跳躍者の時空 (奇想コレクション)

制作 : 中村 融 
  • 河出書房新社
3.33
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本棚登録 : 172
感想 : 22
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  • Amazon.co.jp ・本 (382ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309622057

感想・レビュー・書評

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  • ガミッチがおまえをガミルガミルするぞ!


     今回のコレクションのキモは、やはり、アンソロジーやSFMに散っていたものや、未訳だったものまで、ガミッチものの全短編が一冊にまとまったということで、猫SF派の人はこの機会に購入したほうがよろしいかと。

    「跳躍者の時空」
     ガミッチの飼い主についての表記は、既訳の「馬肉の大将」と「ネコこっちおいで」に馴染んでしまったため、今回の「馬肉のせんせい」と「ネコちゃんおいで」には若干違和感があった。ま、今後ガミッチに関してはこれが定本になると思うので、慣れていくしかないなぁ。

     表題作であるこの作品、内容に関しては、どうしたってガミッチに目が向いてしまうわけだけれども、今回読み返してみて、「馬肉のせんせい」と「ネコちゃんおいで」の娘であるシシーの通過儀礼と自己回復のモチーフが強いことにあらためて気付いた。
      通過儀礼に際して、「都合のいい」犠牲者が出るのは、儀式としてある種の必然性があるのかなとは、大塚英志の『人身御供論』なんかを読んで感じる。

     猫の二点間の移動については、バートランド・ラッセルからインスピレーションを受けたんじゃないかという気もするけど自信なし。

    「猫の創造性」も扶桑社の猫アンソロジーで既読。トイレに頭突っ込んでるとこだけ妙に覚えてたり。

    「猫たちの揺りかご」は『放浪惑星』に登場したあの人が!って、実は彼女のことあんまりよく覚えていないのだけれど、こういうキャラクターを書くライバーが変態だということよく分かります。

     ライバーのエッチな妄想については殊能将之氏の「 reading diary」にまとまってます。まとまってるからなんだとか言わないで!
    http://www001.upp.so-net.ne.jp/mercysnow/Reading/read0105.html


    「『ハムレット』の四人の亡霊」
    シェークスピアを読んでいるほうが面白いんだろうね、うん。いい話。作品集全体にある魔法じみた雰囲気が、この短編においてはミスディレクションになっている。


    「骨のダイスを転がそう」は『危険なヴィジョン』に収録されているのなら読んでるはず…、と思いきや入っているのは邦訳されていない部分だった。それにしてもいろいろ呪われたアンソロジーであるなぁ。
     本編の翻訳刊行についてはあきらめたけど、ファーストの未訳分、あと『危険なヴィジョン、ふたたび』に収録された、エリスンの「序文だけ」翻訳するというのはどうか。

     作品は「悪魔との契約」バリエーションであるけれども、最後のワン・センテンスがすげぇ。


    「冬の蝿」
     同じ場所で並行して繰り広げられる、まったく別種の内世界の彷徨を最後に力技でまとめ上げて、ライバーの技量の高さがよく分かる短編になっている。やはり、ある種の精神的危機からの回復がテーマになっているという意味では、意外にも「跳躍者の時空」と読後感が似ている。
     ニュー・ウェーブと呼ばれてもまったくおかしくないこの短編、59年の段階で完成していたらしい。


    「王侯の死」
     ハインライン的なパワー・ファンタジー好みのくすぐりがあって、SFファンには細かいところで楽しめる。と言えるんだけど、一方大きいテーマとしてこういうのが面白いかどうかというのは微妙かも。
    「ところで、ぼくらはみんな同じころに生まれたんじゃなかったっけ?」って、同じ時期に大学に入学するくらいなら、そりゃそうだろうとかは言うな!言うな!
     ひょっとしたら長編化すると、スケールのでかいSFになったかもしれないけど、それはそれでまた別の話になってしまうね。

     で、書誌を調べてみたら、これSFMで読んでいたらしい。全然覚えてなかった。同じ号に載ってたスタージョンの「ニュースの時間です」や、デイヴィッドスンの「グーバーども」が強烈過ぎたみたい。


    「春の祝祭」は、終盤までは願望充足ポルノみたいな感じだったんだけど(その方向性でも変なスピンがかかってて、面白いが)、最後に突然SFになる無茶さに唖然とした。
     ひょっとしたら、創作の原点は「あの飛行船をつかまえろ」と同じようなところにあるのかもしれないけど、ストーリーとの接合の仕方が余りに妙である。向こうが名作なら、こっちは珍作というかなんというか、印象に残ることは間違いない。


     えーと、今回、「交通戦争」が入っていないのは残念でした。このショートショートはこれまで『世界SF全集32 -世界のSF 現代編』、『世界カーSF傑作選』、『ミニミニSF傑作展』 と3種のアンソロジーに収録されているものの、現在はどれもやや入手が難しい。
     タイトルはややダサく、社会風刺水準のSFにとどまっているのではないかという懸念を抱かれるかもしれないが、不発に終わった暴力衝動の閉塞感の描写は、今なお生々しい強さがある。未読の方はぜひ読んでいただきたい。

     あと、〈改変戦争〉ものが今回のコレクションにまったく入っていないのは、なにか含みがあるに違いない、とはかない期待をしてみる。(次回!次回!)

  • フリッツ・ライバーは好きな作家である。
    そう思い込んでいたのに読んでいたのはファファード&グレイマウザーシリーズだけで、それを自覚して数年前に『妻という名の魔女たち』を読んだ。琴線に触れるものはあったがジャストミートとはいかず、もう一冊なにかを求めて本書へ至る。

    本書は読者の教養が試される。めぐりあわせの妙で先日読んだばかりの『ハムレット』についてはかろうじてその試練に耐えたが、「バイロンふうの虚無感」やら「ゴシック的な孤独感」とか言われてもまったくピンとこない。
    文学がそれ以前の文学を引き、それを解することこそ教養とされる向きがなきにしもあらずな風潮があるように思う。いわゆる文学について思うことの出来た昨今、オタクのマウントとなにが違うねんと思わなくもない。

    表題作『跳躍者の時空』はガミッシュという名前の猫が主人公である。いっとき『テイルチェイサーの歌』を思い出させたが、どこかランクマーの汚穢を感じさせる文章に、勘違いだったと理解した。

    ラブクラフトとはその死の直前四ヶ月ほど文通し、作品のレビューとはげましをもらったことに感謝の念を抱き続けたという。ニンゴブルやシールバに感じたラブクラフト臭は気のせいではなかったようだ。

  • 前半の天才猫ガミッチシリーズは楽しく読めた。後半の短編はこの河出シリーズの真ん中を行くというのか、要するに自分には理解が難しかった。作者はシカゴ生まれでアメリカでは移民が一番多い土地らしい。うーん、でも、郊外の鬱々した感じと閉鎖された家の中だけで世界を作ってる感じとか、から回ってる明るさとか、惹かれる書き手なんだよなあ。思春期の自分の子供に対して発した自分のから回った発言を思い知らされるような。理解したいのに、ちっとも向こうにはその気が起こらないという。

  • 書店で見かけ、なんとなく購入。
    奇想コレクションシリーズ、前から気になってるんだけど、
    書店で置いてあるのをあまり見かけない…。

  • ●自分、生まれ変わって猫を飼ったらガミッチって名前にします。もう1匹飼ったらサイコにします。

    ●ガミッチの〈馬肉のせんせい〉や〈ネコちゃんおいで〉に対する意見を拝聴してると、漱石の猫を連想したりしなかったり。
    猫短編×5本と、『ハムレットの四人の亡霊』、『骨のダイスを転がそう』が楽しかったです。
    『冬の蠅』は…アル中やべえ……! 
    1年以内に禁酒しようと思いました。できるかな?←きっと無理

  • いろいろな本と同時進行で読んでいるが、帰ってきた空飛びネコとこれを続けて読んで見ると、ネコ好きなひとってネコの小さな動作についてあれこれ考えてみるんだなと感じる。
    自分はそれほど気にしたことがなかったけど、こうして、お話しにして貰うと、あぁ確かにそんな動きしてるしてる!と妙に納得してしまう。
    よく見てるなあと感心しながらも、ネコの動きを想像してニヤニヤしてる自分が居る。


    残りの話は、SFっぽかったが好みではなかったな。

  • 何度か読まないと味が出てこない感じ

  • ガミッチ好きだ〜。
    「バケツ一杯の空気」も読めるようにして欲しい。
    まだまだ良短編はある。

  • いつも旅行などに持って行く本。
    短編集なので読みやすいです。
    読み返すたびに新たな発見があるするめのような本です。
    個人的にはガミッチシリーズが好きです。

  • まずは、SF史上最高の猫ガミッチが活躍する物語から。天才仔猫が大人の階段上る過程の、おかしくも痛々しい事件を描いた表題作から、本邦初訳の「三倍ぶち猫」まで、シリーズ全5作を一挙収録。ほかに、死神との一世一代の大勝負に出た男を描いてヒューゴー賞、ネビュラ賞の二冠に輝いた傑作「骨のダイスを転がそう」、家族の夢想が奇妙に交錯する「冬の蠅」、数をテーマにした特異なファンタジー「春の祝祭」など、全10篇を収録。

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