約束の地〈下〉 (光文社文庫)

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著者 : 樋口明雄
  • 光文社 (2011年11月10日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (415ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334763343

約束の地〈下〉 (光文社文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 南アルプス山麓に居を構える著者ならではの自然描写が、書中様々な場面で詳述される。
    読者は、迫真の物語をしばし忘れ、主人公たちとともに八ヶ岳、南アルプス近辺を辿っているかのような寄稿文的臨場感を味わえる。
    もちろん、この小説の主題はそんなところではない。
    人と動物の棲み分け、人と自然の共生を問う意欲作であり、著者自身の生活体験から紡ぎだされた告発の書でもある。
    その思いを、古参猟師に語らせる。
    「・・・開発開発で山がどんどん切り崩され、必要もねえ大規模林道をあちこちにこしれえて、森はズタズタに切り裂かれる。人間の暮らしが作り出した有害なものをあちこちに埋めて、土や水は汚染される・・・」
    山の怒りを体現する化身として巨グマ、巨イノシシが登場する。とりわけ、次々と繰り広げられる三本足の巨イノシシとの死闘の場面は、書を置く能わずの感。
    その一方、人と犬の絆、人と人との絆は、心温まる描写となっている。
    また、登場人物たちはそれぞれ家族や仲間を喪うことになるが、生者と死者の絆も描かれており、再三語られる言葉が印象に残る。
    「死というものは忘れたり、克服したりするもんじゃない。共に生きていくものなのです」

  • 人間て自分勝手だ。

    そしてイノシシって思ったより
    怖いんだな。。。

  • 131212

  • スペンサーシリーズに同名の作品があるが、全く別物。
    本作は八が岳や南アルプスの自然を舞台に、環境と獣害問題をテーマにした家族小説。

    とにかく、やたらとテーマを盛り込んでくる。狩猟の問題、獣害からのモンスター、食物連鎖、地方行政の怠慢、環境汚染、いじめ、またぎの老齢化、気候変動…こんなに盛り込んでどう収拾するねんと読みながら危惧していたんだけど。

    ネタバレしてもしょーもないので、多くは語らないが大丈夫。力とテクニックを上手くミックスさせた筆運びで見事収拾させてくれる。ある程度予想がつく、悪く言えばベタな展開にはなってるけど、安定度は抜群。むしろ巧みな捻りは無用だろうと思わせるぐらいのストレートな描写で、自然と向き合う人間の、動物の姿を読ませてくれる。

    狩猟の趣味はないし、鉄砲みたいな危ない物を持つつもりは毛頭ないけど、山歩きを趣味にしている俺にとって、この本に書かれていることはとても関心があり勉強にもなった。自然や山に対しては、常に謙虚であろうと思った次第。

    難しいことは考えなくても、小説として十分オモロい一級の出来。
    八が岳行きたいぞ、黒戸尾根行きたいぞ。

  • 哀切のクマ!装丁も好きです

  • 野生動物と人間は共存出来るのか?

  • 今年は去年に比べてかなりの本を読んでいる(去年は受験期)が、その中でもこの作品は上位に入る。
    読み応えがあるのに、さらさらーと読めてしまうのはひとえに作者の実力だろう。
    最近ラブコメが必ず含まれている本ばかり読んでいて、そんなときにこの作品に出会えて良かったと思う。
    自然と人を取り扱う良作。

  • 一つのカテゴリに収まりきれない壮大な物語だった、著者は初読みであるが、これを機に読んでいこうと思う。

    物語の舞台は南アルプス近辺、山梨県と長野県の県境あたり、架空の八ヶ岳市。主人公は環境省技官で、近年新設された野生鳥獣保全管理センター、通称WLPの八ヶ岳支所に所長として赴任してくる。

    WLPの活動は端的には「自然との共生」と理解した、曲者揃いの所員達と新任所長が、様々な問題にぶつかりながらも自然と人間とが共生できる「約束の地」を暗中模索していくのが本筋であろう。

    本筋から派生する形で、主人公の娘のイジメ問題、環境破壊による新種の寄生虫発生による鳥獣への二次的被害、11年前の殺人事件と、ものすごい詰め込みようなのだが、どれもが濃密に絡み合い、最終局面へと結集していく。文庫2冊900ページ弱の長編だが、飽くせず読み終えることができた。著者の緻密な取材の賜物であろう、フィクションであり、エンターテイメントでありながらも本書が示す問題は全て現実のもので、その解決への道筋が「約束の地」と題された本書の意味に相違ないと感じた。

    以下書きたいことがたくさんあるがネタバレとなります、ご注意を!










    まず主人公父であるが、序盤は「島耕作」や「金太郎」などのサラリーマンドラマを思わせる。慣れない職場、無秩序な部下達、役人であるがゆえの上下との軋轢など、主人公は悩みながらも必死に職務を全うしようと努力する。さらに彼等父娘は事故で妻、母を亡くしており、序盤から「死」という命題まで読者は突きつけられる。そんな中でもそれぞれの出会いがあり、徐々に父には変化が訪れるが、娘は母の死による物理的かつ精神的孤独をますます抱えてくこととなる、父を介在して同級生の男子と触れ合うこととなり、この出会いに読者は安堵する。

    序盤では登場人物それぞれにページを割いてキャラを際立たせることに成功していると思う。WLPのメンバー達、クマを追い払うベアドッグハンドラーの若者二人と、駆除を担当する古参猟師の二人、紅一点の動物学者、そしてインストラクターの陽気なアメリカ人。中でも孤高を保ち決して相容れようとしない古参猟師に惹かれた。そして犬たち・・・自分は決して犬好きではないのだが、小説に登場する犬には惹かれる。彼等は常に魅力的キャラの頼りになる相棒であることが多い、今作でもベアドッグ(クマを追い払う技能に特化訓練された犬)のダンとハナ、そして古参猟師の相棒、紀州犬の吹雪が登場する。彼等は常に主人の目となる手足となって山野を駆け巡る、彼等の描写はそのまま物語の疾走感とリンクする。

    そのようにして始まった物語にまた新たなキャラが登場する、それは野生もしくは自然そのものと言える。まずは「稲妻」と呼ばれる巨大ツキノワグマであり、さらに稲妻をも圧倒する力を有する「三本足」と名づけられた巨大イノシシである。彼等による人的被害が発生し騒然とする、いわゆる自然の猛威に晒される舞台を背景とした物語においてクマの登場は真打とも呼べる脅威であり、さんざん主人公を苦しめるのは定番なのだが、イノシシにクマを凌ぐ恐怖があるとは信じられなかった。丁寧な筆致により納得はしたのだが・・・あとで「巨大イノシシ」で検索してみたら何件かヒットした、画像を見て納得した。これが突進してきたら怖い、ていうか死ぬわ。

    とにかく稲妻や三本足が登場するシーンは、逼迫した緊張感が上手く伝わってきてドキドキする、語りがクマやイノシシの人称に変化するのも、人間対野生動物の構図が、双方から描かれ本質的問題を浮き彫りにするに効果があったと思う。そのままクマそしてイノシシを追う物語に以降するかと思いきや、またも事件が発生する。WLPメンバーの突然の死である。

    いまだ中盤ながらこうまで様々な事件を発生させておいて、どう最後を締めくくるのか想像できなかった、中途半端な消化不良決着の予感もしたのだが、とにかく途中でやめられない迫力は中盤から伝わっていたのである。ここでメンバーの死により起こった問題がある、ベアドッグハンドラーであった彼の死により、ダンの処遇に苦慮することになるのだ、結局主人公が新たなダンのパートナーとなるべく悪戦苦闘することとなる。そして鳥獣被害の対処について極右派を極左派の板ばさみになりながらも己の進む道は明確に意識するようになっていく。クマ駆除を妨害する狂信的動物愛護団体とのやりとりは、そのまま著者が最も述べたいのだろう「自然との共生」論なのだと思う。

    春先からスタートした物語は夏、秋と季節を変え、終盤では舞台を雪山を移す。稲妻は倒れたが、三本足はなおもしぶとく生きながらえ人を襲う、そして突然死んだWLPメンバーの死の真相も全容が見え隠れしてくる。そんな中ガンに倒れた古参猟師の生き様には身体が震えた。長きに渡り猟の中で山を自然を感じてきた彼には、三本足の所業は山そのものの怒りに感じられたのだ、長年に渡り山を自然を慮ることなく破壊し続けてきた人間に怒りの鉄槌を下す山の神、だからこそ山を誰よりも愛する猟師は三本足を屠ることを己の最期の仕事と決め冬山に入る、彼に付き従うは相棒の紀州犬吹雪・・・旧き人々の滅びを古参猟師と三本足との行く末に重ね合わせて見せることが著者の狙いなのか?旧態全としたものが新しい芽吹きをジャマする、世代交代はどのような事象にも必要なはずである。彼と相棒の最期は哀切に満ちながらも、その死に顔には新しい時代を予感してか清々しさを行間に読み取ることができた、最後の最後にそれがしっかり記述された時、思い描いたのは彼等の安らかな姿であった。

    後半では古参猟師パートこそが自分的にハイライトだったが、最後に残った大きな謎、殺人事件における真相の鍵を猟師が握っていたことは驚いた。ミステリ的構成の妙についても、著者の実力は充分であった。だが、ここはあまり好きになれない、犯人が愚か過ぎて哀れになる。

    かくて詰め込みすぎでは?と感じた処々も落ち着たと思ったところで、最後に残った数ページにおいて、対決が描かれる。主人公対三本足である。三本足はすでに瀕死である、主人公は亡き古参猟師の意思を継ぎ仕留めに冬山に入ったのだ。彼の傍らには頼もしい相棒ダンがいる、勝負は一瞬で決まる。ここに自然に寄り添う世代交代が完了し、主人公は完全な「山の男」へと脱皮している。思えばキャリア官僚だった主人公が「山の男」へと変身を遂げる物語だったのかもしれない、そして彼の娘も山の娘となり、妻、母を亡くして以来の父娘の絆が固く結ばれたのだ。読了し終えて頭に浮かぶイメージは川原の父と娘、ダンが無邪気に遊びまわる絵柄だった。

    自然に寄り添う人々の様々な断面を露呈し、視点を変え、問題を抉り出しつつも、確かな筆致で自然を描き、森のざわめき、風の色、空気の匂いを感じさせてくれる本書である。とりとめもなく書きなぐったが思うことは多く尽きない。まさにレビューの長さに比例して多いのだ、もっと自然に触れ合いたいな・・・

  • 下巻は怒濤の展開で物語が収束していくのが気持ちいい傑作ですね。それにしても、頑固親父にダメ息子、典型的なパターンだけど、実際に良そうで、結局人間が一番ダメな動物で、怖ろしい動物だといういつもの結論になっちゃいますね

  • 論点多すぎ!つめこみ過ぎ!
    社会派小説、自然系、ミステリー、どの要素も持っているけど、とにかく的を絞って掘り下げて欲しかったな。
    まあ、その複合的な複雑さが、環境問題や社会問題の本質そのものなのかもしれないけど。

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野生獣たちは、躰の中から蝕まれていた。見えなくなる目、口から毛穴から噴き出す血…。山に投棄された大量の廃棄物によって汚染された水、そこから生まれた新種の寄生虫が、彼らの体内を喰い荒らしていたのだ。山の怒りを体現した野獣が、悪鬼のように荒れ狂う-。彼らに死を突きつける資格が人間にあるのか?人と自然の真の共生を問う著者渾身の傑作。第27回日本冒険小説協会大賞、第12回大藪春彦賞ダブル受賞作。

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