双月城の惨劇 (光文社文庫)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (587ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334741778

感想・レビュー・書評

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  •  パリの敏腕予審判事シャルル・ベルトランが探偵役を務めるシリーズの1作目。そもそも,ジョン・ディクスン・カーのアンリ・バンコランが活躍するシリーズのパステーシュとして書かれたものとのこと。シャルル・ベルトランシリーズも,その元ネタとなるアンリ・バンコランシリーズも知らなかった。かなりのミステリを読んできたと思っているのだが,それでも,まだまだ知らないことが多いなぁとかんじてしまう。
     舞台は1931年のドイツ。ライン川沿いにあるエールシェレーゲル城に,恩師のノイヴァンシュタインに,本作のワトソン役であるパトリック・スミスが招かれるところから物語は始まる。雰囲気は,まさに古きよき時代の本格ミステリ。このエールシュレーゲル城の満月の塔にある密室状態の満月の部屋で,エールシュレーゲル城の当主であるマリアのものと思われる首なし死体が見つかり,マリアの双子の姉であるカレンが行方不明になる。これはもう,まさに本格ミステリ好きが喉から手が出るほど欲しがる,幻想的な謎というヤツである。この謎を解明するために,探偵役のベルトランとベルトランのライバルであるフォン・シュトロハイム男爵が挑む。
     物語は進み,エールシュレーゲル城にあるもう一つの塔である新月の塔の新月の部屋で,マリアに求婚をしていた,エールシュレーゲル城の馭者夫婦の息子だったハリウッド俳優のラインハルトの死体が見つかる。新月の部屋も密室であり,ラインハルトの死体は首が切断されていた。
     続いて,エールシュレーゲル城の満月の塔の螺旋階段の途中で映画監督のトマソンが殺害される。そして,エールシュレーゲル城の女中であるフリーダが,カレンが着ていたドレスを着た状態で,中庭に墜落しする。
     かくして,2つの密室での殺人事件を含む4つの死の謎を解くことになる。もっとも,フランスきっての予審判事であるベルトランと,ベルトランのライバルで,ベルリン警察の主任警部であるシュトロハイムがいる状態で殺人が繰り返されるのはどうかとも思うが…。
     で,ベルトランによる謎ときが始まる。真犯人は,なんとシュトロハイム。殺人事件の捜査責任者がはんにんというのは,かなりの意外性だが全ての事件の犯人が
    シュトロハイムだったわけではない。
     マリア殺人の犯人はカレンだった。マリアは満月の塔ではなく,カレンの部屋で事故に近い形で死ぬ。カレンは,マリアが妊娠していたという事実を隠すために,カレンのふりをして満月の塔に入り,ギロチンのような構造をしているという満月の塔を利用して,自らの首を切断する方法で自殺をする。フリッツとコネゲンというエールシュレーゲル城の使用人の2人は,カレンのこの自殺に協力をしていた。
    【マリア殺し】 
      カレンによる殺害。ただし,過失致死。マリアはカレンのふりをして,満月の塔の構造を利用して自殺。自殺を他殺と偽装するためにフリッツとコネゲンが協力
     シュトロハイムは,カレンとマリアの父親だった。カレンは死ぬ前に伝書鳩を利用してシュトロハイムに事情を伝える。シュトロハイムはラインハルトに復讐をするために,この事件の捜査責任者になる。
     シュトロハイムがエールシュレーゲル城に来るのが初めてではないという伏線はある。シュトロハイムはマリアとエレンの死の原因はラインハルトにあると考え,ラインハルトを殺害する。このトリックは投石機を使ってラインハルトの首を新月の塔の新月の部屋に投げ込むという物理トリック。更に滑車を使って甲冑の中に入れたラインハルトの死体を部屋に運び込む。またしてもコネゲンとフリッツが犯行に協力。
     映画監督はマリアとカレンの入れ替わりに気付いたために,シュトロハイムに殺害される。トリックは二輪馬車の車輪を螺旋階段で転がして轢くというもの。フリーダは自殺。
     という訳で,シュトロハイムのラインハルト殺しはやむを得ない事情もあるが,トマソン殺しは自己の保身のためなので,どうかと思う。
     ベルトランはシュトロハイムの罪を暴かず,シュトロハイムが死んでからパトリック・スミスがこの作品を世に出したという形で真相を明らかにした…というオチ
     感想としては,密室の謎の真相が城と塔の構造を利用した壮絶な自殺であるという満月の塔のトリックはそれなりに面白い。あと,殺人事件の捜査責任者が真犯人という意外性も評価したい。反面,コネゲンとフリッツという2人の使用人が共犯者という真相は減点。共犯者はよくない。共犯がありなら,何でもありになってしまう。新月の塔のラインハルト殺しの物理トリックもさほど面白いと思えない。投石機と滑車って…。バカミスといほどバカでもなく,これだけだと駄作だろう。フリーダの自殺に至っては,悪戯に物語を盛り上げるために死んだようなものである。作者の都合という感じか。これは蛇足だろう。
     雰囲気がいいのと,真犯人の意外性は文句なし。トマソン殺しとフリーダの自殺をなしにして,新月の塔のラインハルト殺しをもう少しましなトリックにしていたら傑作になれたか。しかし,それだと全く別の作品になってしまうか。竜頭蛇尾という感じで,物語の雰囲気,魅力的な謎に比べ,マリア殺害のトリック以外のトリックがイマイチになっている。
     とはいえ,この作品の雰囲気は好き。あと,真犯人の意外性は評価したい。嫌いな作品ではない。ただ,雰囲気や設定はいいけど,文章がいまいち。幼稚。よくも悪くも新本格といったイメージだ。

  • 3+

  • 気になっていたのですが機会がなく…手に入れたときは訃報を聞いたときでした。思いっきり本格の古典ミステリ。どうも既視感があると思ったら、元はカーのバンコランのパスティーシュだったそうで、そのまま置き換えても違和感がありません。ああ、ミステリを読むってこういうんだったなと思い出させてもらえるようなガッツリ本格の密室とか密室とか密室とか…。ちょっと冗長に感じる部分はありますがよく練られていてトリックには感心します。ただ結末は私も、えっ?となりました。残念ながらもう作品は増えないのでゆっくり続きを楽しみます。

  • 不可解な密室殺人事件、首なし死体、双子の美人姉妹、探偵役同士の対決など本格のガジェットが満載で魅力的です。『満月の部屋』の事件は、犯人の動機と城の構造や因縁が融合した素晴らしいトリックでしたが、それ以降の事件はあまりいただけない真相でした。
    それでも、内容は処女作とは思えないくらいよく作りこまれていたので感心しました。全体的に見ればかなりの良作だと思います。

  • シャルル・ベルトラン・シリーズ

    知り合いのノイヴァンシュタイン博士からの手紙。双月城と呼ばれる城に滞在する映画のロケハンチームと城の住人の間の不穏な空気。ドイツの双月城にむかうパット・スミス。映画スターで元双月城の使用人の息子であるライハンルトと城主の1人マリア・エールシュレーゲルの婚約と妊娠。血筋を重んじる姉カレンとの対立。密室の満月の塔で殺害されたマリア。首と手を切り取られ焼かれた遺体。ロッキングチェアーの前に膝まずく遺体の謎。消えたカレン。到着ししたベルトランと宿敵であるベルリン警察主任警部シュトロンハイム男爵。新月の塔で首を切られた状態で発見されたラインハルト。騎士の甲冑を着た胴体の謎。何か事件解決のカギを握った映画監督トマソンの死。事件直前にカレンらしき人物の姿を目撃し何者かに殴られたパット。使用された2本の剣の秘密。パットに何かを告げようとした夜転落死したメイドのフリーダ。カレンの服を着、鬘をかぶった遺体の謎。ベルトランの推理。エールシュレーゲル家の秘密。

  • 開拓ということで 帯のアオリも凄かったので以前購入してみた^^

    ・・途中までで読んで止まってる (^^;;

    いつか続き読む日がくる・・・ かも?

  • ドイツの古城、双子の美少女の当主、中世の伝説になぞらえた殺人事件。

    あらすじの単語だけで読む前から期待大でした。
    そして、読んでみたら期待通りでした!

    次々と起こる殺人の犯人は誰なのかと、
    主人公と一緒になってハラハラし、
    最後の真相には、あっ、と驚かされました。
    さすが、舞台が古城だけあって、トリックのスケールが違います。

    久々に、スケールの大きく面白い推理小説を読めて、大満足でした。

  • 文体は少年向けではないですが、おどろおどろしい内容やゴチックな雰囲気がポプラ社のルブランや乱歩物をおもいださせて楽しく読めました

  • 2007年9月18日読了

  • 2007/4/26読了。古城、密室、名探偵とそろったおなじみ本格推理。

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