リリース (光文社文庫 こ 42-1)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (363ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334777296

感想・レビュー・書評

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  • 文学賞メッタ斬りの YouTubeで、豊崎さんが紹介されていたので読んでみた。 豊崎さんの紹介の中で 「古谷田さんは、フェミニストではあるけれども、公平な目を持って いる方」「男女の特性を否定することで、男女同権が実現された仮想の世界 (オーセル国) を描きながらも、それが本当に一番良いのか、と疑義を唱えている」と触れられていたが、読んでみて、けっこう衝撃だった。

    男女同権が実現し、同性婚が合法化されている、と言うと、一見、理想的な世界が実現したように思えるのだが、オーセル国では、むしろ異性愛者がマイノリティーになり、同性愛者 が新たなマジョリティーになっている。 そして、男女同権と言うけれど、女性優位と受け取れるような世界だった。 それはそれで、どうなんですか?それが理想の世界ですか?と感じてしまう。女性がこれまで虐げられてきたのだから、男性が虐げられているくらいの世界がちょうどいい?そんなことは、女性である私でも思えないのだ。

    最初の方を読んでいる時は、実は、結構良いのではないか、と思ったのだ。 同性愛者でも子供を持つことが可能だし、現代のほとんどの女性が子供を持つことでぶつかる壁、家庭と仕事の両立、これが、女性同士で家庭を持てることでかなり改善されるのだから。 男女の特性 を否定する、つまり性によって背負わされる役割を放棄できる、ということだ、いいじゃない!と。

    しかし、この小説はそう単純ではない。スパームバンクなるものがあって、男性自身が拒否しているのに、そして表面上は、国は強制していない、と言うことになっているのに、バンクへの登録が強制されている。(あまり描かれてはいなかったが) 代理母の問題もある。 それは違うなあと。社会によって性ごとの役割を強制されない、 と言うことは、女性にとってもそうであるように、男性にとってもそうでなければならない。 男女同権とか LGBTの 人の生きやすさとか、実は本当の実現は、結構難しい問題なのかもしれないな、と思わされた。

    古谷田さん本人のエッセイが興味深かったので、メモを残しておく。
    → https://www.bookbang.jp/review/article/520424
    さよなら、ベグデル――『リリース』刊行エッセイ 古谷田奈月

  • 『一度も違和感を抱いたことがないんですか』
    『もしそうならそれこそが、あなたがマジョリティだという証拠です。』
    .

    男女同権が実現し、同性愛が主流となった近未来。
    生殖活動は人工授精で行われるようになった世の中で、異性愛者であるマイノリティの青年がテロを企てるディストピア小説。

    マイノリティがマジョリティ化することで、新たなマイノリティと差別構造を生み出すことは、目指す世界ではないのだろう。
    それならば何を目指すのか、
    そもそも自分とは異質な他者を受け入れるとは何か。
    突きつけられる問いは重い。


    下半期で一番考えさせられた本。
    結末とか最終部は書けなくなった?と思ってしまう。最初が良かっただけに、ちょっと残念。
    ただ、考えたこともなかったこととかがたくさん記載されていて、大変刺激を受けた。

  • はじめて長編を読む作家さん。
    こないだの消滅世界と設定が似ている?感じで、こういうことを連想されるような今の社会なのだなと思う。
    生きづらい感じ。最後は展開が劇的だった。

    登場人物の名前が、不思議だけどしっくりくる感じで絶妙だった

  • すごいものを読んでしまったな、という感じ。

    今も一部で起こっている、行き過ぎたフェミニズムがさらにエスカレートしたらこんな世界になるのかもしれない。と、妙にリアルに思った。

    例えば、男女が平等に働くのはもちろん良いことだ。でもそれを望まない、専業主婦を希望する人や配偶者に家庭に入ってほしいと望む人は、今尊重されているだろうか。時代錯誤と叩かれて、新たなマイノリティになっていないか。
    全ての生き方が尊重される、を掲げつつも、異性愛と言い出せない物語の中の世界は、そういう危うさの成れの果てに見えた。

    印象に残ったところ
    ●ボナ、とかエンダ、とかビイ、っていう両性の名前のセンスがよい。
    ●かつてのマイノリティが、マジョリティにとって変わっただけだ。
    ●ビイがミチカに、異性として愛し合いたいと打ち明けた時のミチカの反応が、現代(ひと昔前)の同性愛への反応を反転したもの。結局マイノリティとそれに付随する差別はついて回るという皮肉。
    ●ロロとエンダの、武装を解除したような夜の会話。エンダがロロにだけでも、心を許せてよかったと思ってしまった。
    ●ロロの、「今は私と話しているんでしょう?」という指摘。男同士集まると、2人であれこれ画策してる方が楽しいんでしょう、という視点もハッとした。

  • 私の感想は星3.3。
    ジェンダーレスが実現した?世界で、異性愛者が少数派で、危険視される世界。
    正直エンダの思想は危険だと思うし、それで行動されるのははっきりいって気持ち悪い。でも、それだけで異性愛者が排除されるべきかと言えば、もちろんそうじゃない。
    ありそうな世界で、なんであんな偏った思考を持つ人がトップになれるんだろう、とか思ったけど、どちらが正しい考えかなんてないわけだし、結局はマジョリティの方が正しいみたいになるし、世の中って不安定なものなんだなとか考えさせられたり。
    もっと自他の境界線を意識したらより良くなるのかなー。

  • 間違ったフェミニズムによるディストピアを描いた小説.

    エンダが最後にあんな頭の悪い行動をとったのはやや不可解(シュウのこともあったんだろうけど,突然切れてしまったという感じがした).
    ロロなら,逃がすために一緒に行くのかなとも思うけど,(暴力が少ない社会のようだし)あの流血現場をみて身がすくまなかったんだろうか(そりゃ,最後に選ぶものは決まっているんだけど).

    男性の描き方に違和感を感じたんだけど,これはまだまだ男性中心主義的考え方から抜け出せていないからかもしれない.

  • 古谷田奈月さん初。あまり情報入れず読んでよかった。登場人物達の生い立ちや日常生活が交互に描かれて、ある事件の真相が段々と明らかになる。切ない幕切れ。他のも読んでみたい。

  • マジョリティとマイノリティのバランスを保つ難しさを痛感。

  • 【ジェンダー問題】様々な切り口でジェンダー問題を描く小説を紹介!~名作ゴン攻めあいうえお~
    https://youtu.be/wSrWo_-JGWI

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著者プロフィール

1981年、千葉県我孫子市生まれ。2013年、「今年の贈り物」で第25回ファンタジーノベル大賞を受賞、『星の民のクリスマス』と改題して刊行。2017年、『リリース』で第30回三島由紀夫賞候補、第34回織田作之助賞受賞。2018年、「無限の玄」で第31回三島由紀夫賞受賞。「風下の朱」で第159回芥川龍之介賞候補。2019年、『神前酔狂宴』で第41回野間文芸新人賞受賞。その他の作品に『ジュンのための6つの小曲』、『望むのは』など。2022年8月、3年ぶりの新作長編『フィールダー』が刊行予定。

「2022年 『無限の玄/風下の朱』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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