「命令違反」が組織を伸ばす (光文社新書 312)

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334034139

感想・レビュー・書評

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  • 著者の論理展開は説得力あり、特に人間の合理性を前提とした考察はよく分かる。そもそも人間は、限定的にすら合理的に見えない場合もあるが、少なくとも組織における行動原理には合理性が伴うものとして読解が可能。非合理が許されるのは、オフの日における特権かも知れない。

    理論の立脚点は「効率性と正当性の不一致が生み出す不条理」「私的利益と社会的利益の不一致が生み出す不条理」が組織には内在するが、この不条理を打開する場合に、命令に従わぬ事が却って機能する事もある、という事だ。

    その論拠の一つとなるプロスペクト理論による限定合理性とは。レファレンス・ポイント、参照点により、人間が物事を認識し、評価する時に参考にする主観的な基準が働く事。その基準に対する損得を心理的価値とし、相対的利益・損失として評価。牟田口廉也のインパール作戦を挙げる。

    単に命令が無能であり、それを受けた側が更に広範囲かつ深い合理性、つまり有能な判断ができれば、違反が有効であるという話。そう言ってしまえば詰まらぬかも知れぬが、その無能と有能を事例でもって解き明かす。至近の多様性ブームにおける、労働者確保とは別の側面を垣間見る。合理性の範囲を広げる事が肝要。

  • 限定合理性の下での判断は試行錯誤を免れない。
    間違った方向に進むのをやめさせる解決策の一つは著者の言う「命令違反」だ。
    が、最終章に書かれているカント的組織であれば、命令の正しさについて忌憚のない議論が可能なはずであり、「命令違反」をせずとも軌道修正は可能だろう。

  • 「組織の不条理」と類似したテーマだが、インパール&ガダルカナルだけでなく、ペリリュー、ノモハン、ミッドウェー、レイテへとケースが増えている。

    また、プロスペクト理論を用いている点が新しく、インパールでプロスペクト理論を適用している点が新しかった。

    今回のケースを自分なりに分類すると、以下のとおり。
     良いペリリュー中川→現場が本部より「現実を理解」していたことが勝因
     悪いノモハン辻→既存の「組織文化を追求」したことが敗因
     良いミッドウェー山口→現場が上司より「専門性」を有していたことが勝因
     悪いレイテ栗田→「判断ミス・勘違い」が敗因

    したがって、命令違反が許容されるケースというのは、「状況や環境が変化し、既存の戦略、既存のケイパビリティ、既存の組織風土に基づく判断基準が通用しなくなった」だと言えのではないか。

    逆に環境が変化しているのに、旧来の価値観で命令違反を強行した辻のノモハンは状況が悪化したし、判断ミスにより命令違反をしてしまったレイテ栗田も、レイテの戦況を悪化させた。
    (本書を読んだ結果そう感じただけで、史実ではどうなのかは分からない)

    プロスペクト理論の「リファレンスポイントを移動させる」という点も勉強になった。

  • 人間は、完全合理的でない。したがって人間が完全合理的という前提での歴史解釈では理解できないもしくは、誤解することが避けられない。本書では、それを克服するために、行動経済学などの手法を使い、限定合理的な人間の行動原理を基にして、第2次世界大戦のミスオペレーションや、その逆の命令違反だが正しかったオペレーションの解説を行う。これにより、「良い命令違反」を定義し、それを行える組織となるように主張する。まさに慧眼といえよう。自分のミスオペレーションに目をつぶり、ひたすら上からの命令にYESを繰り返すマネージャー連中に、この本をささげたい。

  • 確かに例が長めだけれど、内容的にも分析の切り口が面白いし、とても納得感のある分析結果だった。確かにおすすめ。軽めなのでさくっと読める。
    上海出張でたまたま出会ったIさんから薦められた本で、アジャイル開発におけるチームビルディングの考え方の論拠になる、という形での推薦だったけど、それもさることながら、システムズアプローチのシステム思考の哲学や場作りの論旨などに近いものを感じて、ちょっとしたアハ体験をした。
    自分の理解では、全体として題のとおり組織論が論旨にあり、効率と利益の2軸について人間は完全合理性ではなく、限定合理性を持つ不完全なものであるという前提をもって「行動経済学」と「法の経済」の論理を用いて分析する構成になっている。ただ分析の結果、「ではどうやって命令違反をするのか?」の論述が弱いように感じた。なので星4つ。
    たとえば、組織として効率的ではない命令に対して効率性のある判断をした部下は、組織倫理的な正当性(つまり命令に従うこと)に従事するのではなく、命令違反をして効率性のある判断に従って行動することが必要という点と、そのためにそのような行動を起こすためのマネジメントや人間関係の構築のあり方は語られている(このあたりの論述にもシステム思考との一致性が見られる)が、どうやって「効率性」のある判断をするか、またそれが組織的に効率的かどうかを判断するのか、といった点はあまり深く触れられていないと感じた。
    おそらく、システム思考を引用すればメタ思考によって視点を引き上げることで組織として効率性とはどのようなものかを考え、最適解を模索するということが必要であり、さらにそれが効率的かどうかを判断するためにデザイン思考的にプロトタイピカルなサイクルを実践することが必要だと考えられる。(ざっくり)
    本書では批判的議論と暫定的組織の節でプロトなサイクルの必要性には軽く触れられている。

  • 本書は戦争時における命令違反を例にあげて、主張が述べられている。

    あまりにも事例が多すぎるので、全てを読む必要はない。

    ところどころに記されている行動経済学を取り入れた考え方などは非常に参考になった。

  • 命令違反という若干タブー的な題材を臆せず用いた本。
    良い命令違反、悪い命令違反というものを戦争での事象を用いて説明しており、戦争話も興味があった自分には結構楽しめました。特に「どう考えても非効率的なこと」でも実は人間の心理を元に考えれば客観的にも合理的だと判断できる理由の記述には大変納得。人の行動心理を考えるにあたって巡りあえて良い本でした。

  • 日本軍はなぜ過ちを繰り返したのか、本当に非合理的であったのかを分析。著者によると実は当人達は合理的に行動しているつもりだったそうです。一つの歴史の見方だなぁと感心しました。

  • 内容的には興味深いし面白いのだけど、同じ例が何度も出てくるので、もっと薄い本にしてもよさそう。

  • ト、2010.5.14-15

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著者プロフィール

慶應義塾大学教授

「2016年 『組織の経済学入門〔改訂版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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