紛争の戦略―ゲーム理論のエッセンス (ポリティカル・サイエンス・クラシックス 4)

  • 勁草書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (321ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326301614

作品紹介・あらすじ

戦略的意思決定のメカニズムを解き明かしたゲーム理論・国際政治学の名著をついに完訳。核抑止、限定戦争、奇襲攻撃といった国際政治上の問題をつきつめて分析するとともに、交渉、コミットメント、脅し、約束など、人間社会に普遍的な問題を原理的に考える。

感想・レビュー・書評

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  • 3章の「フォーカルポイント」と「傑出性」
    についての洞察がきらりと光る1冊です。
    同概念は、ゲーム理論に多大な影響を及ぼしています。
    1960年に書かれたとは信じがたいほどの考察で
    Schelling大先生の慧眼に驚かされるはずです。

    ・「フォーカルポイント」とは、ざっくり言うと
     「ここでなければ、他にどこがあるのか」という、
     互いに譲歩可能なぎりぎりの点です。(本書pp.75参照)
     ・上記概念について、Kreps[2004,邦訳pp.217]は、
      MBA学生への調整ゲーム実施結果から言及します。
     
     ・また、同概念は、以下の理解を容易にします。
      「どんな妥協点を人々が受け入れるかは、
      彼らが自分自身の交渉力をどう評価するかに
      大きく依存している」(Sen.A[1970,邦訳pp.35])

    ・「傑出性」は、pp.83〜84をご参照下さい。
     同概念は、川越[2007]のサーベイにも傍証される
     ところと存じますので、併せてご参照下さい。

    「物語的に」よむのがおすすめです。
    1文が長いので、斜め読み向きではありません。

    非常に丁寧な翻訳のおかげで、
    「きわめて精密でしかも機知に富む」原文
    の雰囲気を味わうことができる良書である
    ということを付け加えさせていただきます。

  • 【書誌情報】
    著者 トーマス・シェリング
    河野勝 監訳
    ジャンル 政治
    シリーズ ポリティカル・サイエンス・クラシックス
    出版年月 2008年3月
    ISBN 978-4-326-30161-4
    判型・ページ数 A5・340ページ
    定価 4,180円(税込)

    2005年ノーベル経済学賞受賞・シェリングの主著をついに完訳! 核戦略の意思決定の仕組みを解明する、ゲーム理論の必読文献。
    https://www.keisoshobo.co.jp/book/b27258.html


    【簡易目次】
    第Ⅰ部 戦略理論の要素
    第1章 国際戦略という遅れた科学
    第2章 交渉について
    第3章 交渉、コミュニケーション、限定戦争

    第Ⅱ部 ゲーム理論の再構築
    第4章 相互依存的な意思決定の理論に向けて
    第5章 強制、コミュニケーション、戦略的行動
    第6章 ゲーム理論と実験

    第Ⅲ部 ランダムな要素をともなった戦略
    第7章 約束と脅しのランダム化
    第8章 偶然性に委ねられた脅し

    第Ⅳ部 奇襲攻撃:相互不信の研究
    第9章 奇襲攻撃の相互的恐怖
    第10章 奇襲攻撃と軍縮

      補遺
    補遺A 核兵器と限定戦争
    補遺B ゲーム理論における対称性の放棄のために
    補遺C 「非協力」ゲームにおける解概念の再解釈

    監訳者あとがき
    人名索引/事項索引

  • 31.19||Sc

  • 本書の著者トーマス・シェリングは2005年にノーベル経済学賞を受賞した。受賞理由は「対立と協力の理解を深めたこと」である。シェリングは4部構成の本書を、対立と協調の分析に充てている。第1部は交渉の「分配的な側面」の分析に焦点をあてていて、その結果を踏まえて第2部ではゲーム理論の拡張を試みる。第3部は戦略の「ランダムな要素」について、第4部は奇襲攻撃についてそれぞれ考察している。

    シェリングが注目した交渉の「分配的な側面」は2つある。1つ目は交渉力である。交渉を有利に進めるためには「信憑性のある脅し」が効果的だが、脅しに信憑性を持たせるのは難しい。なぜなら、脅しをかけた側自身が、交渉が失敗した後に脅しを実行する誘因を持たないからである。そこで重要なのが「自らを拘束する力(コミットメント)」である。自らの手を縛り、脅しを実行する際に判断や裁量の余地を可能な限り狭めておけば、脅しに信憑性を持たせることができる。例えば、攻撃の抑止としての脅しでは、「脅す側に最終決定権が完全に委ねられていない」ことが重要である(196ページ)。「交渉では弱さが強さになりうる」(55ページ)のである。

    また、脅しを連続する小さな脅しへと分解するのも有効である。例えば「全面戦争の脅し」ではなく「限定戦争の脅し」をかけることで、攻撃を抑止することができる。小さな脅しは実行しやすく、それによって「実際に脅しを実行する」という評判を作り出すことができる。自らの評判に訴えかけることは、コミットメントの強力な方法である(30ページ)。小さな脅しを作るためには、確率的な要素を取り入れる(混合戦略を用いる)ことも有益となる。「全面戦争がおこるかもしれないリスク」(199ページ)がこれにあたる。確率的な要素を取り入れることで、分割不能な対象物を分割可能なものに変えたり、異質なものを同質なものにしたりすることができる(182ページ)。

    2つ目は、合意がどうやって形成されるかについてである。シェリングが分析に力を入れたのは「暗黙の交渉」、つまり、当事者がお互いに会話できないような状況である。利害が完全に対立するような交渉を除けば(そして多くの交渉では実際に共通利益があるものだが)、共通利益のために彼らは行動を調整したいと考える。行動を調整するいくつかの手がかりをシェリングは「フォーカル・ポイント」と呼んだ。「類推、先例、偶然の配置、対称的・審美的・幾何学的な形状、詭弁的な推論、そしてだれが当事者であり、お互いについてそれぞれ何を知っているか」(61ページ)などはすべてフォーカル・ポイントである。フォーカル・ポイントによって行動を調整するには、「論理と同じくらいに」「想像力を」扱うことであり(62ページ)、「こうしたゲーム…は論理学者よりも詩人の方がうまく解決することができる」(62ページ)。シェリングが協調したのはいわゆる「男女の争い」タイプのゲームにおいて、フォーカル・ポイントが相対的に不利な結果をもたらすとしても、当事者はしばしばその選択肢をえらぶ。「合意する必要性が潜在的な利益の対立を押しのける」(64ページ)のである。

    シェリングの見方では、ゲーム理論はゼロサムゲームの分析において重要な示唆と知見をもたらした。完全な利害対立があるゼロサムゲームにおいて、当事者間での交渉は一切不要である。自分の戦略を相手に予測させないことが何よりも大事であり、当事者は単に「ミニマックス戦略」を選べばよい。このような「反コミュニケーション的」(109ページ)なゲームを分析するならば、「利得の数学的な構造以外の要素」(109ページ)は重要ではない。シェリングによれば、これこそが、伝統的なゲーム理論がゼロサムゲームを上手く分析できた理由である。

    その一方で、共通の利益が存在する「調整ゲーム」と「混合動機ゲーム」(非ゼロサムゲーム)の分析には、ゲーム理論はあまり役立たない。このような認識に立った上で、シェリングは、ゲーム理論を2つの方向に拡張することを試みている。1つ目は、脅しやコミュニケーションを明示的に分析することである。この点に関してシェリングは、元のゲームの利得行列を拡大するかたちで、「脅し」や「約束」などの行動を含むゲームを表現できる、と結論している(155ページ)。

    2つ目は、「期待の一致」をもたらす明示的・暗黙的な要素をゲームの中で扱うことである。
    「期待の一致」による行動の調整が求められるゲームでは、ゲームに関する詳細が結果に影響を与える(111ページ)。それどころか、「人々が…正しいプレイをするためには、影響されるべきだ」(102ページ)とさえ言える。混合動機ゲームを分析するにあたっては、過度に抽象化して数理分析に特化すべきではないとシェリングは警告する。数理分析において捨象された文脈にこそ、結果がどうなるのかを知る手がかりがあるからである。規範理論の命題は、事前的考察に基づく純粋に分析的な方法から導き出すことはできない。そこには「数理構造以上の何か」がある(167ページ)。

    奇襲攻撃の問題とは、いわゆる「囚人のジレンマ」である。戦争回避に大きな利益があるのに、相手から攻撃を仕掛けられる恐怖から先制攻撃してしまう。そして相手も同じ状況に直面している(215ページ)。さらに、奇襲攻撃への恐怖感が引き起こす「非合理的」な攻撃の確率が小さいうちはよいが、ある値をこえると攻撃回避から攻撃開始へと変わってしまう。「わずかなうたがいが、期待を増幅させていく」のである(216〜218ページ)。ここで注意すべきは、「同時決定」は本質的な問題ではなくて、逐次行動にしても結論は変わらない(225ページ)。実際、「ゲーム結果は手番の数から影響を受けない」(226ページ)のである。十分な反撃力が奇襲攻撃の問題を解決する。つまり、「軍縮は自体を安定的にいない」し、軍拡が必ずしも状況を不安定かさせることにはならないのである(245ページ)。これが「安定した『恐怖の均衡』」である(248ページ)。

    本書の内容についていくつかコメントを述べたい。まず、本書にはいくつもの利得行列が出てくるが、これらは必ずしも(現在の)ゲーム理論でいう戦略形ゲームを意味しているわけではない。利得行列はあくまでゲームの「結果」だけを表す道具として使われている。実際に、シェリングは同時手番だけでなく、逐次手番のゲームも分析している。

    次に、第5章においてシェリングは、元のゲームの利得行列を拡大することで「脅し」などを表現できると提案した。そしてこの提案は実際に現在のゲーム理論で実現されている。シェリングには十分にゲーム理論の道筋が見えていたと言えよう。

    最後に、補遺Aでは、限定戦争において核兵器が使用される可能性について論じている。核兵器に対しては世界的な嫌悪があるという「政治的事実」に言及した上で、シェリングは「核兵器を他の兵器と区別するのは、核兵器は他と違うという強力な伝統である」(268ページ)と主張している。つまり、伝統がフォーカル・ポイントとなって「核兵器が使用されない」という均衡が実現しているのだ、ということである。しかし、個人的には、やはり核兵器は他の兵器と実際に違うのではないかと思える。後遺症が違うからである。細菌兵器などが生物兵器禁止条約で禁止されているのと同じだと思うのだがどうだろうか。

    「本格的なミステリはすべてクリスティによって書き尽くされてしまった」と言ったのはたしかアシモフだったと思うが、やや大げさに言えば、ゲーム理論の重要なエッセンスはすべて本書に示されている(邦訳のタイトルはまさにそのことを示している)。シェリングの凄さを十分に感じさせられる本である。前書きにあるように、(ノーベル賞に値するアイディアを記した)「2つの章は、私がゲーム理論を知るようになる以前に書かれたもの」ならば、なおさらであろう。せっかく日本語で読めるのだから、ぜひ多くのひとに読んでもらいたいと思う。

  • ノーベル経済学賞のトーマス・シェリングの著。国際政治をゲーム理論に当てはめて、理論的にどう交渉ごとを勝ち進めるかということを説明しているが、なんとも難しい本でした。ちょっと油断するとわけ分からなくなるのでまあ疲れましたww

  • んー。ゲーム理論アレルギーを認識。「戦略」という言葉にしみついてしまった悪すぎるイメージを払拭したい。何かこう、四角い世界に閉じ込められていく感じですごく苦しい。
    こうすれば勝てるということを知るのはすごく大事だけど、こうしなければ負けるという世の中において生きていることが既に損得では-5000ぐらいな感じがする。これが紛争に参加しない「無関心層」が増えている理由の一つかも知れない。
    難しいな。。。。もっと無味乾燥で技術的な改善策はないものか。

  •  ゲーム理論による紛争理解の入門的概説書。古典的名著らしい。

     特にこれと言って、感銘をうけた部分はない。記憶にも特段残らなかった。

  • 331.19/Sc2 H

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著者プロフィール

トーマス・シェリング(Thomas C. Schelling)
1921年米国カリフォルニア州生まれ, 2016年逝去. 1944年カリフォルニア大学バークレー校卒業. 1951年ハーヴァード大学で経済学Ph.Dを取得. イェール大学, ハーヴァード大学, メリーランド大学で教授を歴任. 2005年ノーベル経済学賞受賞. 著書に The Strategy of Conflict (Harvard University Press, 1960) (河野勝監訳 『紛争の戦略』 勁草書房, 2008年); Micromotives and Macrobehavior (W. W. Norton and Co., 1978) (村井章子訳 『ミクロ動機とマクロ行動』 勁草書房, 2016年)ほか.

「2018年 『軍備と影響力 核兵器と駆け引きの論理』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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