認知症の人の心の中はどうなっているのか? (光文社新書)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334043872

感想・レビュー・書評

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  • 読めば、優しくなれる本ではないか。認知症の人に対してだけでなく、すべての人に対して、である。

    本書においては、認知症とはどういうものか、認知症の人には世界がどのように見えていて、何が起きているのか?ということから、我々の目には奇異に映ったり、つい突き放してしまう、所謂「問題行動」の背景や、その行動に至る心の内、どのように接したら良いか?を解説する。
    読み通して、認知症とは、とにかく、孤独に追い込まれてしまいがちな、怖く、また、気の毒な病気なのだなと感じた。自分だけが違う世界に放り込まれてしまったような怖さである。
    特効薬もない現状では、本書のように、介護者や周りの人たちが認知症を理解し、相手の状況を考慮し、心情を想像し、工夫してコミュニケーションに取り組み、共に生きていくことが一番の支えなのであろう。
    冒頭に、認知症の人に対してだけでなく、と書いたが、様々のことを知ったうえで、相手の心情を想像しながら、共に生きていくこと。これは例えば障害を持つ人、子供を持つ人、老若男女、どの人に対しても重要なことである。過度で悪い意味の「個人主義」(自分さえ良ければオールオッケー)とでもいうべきものが蔓延している現代においては、相手に対する想像力、また、その想像力を働かせるためのバックグラウンド(教養)が特に重要な意味を持ってくると感じる。
    読書体験というのは、そういう、自分の知らない世界に生きる相手に対する想像力、そして教養を培ってくれるものである。
    本書を読んで、実にいい読書体験ができたと感じる。

  • 2022.6
    4章の認知症の人の苦しみを知るは、何度も読み返したい。
    以下は抜粋したもの。
    脳機能が上がることで、認知機能の低下をある程度防げるが、計算ドリル等に認められる効果は「認知機能の低下予防」であって、「認知症予防」ではない。
    また、「意欲障がい」が軽度認知障がいや、アルツハイマー型認知症の初期に典型的に起きる。

    …今まで楽しんでやっていたことも上手く出来なくなる苦しみは想像するだけで悲しいな。

    認知症の人は、自由が奪われた腹立たしさ、自己決定できないつらさが日常のすべてにわたって起こっている。
    介護者はどこまで、認知症の人の身になって、相手の気持ちを和ませながら、何度も同じことを告げたり、時間をかけて落ち着くのを待ったりすることが大切。

  • 借りたもの。
    認知症の傾向と診断方法、また認知症患者がどのような精神状態・思考をしているのかを客観的に言語化している。

    著者が書き出した認知症患者は、脳の機能障害と、長年生きてきた経験とプライドに板挟みとなりどうしていいかわからなくなっている人々の姿だった。
    著者は、当人もそれが判らなくなっており、かつ介助者をはじめとする他者に共感されないことを不憫に思っているように感じる。

    認知症の代表的な4つの原因である「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症(脳血管性認知症)」「レビー小体型認知症」「前頭側面型認知症」を解説。
    現在、その治療に用いられる認知症薬の種類を紹介。

    興味深い話が多かった。
    認知症患者のコミュニケーションに遠隔操作ロボットを使う試み。テレノイド( https://telenoid.co.jp/ )を介した方が認知症患者との会話が弾んだという……
    理由は個性が無い人形のため、認知症患者がイメージを投影しやすいこと、目に集中して他が気にならないことが理由という。
    認知症患者と接するときは、傾聴――相手の心の世界を理解し入り込むこと――が大事であること。

    若い頃に知的活動に親しむ…教育年数が長いと「認知の予備力(コグニティブ・リザーブ)」が増し、認知症になりにくくなるという仮説。

    後半は…介助現場で起こる苦悩。
    介助者との齟齬の理由を丁寧に解説していた。
    では具体的にどのように接すれば良いのか……それについて書いてはいない。認知症患者に寄り添い、傾聴を推奨している印象がある。……そんな上手くいかないようにも思う。ロゼット・マレスコッティ,イヴ・ジネスト,本田美和子『ユマニチュード入門』( https://booklog.jp/item/1/4260020285 )、『家族のためのユマニチュード』( https://booklog.jp/item/16/29287936 )を思い出す。言及されていない。

    医療・介護現場の問題も示唆されている。
    介護職員でさえ、介助に時間をとられ人間的なコミュニケーション(他愛ない会話など)を取る時間が取れないこと、認知症診断を一度取った後は改善傾向などの診断をとらないこと等、様々な要素の問題が山積している印象を受けた。

  • もう少し認知症の人が見える世界の感覚や
    心の中の世界が分かるかなと思いましたが
    少し期待よりは違った。
    でも、どういう風に感じるのかなどは詳しく理解する事ができた。

  • 認知症の人のもどかしさを知ることが、円滑なコミュニケーションを図る第一歩になる。

    認知症になると、怒りや失望、恐怖の感情は伝わりにくい。
    が、喜びや笑顔などのポジティブな感情は8割以上伝わる。

    認知症のコミュニケーションの特徴は、他者の心理を察して適切な行動をとることかできなくなる。(社会的認知の低下により)

    自己決定が次第にできなくなり、主観的な自己決定感も失われる。(自己決定できること=自律、主観的な自己決定感=自律性)


    認知症になると、自分だけで楽しい気持ちになることができにくくなる。
    テレビを見て楽しんだり、趣味や会話から喜びを拾い、自分で自分を楽しませられなくなる。

    まずは、笑ってみる!
    楽しいから笑うのではない。情動伝染を利用してみんな笑顔に、楽しい気持ちに!


  • 母が、若干認知症気味ということもあり、本屋でこの本が目に留まり購入してみたのだが、認知症を考えるうえで色々と参考になった。
    物事を思い出せないのが物忘れで覚えられないのが認知症であること、認知力が低くなると前例を変えたくないという思いが強くなり第一印象を重視すること、認知症を患っていても高学歴で考えることに慣れていると認知の予備力という認知症をカバーする思考パターンを自らつかみ取りはた目から見て認知症かどうか気づかないこと、寿命を延ばして健康寿命が延びるのはいいが不健康寿命も延びるということなど、これから自らも老後に入っていく際に意識しておきたいことが多々あった。

  • ●認知症のお年寄りとの会話。30分前に食べたご飯や、10日前の出来事を基準に話しかけてしまう。また比喩やシャレ、含みのある言葉などが分かりにくい。婉曲表現ができず、自分のして欲しいことをストレートに言ってしまうため「わがまま」だと思われる。
    ●日常会話式認知機能評価Candy。人は知能を試されると、プライドが傷つく。
    ●表情や口調と言葉が矛盾している場合、言葉によって相手を判断する割合はわずか7%で、38%は周辺言語から、55%は顔の表情から判断する。
    ●認知症になると、非言語コミュニケーション能力も低下する。
    ●遠隔操作型ロボット「テレノイド」となら会話が弾む。基本的に無表情で年齢を不明、男の子か女の子かも分かりません。
    ●アルツハイマーの人は周辺視の範囲がかなり狭くくる。横から出てきた自転車に気づかないとか、話しかけられても気づかないといったことが起こる。
    ●推測の域を出ないのですが、教育年数が長くなったこと(高学歴化)が原因で認知症の有病率が下がったのではないか。
    ●介護者主体の介護は、虐待の基準が甘くなる。

  • 久しぶりに実用書として手元に置いておきたい本に出合えました。
    ここまで深く認知症の人のことを考えたことはなかったので、頭をガーンと殴られたような感覚でした。

    認知症にも種類があり、また、同じ種類であっても人によって出現の仕方、行動パターンも違い、10人いたら10通りの認知症があるとは知っていましたが、当人たちの孤独、不安がとても伝わってくるようでした。

    私たちは、一般的に、認知症の症状を目にしても「困った行動だ」「何度も言ってるのに」という自分目線で見てしまいがちになりますが、反対に当人にとっては、どのような状況に置かれてそのような行動をとっているのか、ということが例を挙げながら詳しく解説されており、読めば読むほど、症状を抱えた人たちの気持ちに成り代わって自分の身を置いてみると、「こんな行動とっても仕方ない」「自分でもそうなるかも」と、相手目線に立つことができました。

    私たちが良かれと思ってやっていることも、実は混乱を引き起こす可能性があること、認知症があるためにあらゆる機能低下を引き起こしていると思うのは間違いで、関わり方によって、使っていなかった能力を引き出すことができるということも分かりました。

    周囲に認知症の人がいて、関わる必要のある人には是非一読していただきたい1冊です。

    私も、もしいつか家族が認知症になったら、読むよう勧めるため、そして自らが認知症になったら私にかかわる人たちにこの本に気づいて読んでもらえると嬉しいかな、と手元に置こうと思いました。

    何より必要とするのは、コミュニケーション。
    たとえ簡単な内容でも、会話をする、相手の話を聞くというのは、楽しく生き、心を許せる人が周りにいる、という安心感を与えることができるのですね。

  • 本文より抜粋。

     認知症になれば、運転に適さなくなります。しかし、長年運転してきた人にとって、車は単なる移動手段ではありません。社会人になって、初めて買った車。その車に恋人を乗せて行ったドライブ。失意の中、一人車を走らせた夜の道。子どもができて、家族で遠出をしたときのこと。さまざまな思い出が、車には詰まっています。(中略)車を運転できなくなるとは、自由を失うことであり、幸せの象徴を失うことでもある。

     老いとは、プライドとの闘いです。老いて弱っていく情けない自分と、人生の荒波を乗り越えて生き抜いてきた誇り高い自分。2つの自分の間で揺れ動き、引き裂かれそうになって、必死に闘っているのです。

     認知症の人と介護する人は、一緒にいるのに違う世界、違う現実を生きています。認知の違いがズレを生むのですが、このズレが、認知症の人のアイデンティティを崩壊させ、孤独にしていきます。
    (・物忘れなんてしない!あんたが財布を盗った!
    ・ここは私の家!私が責任を持って回してきた!
    ・こんな人たちと一緒に住むなんて!
     →周囲から批判されたり、指図されたりする。多勢に無勢でそのズレによる溝は埋まらず、患者の描くアイデンティティが崩れてしまう)

    かんそー。
    認知症の人の世界を尊重すること。
    そして彼らが何も自発的にできないと思うのではなく、まずは笑顔で接することから始めよう。それに同調して楽しくなってくれるから。そうすれば「認知症になった。これから私はどうなるの?」「上手く会話が出来ない」「この人は誰?」「ここはどこ?」という底知れない不安が少し、溶けてくれる。喜びの顔だけは、表情から心がわかりにくくなった脳にもちゃんと伝わるから。不安を取り除く、それが寄り添いの前提になるとわかった。
    とても不安なんだよな、孤独なんだよな。
    ちゃんと認知症の人たちが何をされたら嫌なのか、どうされたら嬉しいのかを学ぶ。「周囲」がそれを理解しようと努力する。まずは笑うこと。これならすぐにできる。でも続けることは難しいかもしれない。それでも、楽しいと感じる心を、人間は受け継いできたし、彼らが私たちにプレゼントくれたのだから、今度はこちらが笑って、彼らが笑ってくれるのなら、素敵だと私は思う。
    本文はもっと具体的な、事例に基づく説得力のある文章です。私のかんそーのような思想を爆発させたものではない(悪しからずご了承)。認知症に寄り添うための、温かく的確な知識が載せられています。是非、読んでみてください。



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著者プロフィール

大阪大学名誉教授

「2024年 『高齢期の発達科学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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