ルポ 人は科学が苦手 アメリカ「科学不信」の現場から (光文社新書)
- 光文社 (2019年5月21日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334044107
感想・レビュー・書評
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科学と、そうでないものの違いは、根拠があるかどうかだと思う。地球は丸い、生物は進化する、地球温暖化はCO2排出のせい、いずれも科学的な根拠がある。もちろん、現段階の科学の言っていることがすべて正しいという保証はない。新しい根拠が現れれば、理論に修正が加わることがあるだろう。その場合にも、根拠に依拠する理論であることは変わりがない。
科学を信用しないということは、根拠に基づく理論を信用しないということで、そういう人は逆にいえば根拠のない説を信じているということだ。そういう人の気持ちがどうも理解できない。
アメリカでは進化論と並んで創造説(神様が世界と生き物を作った説)を学校で教えるところがあるそうだ。キリスト教徒でない生徒にはどうするんだろうと思いつつ、考古学や生物学、地質学との矛盾をどう説明しているのだろう。ちょっと授業を聞いてみたくなった。
アメリカは科学技術の本家本元だと思っていたが、科学を信じようとしない人は想像以上に多いらしい。アメリカの科学技術をドライブしているのはそうではない人たちなのだろうか? 国の中で科学を信用する人としない人が分断されているのだろうか? 政治的信条(リベラル寄りか保守寄りか)で科学の信用度が異なるというのはちょっとびっくりした。
著者は科学ジャーナリストで、科学を啓蒙する立場にある人だが、科学を信用しようとしない人たちに根拠をいかに詳しく説明してもだめだ、ということに気づいたそうだ。しかしほかにどんな方法があるのだろう? 科学を、根拠以外の方法で説明しようとすること自体、科学の方法から外れている気がする。
ワクチン悪玉論にしろ、地球温暖化の懐疑論にしろ、そう思っているひとがいる、というのは理解しているし、それ自体は不自然なことだとは思わない。そういう主張をする人にはそれなりの根拠があるようだし、人は信じたいものしか信じない、というのもまた真理だろうと思うからだ。しかしそういう考え方がメジャーになってくると話が違う。ぼくがトランプが大統領になったことにショックを受けたのは、陰謀論や根拠のあやふやなことを平気で話す反知性的な人物が、アメリカ大統領になっちゃったからだ。おそろしい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
アメリカの科学不信が想像より深刻でビビる本。なんと、アメリカ国民の半分が進化論を支持していないらしい。
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写真が多く使われるが、意味のある使い方とは思えない。私が行った、私がインタビューした、私が取材したということを強調したいだけに思え、中身には影響がない。ノアの方舟を再現した博物館の写真は興味深く、こうした使用は意義があると感じた。同じテーマを学者が語れば面白いのかもしれないが、取材に行って話を聞いた、考えさせられた、というレベルのまとめなので洞察を得ようと思っている人には勧められない。
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新聞記者の筆者が米国駐留時代におこなった様々の取材を通じて見えてきた「科学がなぜ受け入れらないか」をテーマにしたルポタージュ。
「科学を受け入れていってもらうためには、科学の正しさを主張することではなく、相手に歩み寄って理解しようとするコミュニケーションが必要なのではないか?」
ざっくりいうと、これが筆者が見聞きしてきた現場から導き出された知見である。
これは非常に重要なことだ。
今日の世界が、科学の恩恵なしには成立していないことは、明らかなる真実である。ゆえに、科学を理解することは現代人の当然の義務であるように思われる。私自身も、そのように考えてきた。
そのようなスタンスの人からすると「反科学」的な思考を持つ人のことは、文字通り「理解不能」である。
本書では、2つの事例を取り上げている。1つは「進化論(と創造説)」、もう1つは「地球温暖化(とその否定)」。
今日、科学が明らかにしている中では、進化論、すなわち現生人類含めたあらゆる生物が、はるか祖先の生物からの変異によって進化を遂げてきたことは確定している。また、地球温暖化が進展し、異常とされる事象が起きつつあることもほぼ確定している。
したがって、たとえばそれらを認めない人には「反科学」というレッテルを貼ってしまいがちだ。
だが、この科学-反科学という対立構造こそが、現代の分断につながっている可能性があると筆者は指摘する。
トランプ大統領という、まさに「科学的な正しさはどうでもいい」というリーダーが投票によって生まれてしまったことも、この分断が関係していると見ている。
それこそ地球温暖化などは顕著だが、問題の解決のためには、世界人類のなるべく多くの割合の人が、問題の存在を認め、解決に向けた手段を取ることができる状況を設定することが欠かせない。
それなのに「科学」の立場にいる人が「反科学」の立場とほかの人たちをくくり、それこそ上から目線で「おまえたちがちゃんとしないのがいけない」と言っていたらどうなるだろうか。言われた側は、怒り、より拒絶を強めることが目に見えている。そして問題解決はますます遠のき、科学派だろうがなんだろうが関係なく、皆が不利益を被ることになる。
本書にも触れられているとおり「サイエンス・コミュニケーション」とは、科学の良さを一方的に伝えるだけでは、分断されていく状況下ではほとんど効果がない、というよりも逆効果になる可能性が高い。
そうではなく「相手の立場に立って、理解しようと努力しつつ、相手に合わせて共感を引き出す形で、情報が伝わるように届ける」。発信ではなく、対話的なサイエンス・コミュニケーションが必要になっていると考える。
科学に限らず、これは多くの領域に関して言えることかもしれない。正しさを主張して押し付けるのではなく、傾聴の姿勢から入り、新たな理解を共に作っていくこと。憎き敵を倒すのではなく、合意を育てていくことを楽しむ。
科学への反発はひとくくりにできるものではなく、テーマによって違う。同じ人がすべてのテーマで反対しているのではなく、 テーマごとに違う人たちがそれぞれ異なる理由で反対している。
ミルスタイン教授は指摘した。
「『科学への戦い』があるのではない」
「科学への戦い」という見方をしている限り、それぞれのテーマ で科学に不信感を持つ異なる人たちをひとくくりにして、「科学」の「反科学」の構図を生み出してしまう。ミルスタイン教授はこう提言した。「私たちはテーマごとに、反対している人たちの思いを聞く必要がある。それぞれの人たちと話をして、理解しなければならない。それは易しいことではないし、うまくやる方法が今あるわけでもない。しかし、その目標に達するために、まずは『科学への戦い』という言葉使いをやめる必要がある」
pp.220-221
★★★★☆ 4/5
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ルポ 人は科学が苦手 アメリカ「科学不信」の現場から (光文社新書) (日本語) 新書 – 2019/5/21
三井 誠 (著) -
真面目に分かり易い本でした。
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h10-図書館2021-1-8 期限1/22 読了1/10 返却1/11
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地球温暖化を疑問視したり進化論を拒絶する人が米国には多い。その理由は「科学リテラシーの欠如」ではなく、個人の価値観や信念にある。そのため、科学的な事実を事実として伝えるだけでは、人々を事実に至らしめる事はできない。ではどうすれば良いか。本書による答えは、相手を尊重し、共感を得るように伝えること。伝え方が大事だということだ。
本書は米国での多方面への取材を通じて、「反科学」が醸成される仕組みを分かりやすく説明する。その上で科学の伝え方についての新しい動きを紹介する。著者は新聞社の科学記者だけあり、説明が分かりやすい。本文に添えられた写真やイラスト、グラフも大いに参考になる。 -
なぜ「トランプ信者」が生まれるのか、その背景を説明する本。知識が増えるほど分断が拡がること暗澹たる思い。自分は科学もミュニケーターたり得るであろうか?
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純粋に面白い。
データと現場の声が交互に提出されることで、数字にリアリティが持てるようになる。
アメリカの近代史を政治と宗教の関係から読み解く一冊。
日本にしか住んだことのない日本人からすると、文化人類学的な読み方も出来る。
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公共の交通機関が皆無のアメリカのド田舎に留学経験がある私としては正直、トランプ大統領が誕生した時は何の意外性も感じなかったんですよね。。。この本で書いている通り未だに進化論を信じてない人が多くいて、その様な人達が通わせる学校まで存在しているんですよ。留学していたのは20年位前なので、その当時と変わっている事も多い筈ですが、キリスト教をベースにした行動規範や思想は変わらないんでしょうね~。著者の主張する通り、科学に対するリテラシーを持ちつつ、意見の異なる人と平和的に議論出来れば良いですね。