住宅政策のどこが問題か (光文社新書 396)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334034993

作品紹介・あらすじ

借家から持家へ、小さな家から大きな家へ、マンションから一戸建てへ…。戦後日本では、住まいの「梯子」を登ることが標準のライフコースとされ、政府・企業はこのような「普通の家族」を支援し、そこから外れた層には冷淡な保守主義の姿勢をとってきた。ところが、時代が変わり(経済停滞、少子・高齢化、未婚と離婚の増大…)、さまざまな人生のかたちが現れ、「持家社会」は動揺し始めた。さらに、90年代末から住宅システムが市場化され、住宅資産のリスクは増大した。ローン破綻があいつぐ事態が、これから日本で起こらないとも限らない。本書は、グローバルな潮流をふまえたうえで、住宅システムの変遷を検証する。そして、日本社会が新自由主義から何処へ向かうべきかを考察する。

感想・レビュー・書評

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  • 社会

  • 365.3

  • 借家、マンション、一戸建てという住まいの「梯子」を登る標準コースを支援してきたが、複数のライフコースを中立的に支える政策に転換すべき。

    人口減少時代、既にできた住宅ストックを、豊かな社会のために活かせるはずなんですね。

  • 若くて貧乏な頃は狭い借家住まいでも、やがて家庭を持ち年をとったら一戸建てに住む、という住まいの「梯子」。戦後、高度成長期からバブル経済を通じて日本国民のマジョリティがイメージし、経験した住まいの「梯子」は経済発展に伴う自然現象ではなく政策によって陰に陽に強力に支援されてきたこと、バブル崩壊後のデフレ経済と新自由主義によってそうした住まいの「梯子」から落ちてしまう人、そもそも「梯子」に手の届かない人が増加し、これまでの住宅政策が機能していないことを様々な統計データを示しながら丁寧に示されています。

    これまでの住宅政策、とくに新自由主義以降の公的部門を市場原理にの部分は全く機能していないと断罪する著者は、新築住宅建設への補助など経済対策の面が強かったこれまでの住宅政策を、公的・私的賃貸住宅の充実、生活困窮者への家賃補助や非営利組織への助成など国民の社会権の実現に主眼をおいた住宅政策にすべきだと結論します。住宅政策は旧建設省・国土交通省が管轄するため、住宅政策の福祉的な重要性がみすごされてきた面は否めないのでしょう。人口減少期に入り、住宅過剰になっているのだから、適切な政策がうたれれば、住まいに困る人はいなくなると思うのですが。

    最近の、『売り上げはタイトルが9割』とばかりに奇抜なタイトルと薄い中身の跋扈する新書界隈ではめずらしく、地味なタイトルと実直な内容が逆に新鮮な良書でした。昔の新書ってこうだったよな~。いつからこうなった。。。

  • 持家社会は経済次元の「自然現象」として生まれるものではなく、人為のシステムによって構築されるものであり、そうであるがゆえに、どのような住宅システムを構築するかというのは社会的な選択の問題であるとの認識のもとに、持家社会としての日本社会の実態分析と今後の社会変化の展望を述べている。

    とくに、持家社会はけっして人々の全員に貢献するものではなく、特定のライフコースを歩む人たちに温かく、そこから外れた人たちに冷淡であるとの指摘は重要であると感じた。

    第2章において先進諸国の住宅制度の体系を比較しているが、その中で紹介されているジム・ケメニーの住宅システムの類型化が興味深い。まず、賃貸セクターを、政府・自治体・公的機関・民間非営利組織により供給される社会賃貸セクターと市場家賃により供給される民間賃貸セクターに分ける。そのうえで、社会賃貸セクターを残余化し、民間賃貸セクターから分離する政策を「デュアリズム」、両者を統合して賃貸住宅市場を作る政策を「ユニタリズム」と呼ぶ。

    デュアリズムを採る国は、イギリス、アメリカなど主にアングロサクソン諸国であり、ユニタリズムにはスウェーデン、デンマーク、ドイツ、フランスなどの諸国が該当する。日本のシステムはデュアリズムのものによく適合するが、企業セクターの福利厚生制度としての役割が大きいという点で、一般的なデュアリズムの諸国とはやや異なる。

    第3章においては、「ベビーブーマーとベビーバスター」、「若年層」、「女性」、「不動産資産所有者」について、豊富な統計データを用いながら、住まいの「梯子」の現状を分析している。

    それを受けて第4章及びおわりにで、これからの住宅システムのあり方に触れている。中でも「標準パターンのライフコースを前提とし、そこに援助を集中するのではなく、暮らしの実践が脱単線化している状況を踏まえ、複線のライフコースを中立的に支える必要がある」という点を軸に据えることの重要性が主張されている。

  • 住宅政策を特に問題視したことがなかったので、本書は非常に刺激的であった。

    高度経済成長期は、「一億総中流」の時代であり、政府の持ち家を推奨・支援する政策は成功していたかも知れないが、時代は既に転換期を迎えており、政策も改善が必要である。

    このまま持ち家が有利な社会を続けるのは得策ではない。というのは持ち家は、相続できるので富む者の子が有利であり、それにより格差の連鎖が起きやすいからである。

    富む者の子と貧者の子では、住宅面から言っても不利な状況にある。これは「機会の平等」とは言えない。

    多様性に寛容な社会を構築するためにも、持ち家を推進する政策は見直しが求められる。

  • 普通の人(会社に入って、結婚して、子供が出来て。)が、持ち家を取得するという『梯子』を登ることがスタンダードという戦後の政策が、時代が変わって、その梯子が崩れてきた。

    著者もあとがきに書いてあるように、住宅問題に対しての関心及び研究が今までおろそかになっていました。

    誰しも双六のゴールのように持ち家を持つのが当たり前と思っていたのに、改めてこの著作のように色々なデータをもとに多様化する社会を指摘することは大事です。

    かつ今後の住宅政策が持ち家を優先することなく、賃貸など違う形態にも力を入れるべきだと改めて感じました。

  • [ 内容 ]
    借家から持家へ、小さな家から大きな家へ、マンションから一戸建てへ…。
    戦後日本では、住まいの「梯子」を登ることが標準のライフコースとされ、政府・企業はこのような「普通の家族」を支援し、そこから外れた層には冷淡な保守主義の姿勢をとってきた。
    ところが、時代が変わり(経済停滞、少子・高齢化、未婚と離婚の増大…)、さまざまな人生のかたちが現れ、「持家社会」は動揺し始めた。
    さらに、90年代末から住宅システムが市場化され、住宅資産のリスクは増大した。
    ローン破綻があいつぐ事態が、これから日本で起こらないとも限らない。
    本書は、グローバルな潮流をふまえたうえで、住宅システムの変遷を検証する。
    そして、日本社会が新自由主義から何処へ向かうべきかを考察する。

    [ 目次 ]
    1章 住宅所有と社会変化
    2章 持家社会のグローバル化
    3章 住まいの「梯子」(ベビーブーマーとベビーバスター 若年層の住宅条件 女性と住宅所有 不動産資産の形成)
    4章 住宅セーフティネット

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 詳しくはブログで書いていますが、他にも2章に書かれていたジム・ケメニーの住宅システム論を用いて日本の住宅システムを相対的に位置づけたり、住宅政策と政治の関係なども非常に興味深かったです。

    住宅・住まい方について興味がある私ですが、基本的に考えることは都市計画というマクロ的視点から住宅をどうするかとか、住宅ストック流通の活性化をどうしたらいいかとかで「セーフティネット」として考えることはありませんでした。「所得をちゃんと得てから住宅をゲットすればいい」と捉えてきた。

    だけど、ライフスタイルの変化や雇用の変化によって持家取得が住み方のメインストリームではあり続けないだろうと感じるし、住宅の資産価値も下がり続けている中、もっと幅広く住宅を選択できる環境づくりの必要性を感じました。

    その一方で、住宅と土地を資産化すようと捉えている日本で借家がなじむのか、

    住宅政策の中央-地方の役割分担の状態や、民間賃貸への援助政策が新しくできていないかとか気になる(この本出たのが2009年3月で政権交代前だし)。


    新しい知見を得られたということで☆5つにしたいのですが、話が若干あっちこっち行って全体像がはっきりつかめにくかったので4つ。

  • ※読書前レビュー。
    安かった。笑
    Amazonで180円だったので、思わず購入。
    話しの内容はとても興味あり。
    築年数が経った住宅が豊富に揃い、持ち家社会が終わった現代をどのように乗り越えればいいのか?気になるところです。

    ※読書中レビュー。
    読み始めは難しめな単語が多くて、内容も取っ付き難い印象を持ったけども、読み進めていくうちにおもしろい内容に変わってきた。
    現在政府が推し進めている太陽光発電の設置と今までの住宅政策の考え方は同じなんだな。。。っと。
    自分がすでに知っている知識と過去の出来事がリンクしたせいか、この本に引き込まれてきてます。

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著者プロフィール

1958年生まれ。神戸大学大学院人間発達環境学研究科教授。専門は住宅問題・都市計画。主な著書に、『東京の果てに』『都市の条件』(いずれもNTT出版)、『住宅政策のどこが問題か』(光文社新書)がある。

「2020年 『マイホームの彼方に』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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