- Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
- / ISBN・EAN: 9784311300363
作品紹介・あらすじ
首なし人骨は何を語るか、鎌倉古戦場の女性の骨の謎、伊達政宗の独眼竜の謎、徳川将軍たちはなぜ面長になったかなど、発掘された骨から日本史の謎を解明。
感想・レビュー・書評
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著者は東京大学名誉教授(当時)鈴木尚氏。
本書は、前書きにあるように『「骨」―日本人の祖先はよみがえる』の続編として書かれたものである。
遺跡から、或いは墓所から発掘された人骨を鑑定、復原することにより、当時の人びとの体型や生活の実際を解き明かす歴史書である。
『日本史』と書名にあるものの、最初に登場するのはイスラエルのネアンデルタール人の発掘記事である。したがってここは『人類史』『生活史』とでもすべきだったかもしれない。
沖縄県山下町洞窟から発掘された最古のホモ・サピエンスの頭骨に、人為的抜歯痕があったというのは実に興味深い。この人為的抜歯は北アフリカあたりに起源があるというが、研究は進んでいないという(P49)。日本においては、抜歯は弥生時代まで行われ、その後廃れたようだ。『魏志倭人伝』には抜歯の記事はないことから、このころにはその習慣はなくなっていたと言えようか。
神奈川県三浦市にある大浦山洞窟には、弥生時代中期の人骨が眠っていた。
これらの頭骨について著者は抜歯のあったことを書いていないので、この遺骨には抜歯はなされていなかったと見るのが妥当だろう。
けれども脳を取り出そうと頭骨を執拗に破壊しようとしていたり、骨髄を取り出そうと大腿骨などが割られていたりと、かなりの破壊行為があったようだ。これを著者は「細かく破砕した人骨は、犠牲者の霊魂がよみがえらないよう、骨片を個々別々に、洞奥に向って投げちらすとともに、一定の宗教的な作法にしたがって、食人の儀式をおこなったのであろう。その際、焼けた頭骨も発見されるので、大脳は生食ではなく、火食であったのではなかったか。」(P98)と推察する。
最も私の興味を引いたのは、伊達政宗、忠宗、綱宗の三公の遺骨調査である。
政宗には、戦国大名として鍛えられた肉体と、代々大名を務めた名家の出自による貴族的顔貌とがあった(P173-174)。ところが代を経るごとに肉体の鍛錬は疎かになり骨は細く、その代わり顔貌の貴族化はますます加速し、「伊達三公の形質のうち、顔型、眼窩型、鼻型、鼻根隆起など顔面の重要な形質は当時の庶民と甚だ異なり、むしろ程度の差はあるが全く血縁のない徳川将軍のそれと全く一致する」(P190)に至る。
当時来日した外国人によると、日本人には庶民の顔貌と貴族・上流階級の顔貌とは随分違っていたようであり、伊達家や徳川家のような上流階級の顔貌は、面長で鼻が高く、現代人よりもさらに「超現代人(P190)」であったという。
ひとつ気になったことは、新田義貞の鎌倉攻めの際に犠牲になった人びとの遺骨に、軟部(皮膚)を掻き取った痕があり、著者はこれをハンセン病の治療に死者の軟部が使われたと推測している(P150)ことである。業病の治療には主に、子どもの生き肝が効くと信じられていたことは、『今昔物語集』などにも見える迷信だが、果たして成人の顔の皮膚までがそれに使われていたのだろうか。死者の抜け毛を集めて鬘を作ることは『今昔物語集』に見え、芥川の『羅生門』にも登場することで知られている。著者の報告するのは「頭や顔の軟部(皮膚など)を剥がれたと推測される疵(P149)」であるから、剥ぎ取られたのは頭部のものに限られたようであることから、何か他の用途があったのではと思うのだが、どうだろう。 -
読み物としても面白いです。進化?退化?人の体はいろいろ影響されて変わりますね〜。
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解剖学・人類学の泰斗である著者が、古人骨から、生前の生活や死因を解明していきます。
文化的背景の解説などもあるので、歴史書としても充分楽しめます。
特に、弥生時代の日本人に「食人」の風習があったのではないかという指摘や、歴代の徳川将軍たちの顔の貴族化に関する考察は勉強になりました。
古い本なので、その後、新しい研究成果がたくさん出ているかと思いますが、興味のある方は是非。
解剖学の専門用語が多少出てきますので、わたくしのような素人にはわからない部分もありましたが、大筋の理解の妨げにはなりません。 -
形質人類学というらしいですが、歴史を語る上でその人物の骨ほど確かなものないと思いました。偉人でなくとも、その時代に何を食べてどのような顔をしていたかが具に分かる、というのは凄いです。伊達政宗の顔貌復元なども興味深い。