
ろうそくが何本も燃えて風に揺れて、手向けた誰かの、手向けられた誰かの魂が浄化される時間が流れているような感覚です。
最後の解説で、著者の意図していた事が分かり、また読めば違った気持ちで読めるだろうなと思いました。
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とても美しい言葉で日本語訳してくださった斎藤真理子さんの「補足」が、理解を助けてくれる内容でとてもありがたい。
読了直後ですが、いまから二回目読みます。 -
おくるみ、うぶぎ、しお、ゆき、こおり、つき、こめ……。「白いもの」たちへ捧げる静謐な祈りの言葉。紡がれる美しい文章が織り成す物語は壮大なひとつの詩でもある。哀切で儚い65の物語。ゆっくりと静かな夜に読みたくなる。素晴らしい本でした。
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翻訳文学試食会 で『菜食主義者』が紹介されていたハン・ガン氏の本作が、妻の本棚にあったため拝借。
私が幼少の頃、母が私の兄か姉を流産していたことを、聞かされていた。毎朝仏壇にお参りするとき、見たこともない兄か姉に話しかけていた。中学生時分に、ふとその位牌に書かれた命日を見たことがあった。なんとなく考えてみたら、兄か姉と私の存在は、両立しないことに気づいた。ここに今生きていることの、偶然の重なり合いに、背筋がもぞもぞした。
この作品でも、ハン・ガン氏が、生まれて数時間で死んだ姉を自分に重ねて語ることがあり、そのもぞもぞを久しぶりに感じながら、読み進めた。
#河出文庫 #ハン・ガン #翻訳文学試食会 #翻訳小説 #齋藤真理子 -
余韻の残る美しい小説。
詩集のようでいて、そこには恢復の物語がある。静寂がひろがり、言葉は少なだが余白や時折挟まれる写真、全てが訴えてくる。白は特別な色だなと思う。何ものも受け付けない強さと全て包み込む柔らかさがある。