データ管理は私たちを幸福にするか? 自己追跡の倫理学 (光文社新書)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334045791

感想・レビュー・書評

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  • セルフトラッキングのツールが巷に溢れているが、人間が「わかっていてもできない」ダメな存在であるから、それらは人間を補完するツールとして価値を持つものであり、依存せずうまく使っていけば良いということ。
    結論には普通に賛成だが、これだけのことを言うために、敢えて突っ込みどころ満載の批判的意見(自己責任論を強調する、測定すなわち管理につながる、他者との関係が道具的価値を持つようになる、結局支配される、能力を失う)を紹介したうえで、これに対する反論(要するに「いい加減でうまくやれ」)を長々と述べていて、少し飽き飽きしたので星2つ。

  • 背ラベル:007.3-ホ

  •  人間を取り巻く情報。それらはどのように本人が利用できるのか。どんなリスクがあるのか。

     そこにはどんな配慮が必要とされるか。

     本書は豊富な引用と事例をもとにそれらの問題を浮き彫りにする。

     「高く飛ぶな。しかし、低くも飛ぶな」はイカロスに与えた、父ダイダロスの言葉、という。この言葉の通り、恐れず、しかし軽視せず、対応していく、ということなのだろう。

  • 人はそもそもダメなものゆえ、トラッキング技術を使ってよりよい人生を送ろうという視点には気づかされることが実に多かった。

  • アクラシア=自制心がないこと、意思が弱いこと。2種類に分けられる=葛藤しない人(性急な人)、欲望に負ける弱い人。これが習慣になっている人。
    習慣とは長い時間をかけた練習であり、人が自然ととる態度(自然本性)となるもの。
    自己欺瞞(言い訳、開き直り)によって助長する。
    スマホは、アシスタントとしての機能を果たす。

    良い人間の在り方を論じないで、良い人間になるべき(自省録)。
    ヘルスケアアプリの継続率は2日目には30%、7日目には20%、1か月後には10%。

    ソクラテスは文字が思考力や記憶力認知能力などを退化させるのではないかと危惧している。スマホによって漢字を憶えなくなるのと同じ。

    今の日本では、健康管理が自己責任化されている。病気になるな、だが長生きもするな、と言われているようなもの。=社会に迷惑をかけるなという趣旨。

    コンピュータ適応型テスト=解凍時間に関するデータを収集することで不正を検出する。
    時間制限のある試験は、適性や知識ではない能力を測るもの。アメリカのいくつかの州は司法試験や医師国家試験などで、時間制限を課さないものもある。

    地域ポイント制度(介護ポイントなど)=ボランティアに内在する価値を変質させる。義務論でいえばポイントに交換、はおかしな制度だが、功利主義なら合理的。

    girls around me 周りの女性のプロフィールをFACEBOOKのデータで閲覧できるソフト。ストーカーアプリとして批判された。
    GPSの活用によって、エスキモーがクレバスを避ける技術を失い危険が増えた。

    監視カメラによってみられている可能性があると、自ら正しくふるまうように促す。監視カメラの客体になることで道徳的主体に変容せざるを得ない。スマートウォッチなどのセルフトラッキング技術はその傾向を助長する。

    自立とは依存しなくなることではなく、依存先を増やすことが自立。生きていることは他者のおかげである。他者とは技術やインフラを含む外部を指す。

    バイアスを除くことは間違いを認めることと同意であり心理的な負担がある。
    適切な修正は難しい。認識的パターナリズム=認識上の間違いに対して他者の行動を制限することでま間違いを生じなくさせること。
    パターナリズムとは、シートベルトの着用、ドラッグの禁止などで、個人の自由に干渉すること。

    ナビよりウエイファインディングで、町中の目印を一緒に伝える。


    自制心のなさは、アクラシアとして知られていたが昨今は自己欺瞞もこれを補強している。
    高く飛ぶな、しかし低くも飛ぶな。
    行動を促すのはアラーム機能が得意とするようなもの。
    アラームによって、認知タスクを減らす。

  • 自己追跡(セルフトラッキング)について様々に書いてあるものであった。これを専門として卒論が書けるかどうかはわからない。

  • 一般的にテクノソリューショニズムはカント的な自由や自律の観点から否定的に語られがちだが、本書はフーコーやマッキンタイアに言及しつつ、「依存先を増やしていくことこそ自立」という医師の発言も用いて、人間と技術の間にも「関係的自律性」が可能であると肯定的に評価する。そして、道徳性を補完し向上させるテクノロジーとして「ソクラテスAI」の活用を唱える。ここで問われるのは技術者倫理であるが、設計者まかせにすることなく民主的なフィードバックをすればよいとしている。
    ここで懸念されるのが、このフィードバックシステムは果たして機能するのだろうかということである。AIによって生成されたある特定の道徳観が植え付けられ洗脳されれば、フィードバックすらさせないようにコトントールすることも可能になるのではないか。そもそも各文化圏毎に何らかの規範や道徳観のようなものがあるとしても、それが未来永劫正しいとも限らないし、従わなければならないということもない。また、道徳指南されるAIとは別のチャネル(宗教や古典や歴史観等々)がなければ多様性も確保できずフィードバックも不可能であり、結局はここに矛盾が生じる。この辺は民主主義に関わる問題でもあるが、気を付けないとプロパガンダによる大衆操作と同じように、独裁者が全体主義的に活用する懸念もあり、それは歴史上繰り返されてきたことである。
    ダメな自分を技術によって改善し、One for all,All for oneの精神で社会もより善くしていこうという著者の主張には興味深い点はあるものの、人間と技術の構造的な関係性だけではなく、その中身や機能や運用まで科学哲学的な観点からもう少し深く掘り下げて考える必要があるのではないだろうか。

  • 日記や認知行動療法に代表される旧来のやつや、いまどきの行動分析学や各種アプリによる「セルフトラッキング」や自己データ化みたいなのには私もとても興味がある。この先生もいろいろおもしろいことを考えているみたいだけど、話題はぞろぞろ出てくるけどまだこれから、っていう感じ。

  • 途中で飽きてギブアップ。
    スマホなどでデータを収集することに恐怖を感じている人たちに悪いことばかりではないんだよということを言いたいらしい。ただ、哲学などの難しい話が延々と続くので肝心の恐怖を感じている人たちにこの本の内容は届かないと思う。

  • 『データ管理は私たちを幸福にするか₋セルフトラッキングの倫理学-』 堀内進之介

    昨今、Apple Watchの流通により、よくもわるくもセルフトラッキングというものが一般化しつつあり、さらにはこれらのログが様々な場面でかつようされつつあるが、これらは私たちの生活を豊かにするのだろうか、という問いに対して、様々な批判を考慮して検討してい本書は、興味深かった。
    特に、私が身を置いている業界では、健康経営、人的資本の開示、ESGなど、これまで管理や開示の対象とはなされていなかったデータやログの開示や把握がトレンド化しつつある。こうした流れも、トラッキングやログ管理を射程範囲とする本書と親和性が高いのではないかと手に取ったが、本書はより本質的かつ倫理学的な側面からの検討であり、参考にはなるものの直結はしなかったというのが率直な感想である。しかしながら、単純な読み物として、非常に面白い。このようなセルフトラッキングが常態化した中で、筆者は「定量化された自己」「定量化された関係性」などの新たな術語を使用して、これらの功罪について検討していく。特に批判として考えられる①新自由主義化(セルフトラッキングできるのだから、自己責任で管理せよ。)➁測定₋管理化(定量化できるものばかりが重要視されること、また、定量化できないものが等閑視される)③交換-互酬化(アンダーマイニング効果が働いてしまい、評価されないことは行われなくなってしまう)④市場-商品化(GAFAなど、特定の企業が認識世界を独占してしまい、それらに依存せざるを得なくなること。そして、選択肢がそもそも狭まってしまうこと)⑤依存₋能力退化(依存した結果、そららを行う能力が失われてしまうこと)の5つを一つ一つを吟味していく。大方、批判はこのようなセルフトラッキング技術が我々の自由な行動や認識を狭めてしまうことを中心に展開されているのだが、筆者が章の最後に「そもそも我々の行動や認識は現段階で自由なのであろうか」というもう一段階議論を進化される問いかけをするところが、個人的には盛り上がった。その次の章で、フーコーを引いて、自由か否かと言う問題を吟味するのだが、外部との関係によって、促進、助成される自律性(=関係的自律性)という概念を持ち出して、議論を進めていくが、個人的な本書のハイライトはこのあたりであった。

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著者プロフィール

首都大学東京客員研究員、現代位相研究所首席研究員/政治社会学・批判的社会理論

「2018年 『談 no.112 感情強要社会』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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