椿姫 (光文社古典新訳文庫 Aテ 2-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (463ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334753702

感想・レビュー・書評

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  •  帯には「フランス恋愛小説不朽の名作」という文句。読んでみると、なるほど超ド直球の純愛モノで、ここまで感情に訴えてくるものを古典で読むことになるとは思わなかった。

     時代は19世紀中葉、ナポレオンの時代も終わりブルジョア階級にとっては豪華な暮らしができたころのパリ。<わたし>は、高級娼婦マルグリットの遺品が競売にかけられている場面に遭遇する。何故かもわからぬまま一冊の本を落札したところ、マルグリットにその本を送った男アルマンが<わたし>のもとを訪ねてくる。そして彼の口から、アルマンとマルグリットの悲しい恋の物語を聞くことになる・・・そんな話。

     まず印象的だったのが、当時のフランス社会における高級娼婦というものの立ち位置。日陰者の職業という暗黙の認識は当時も今もそんなに変わらないかもしれないが、偏見というか蔑視の強さはやはり当時の方がすさまじいようだ。第一帝政が終わり保守が強まった時代背景も相まってか、著者がこれでもかというほどにマルグリットを擁護する。娼婦を美しく、気高く描くことが、当時どれほど難しく、また例外的なことであったか想像に難くない。文中でも、娼婦は「間違った道」であり、「改悛させる」べきものと書かれている。

     また、ヒロインであるマルグリットは確かに美しく描かれるが、金はじゃんじゃん浪費するわ、いざ貢いでくれた男はぞんざいに扱うわで、少なくとも現代の視点から照らせば悪女的な側面もあるだろう。とりわけ前半に見られる彼女の負の側面(マゾヒスティックな考え方をすれば正の側面にもなろうか)は、冒頭で物語が悲劇であることを明言されるのと相まって、破綻の色をますます濃厚なものにする。
     なお、脱線するが、結末の提示、一見うまくいきそうな雰囲気、そして破綻と絶望・・・というストーリー展開は、『火垂るの墓』『グレート・ギャッツビー』『嵐が丘』など、自分が読んだだけでも結構あてはまる。これ、見方によってはネタバレとも言えるのだけど、物語の牽引力は強いものばかり。読んで結末が変わるわけでもないのに、どうして惹かれるんだろうな。

     本作においては、他の登場人物も交際はやめておけとさんざん助言するくらい、二人の恋には希望がない。マルグリットの体調が回復の兆しを見せ、二人で幸せな生活を送るシーンなどは、これから来るであろう絶望を大きいものにするためにわざと吊り上げているようにすら見える。
     ヒロインをこれ以上ないくらい素晴らしい女性として描き、そして破滅させる・・・ここまで惨い仕打ちを作者が行うのは、もしかするとモデルとなった女性に、陰でなく日の当たる場所で人々の記憶に生き続けてほしいという願望があったからなのかもしれない。ヒロインが娼婦であることに関するくどいほどの予防線も、そうした理由なら腑に落ちるし、途中冷めた眼で読みつつも、気が付けば物語に飲み込まれてしまうのも、そうした作者の情にほだされてしまったのかもしれない。

     その他、マルグリットとの突然の別れで壊れてしまい、復讐の念に駆られてしまうアルマンが個人的には印象的だった。悲しみの大きさ、自尊心の傷付き、さまざまな想いが正常な判断を狂わせてしまう心境はよくわかるし、それだけにその後悔が大きくなるのもよくわかる。失ったら気が狂うくらいに人を好きになることこそ幸せなのかもしれないけど、恋をすることが怖くもなっちゃうなと思ってしまう。
     無事回復に向かうアルマンと命を落としてしまうマルグリットは対照的で、なんだかヒロインばっかり可哀そうだな(この手の悲恋ってヒロイン側が死ぬのがお決まりな感じがする)。最近泉鏡花『外科室』読んだ時にも感じたのだが、いかに芸術的にそれが美しかろうと、それがフィクションであろうとも、死んで終わるタイプの話はいやだなと思った。

  • 軽い気持ちで読み始めたら思いの外すごくよかった。アルマン……仕方のないやつ……。

    解説に載っていて覚えておきたいと思った言葉。477ページ。
    『ジャンルとしての小説には固有の知恵があり、その知恵は個々の小説家よりもすこしばかり聡明である。そしてこの「小説の知恵」に耳を傾けず、みずからの小説よりも聡明たらんとする小説家がいるとすれば、その小説家は職業を変えるべきだという。』

  • 19世紀、著者の実体験を元にした恋愛小説。金持ちを相手に享楽的な生活を送る高級娼婦が真実の愛に目覚める。

    ズバリ泣ける話だ。冒頭からもう、悲劇のニオイがぷんぷん。一体何があったのかと興味を引く、聞き手を配して一人称で語らせる構造もうまい。エンタメの洪水に慣れすぎている現代人にとってはベタな展開といえるかもしれないが、この手の物語の源流のひとつなのだろう。

    父親によって諭される、恋愛における現実的な視点が痛烈。若いころは先のことを考えられなくなるほど燃え上がる情熱も、何年もたてばどうなるか。娼婦であるがゆえの社会的なハンデ。さらに家族の問題を出してトドメをさしてくるが、この父親は人格者であり読者も憎めないと思う。青年アルマンによって純粋な愛に目覚めた高級娼婦マルグリットがとる決断と行動。愛憎が絡み合うすれ違い。日記という形で伝えられる本心が、涙なしには読めない。清らかな愛は往々にしてお金の問題や社会という現実に押しつぶされるものだ。美しい心根を受容できないこんな世の中こそ、非劇の温床というべきだろう……。

    作中では頻繁に「マノン・レスコー」が引き合いに出される。登場人物たちにとって重要な本であり、ネタバレもされてしまうので、本作の前に読んでおいたほうが良い。
    さらに本作「椿姫」の光文社古典新訳文庫版は、翻訳者の違う2バージョンが存在するので注意が必要。今回は最新の永田千奈訳を選んだ。

  • 当時のパリの街の様子や、社会のことが分かって興味深い。そして最後は号泣。

  • 他作品に引用され登場したのを懐かしく思い、新訳にて再読。
    読みやすく、分かりやすい訳にとにかく驚いた。
    訳本にありがちな妙な言い回しがひとつもなく、美しく流れるような表現のおかげで、作品の純愛度が増したように思う。学生の頃は悲恋に憧れ、作品に没入した印象だったけれど、今回は違う選択をした場合、に興味がわいた。

  • 以前読んだ時の感想と随分変わった

    アルマンとマルグリット、とりまく人への私の感情が厳しいものになっていた
    そしておさまるようにおさまった…という冷ややかな感想

  • 光文社のこの文庫は古典でもすごく読みやすい!

    恋愛ものはあまり読まないけれど、これはとても引き込まれた...アルマンしっかりして!マルグリットを信じて!って心から最後の辺りは思ってた笑
    知らず知らずのうちにマルグリットの人柄に惹きつけられていった。

  • 悲恋です。

    主役のアルマンと高級娼婦のマルグリットが出会い、激しく燃え上がる恋愛をし、一時的に穏やかな生活を送り、家柄の関係で引き裂かれ、生きている間に二度と再会できなかったお話です。
    妹の婚約者であり、結婚相手が「彼らが仲たがいしないのならば妹とは結婚しない(=親族に娼婦がいるような家の娘とは婚姻しない)」と言い出したことが彼らの関係に終止符をうつ結果を生み出したところが憎らしいです。実質手を下したのはアルマンの父親でマルグリットが真実アルマンを愛していたこと、彼女が娼婦を生業にした過去があったとしても今は、たただひとりの男を愛する善良な女でしかないことを理解しても「別れてくれ」としか言えなかった現実にやるせなさを感じました。
    マルグリットはアルマンと関係を解消した後、彼からひどい仕打ちを受けますが、それでも彼を憎むこともできなければ忘れられることもできません。病に侵されベッドの上でひとり、昼夜襲いくる息もできないほどの壮絶な苦しみを味わいながら再び愛した人が来てくれることを期待し待ち続けながら…この世を旅立ちます。
    物語の後半は、このマルグリットの日記を呈した文章なのですが悲しい気持ちでいっぱいになり泣きながら読みました。

    あまりにも切ない男と女の話でした。

  • 泣ける。マルグリットは悪女だ、という風に描かれることも多いけど、どちらかというと娼婦という人生を歩まないといけない女性が、その中でどうやって愛を貫くかのお話だった。
    いつの時代も、相手にちゃんと話さないこと、ミスコミュニケーションにより起こる悲劇は鉄板だなと。意外と自分の人生でも起こるんだよなぁ。

  • 娼婦と青年の悲しい愛の物語。
    マルグリットの後半の苦しみは読んでいてこちらが胸張り裂けそうなほど。フィクションもありながら実話ベースとのことで、リアリティに満ちていた。

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