〈格差〉と〈階級〉の戦後史 (河出新書)

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  • 河出書房新社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309631172

感想・レビュー・書評

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  • 本書序文の「格差の拡大は1980年代に始まった巨大なトレンド」との指摘は実に重い。「アンダークラス」の出現と存在が誰の目にも明らかになってきた現在、本書の内容を広く世に知らしめるべきとは思うが、加筆した部分が最終章の直近10年分だけとはちょっと不満。
    過去の著作の分析が書き直す必要もないほど正しかったという事かもしれないが、著作のほとんどを繰り返し読んだ小生としては物足りない。
    本書の最後を悲観的に締めているところも同感出来ない。本書は今後の日本の政策の選択肢として「所得再分配」が大きな政策課題となることを誰の目にも明らかにしてくれている。
    おりしも今世界はコロナ禍の真っ只中である。歴史を紐解くと過去の戦争・疫病・革命時にはどの社会でも「格差の大圧縮」が起きている。願わくば今後の日本でも本書の社会認識を生かした政策が実行されることを望むものである。

  • 金銭的格差はなくなる事はないだろう。
    その格差が例えば、心情面や健康面にそのまま広がりを見せるのをどこまで防げるのか、というのが、一人一人の、社会の、政府の成すべき事ではないかと感じた。
    その一つが所得再分配の考えであり、どこまでそれを受け入れるか。

    アフターコロナで広がるであろう格差を考えたい人にオススメ。

    ジュンク堂書店あべのハルカス店にて購入。

  • 読みながら、本を読むのは結論だけじゃなくて、それに至るまでのプロセスを体験すること、それがその結論への信頼となるんだなあと思っていた。
    戦後すぐの格差の縮小が意外で、だけど誰かとの差を感じざるを得ない状況だったということに納得。いまの自分は、2000年代以降、アンダークラスの出現した後の時代を生きてるってのを考えないと。あと、自分が将来やりがいを持って働けるとしても、それは誰かが最低賃金付近で働いていることを搾取しているからできること、っていう視点を、ちゃんと持つきっかけになった。

  • 日本は比較的格差が小さい社会である…というのはたいへんな誤解で、日本の貧困率は先進国の間でもたいへん大きく、また拡大し続けている。それは昨今始まったものではなく、1980年代頃から続いているものである。
    本書はその日本の格差について、簡単な傾向や、調査方法・説明方法について解説したあと、敗戦後から2015年ごろまでの流れを詳細に説明する。一部の説明が厳密に時系列ではなく行き来することはあったが、時代背景として当時の文化や事件に軽く触れたり、用語が比較的丁寧に解説されたりと、読みやすかった。
    格差は小泉改革といった短期的な要因で語れるものではない、という触れ込みが冒頭でされているが、その小泉改革の評価について触れられていない点は気になった。他にもいくつか、背景にあった政策について解説が不十分な点があった (小渕内閣や民主党政権での変革については触れられているなど、解説されている部分もある)。とはいえ筆者は政治学者ではなく、語るのに難しい部分はあるかもしれない。結果として明確に存在する格差そのものについて戦後全体を俯瞰し、易しくも詳細に解き明かしている点で、素晴らしい書である。
    格差問題の実態はほとんど知られておらず、注目されることも少なく、誤解されている部分も多い。社会の格差意識の変化が、格差構造や格差の大きさそのものの変化と連動していることもない。
    非正規雇用が急拡大し「アンダークラス」が急増している昨今、格差問題がより市民に知られるところとなり、政治による解決が目指されることを期待したい。様々な人に勧めたい1冊。

  • 2000年代にあった「『格差論争』」に終止符を打った」本ということで読む。

    20年経った現時点からわかるのは、確かに、日本社会は「格差社会」に「なった」ということ。その原因は、次の3つに思われる。

    1つは、高齢化。2つめは、非正規雇用。3つめは、雇用されている者のなかでの格差拡大(専門職vs労働者)。

    これまで、雇用統計の推移から、非熟練層が、自営業から非正規雇用に移っていったのが、この数十年の流れだと思っていた。それは、非熟練層を、経済的に、かなり厳しい状態に追い込む動きになる。

    それと、2000以降の企業の利益と労働分配のトレンドは、全体として労働者への分配を減らして、かつ、その中で、格差をつけて、出来る人間に厚く報いて、それ以外の人間の報酬を抑え込む企業のあり方があらわれている。

    アンダークラスが、ある割合に達すると、いつトランプ現象(あるいは、サンダース現象?)のようなポピュリズムに火がつきかねない。いや、今回の衆院選の維新の躍進をみると、日本ももうそのレベルに達しているんだろう。

    いずれにせよ、格差をデータで確認したい際、立ち戻る本。

  • サンデルさんの著作を読んで日本の格差の状況を詳しく知りたいと思い購読。格差社会、ワーキングプア、アンダークラスなど、格差を示す単語が広まったのは比較的最近のことで、ちょっと前まで一億総中流とか言ってたなあと思うが、考えてみると、歴史上格差がなかった時代なんてなかったわけで、貴族や武士が実権を握っていた時代は日本版カースト制度がキッチリ決まっていて、武士でなければ切られても文句言えない時代が何百年か続いていた。この伝統的な格差が一気に縮小したのが敗戦。農地開放や財閥解体により資本家層や華族の没落と小作人や女性の地位向上が進展。その後の高度成長で恩恵を受けた国民は多かった。また、階層間流動性も比較的高かった。ただ、80年代の規制緩和や新自由主義の台頭、90年台のバブル崩壊、就職氷河期、00年台にはフリーターや非正規雇用者の増大により、トップ層とボトム層の距離の拡大と、各階層の固定化が進む。これを助長したのが学歴偏重。2011年の大震災で格差の議論はやや収まるが(それどころではなかった)、冒頭に挙げた実感は、定着しつつある。小泉改革を格差拡大の最大の原因とする向きが強いが、それ以前から格差拡大と定着の傾向はあったわけだ。自民党支持層には「再分配否定派」が多く、配当や相続税減税、所得税の累進率軽減など、トップ層に優しい政策が支持されやすいこと、トップ層になりやすい高学歴層は他のイシューも含めて投票率が高いことなども明らかにしている。政治にとって投票しない人はいないのと同じ。さまざまな格差問題を議論する人は、少なくともこの一冊は読んだ方が良い。

  • 長期にわたる調査データを駆使して格差拡大の実態を描き出す。学者ならではの著作。格差拡大についての評価、認識の変遷についても詳しく、勉強になることがたくさんあった。

  • 東2法経図・6F開架:361.8A/H38k//K

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著者プロフィール

橋本 健二(はしもと・けんじ):1959年生まれ。早稲田大学人間科学学術院教授。専門、社会学。

「2023年 『階級とは何か』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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