うなぎ女子

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334911782

感想・レビュー・書評

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  •  舞台は鰻屋「まつむら」。お不動さんの参道にある古い佇まいの店だ。注文した鰻が焼き上がるまでのひとときで展開する、5人の女たちの人間模様を描いたヒューマンドラマ。
             ◇
     笑子は鰻屋まつむらの4人掛けのテーブル席についている。連れの男は店に入るなり手洗いに行ってしまった。

    笑子には20年に渡り同棲している男がいる。権藤佑市という売れない俳優で、当然のことながら稼ぎはない。生活は笑子が営むヴィンテージ物の和服を扱う商売で支えているが、それはかまわない。
     だが、どうしても許せない不実を佑市が働いていることに、笑子は気づいてしまったのだった。

     今夕はその佑市と、久しぶりにまつむらを訪れている。笑子はある決心をしていたし、佑市もそれに気づいているようだ。

     やがて佑市が手洗いから帰ってきた。    
         (第1章「肝焼き」) 全5章。

         * * * * *

     各章で主人公を務める5人の女性と、ジョーカー的役割の権藤佑市の身に展開されるドラマは、決して珍しいものではないでしょう。
     そして、その6人のような不器用な生き方をしてしまう人が少なくないのも想像に難くありません。
     要するに「不幸な身の上」としてよく見聞きする人生が描かれるので、リアリティは十分にあります。

     でもこの作品のいいところは、何より主人公の不運な境遇や不器用な生き方を描くだけでなく、最後には各女性たちが自分なりの踏ん切りをつけて生き直す決心をする場面で終わっている点だと思います。 ( 佑市は変わらずですが、あの調子で生きていくものと思われます。)
     何か、時代小説によくある、しっとりした人情話のような風情を感じました。
     

     設定のうまさも光ります。

     まず、舞台が鰻屋であるということ。
     きちんとした鰻屋は注文してから料理が出てくるまで時間を要します。その待ち時間で女性たちの心情を描いていくなんて、なかなか洒落ているなと感心しました。

     次に、その女性たちが同日の似たような時間帯にまつむらで鰻が焼けるのを待ちながら、気持ちに踏ん切りをつけていくということ。
     決して広くはない店内。そこで ( 多少の時間差はあるものの ) 女性たちのいろいろなドラマが展開していくさまは、想像するだけでワクワクします。

     最後に、各章で女性たち1人ひとりを詳細に描きつつ、その女性たち全員と因縁を持つ佑市の側面が少しずつ明らかになっていくということ。これが実によかった。
     最初はいい加減で口先だけのクズ男にしか見えなかった佑市像が、章を重ねるにつれ厚みを増していくところは見事でした。


     派手さはありませんが、つい読まされる巧みな加藤さんの作品。特に本作は、映像化してほしいと思った物語でした。

  • 表紙一杯に脂ののった鰻重が食欲をそそる。正月休みに長男が帰省したら家族でうなぎ屋に行こうって思ってたので手に取った作品。
    うなぎを食べるとゆうことは、何か重要なイベントで、人生の節目に立ち向かう女の一本勝負として描かれていました。注文して運ばれてくるまでの待ち時間の長さの緊張と高揚感。唾液腺を刺激する香ばしい香りと共に前にウナギを食べたのはいつだったとか誰と食べたとか人生を回想するのにも充分な時間があるようでこの設定は旨いなあって感じました。ただタイトルから連想した内容とは違って昭和臭漂う寅さんのような話なんですよね。
    権藤とう不器用で売れない役者に係る女たちの短編集。何故に交友関係について20年も一緒に暮してた彼女に話さなかったのかが、じれったいほど溝を深めていった話です。いつか言おうと思っていたとは思うんですが、現状の関係が崩れてしまうことを危惧して言い出せずズルズルきてしまった感じだから、うだつが上がらない役者とゆうのも頷ける。彼女は男の方から入籍を決意してくれる日がくることを信じて待ってたと思うわけですが。
    1話目の別れ話の原因ともいえる内容が2話以降に明かされて、そんなことちゃんと説明すれば問題ないことに思えるんですが、なんだかなぁって感じでやるせない人情噺でした。
    3人で同居してた時の話とか、お好み焼き屋をしていた母親と娘の話が印象的でした。
    解りづらかったから2度読みしたらしんみりきましたけどね。

  • まずは目に焼き付けられる、この表紙に圧倒される。香ばしいタレの匂いが今にもこぼれ落ちてきそう。ううう…もう降参です。
    うなぎって日常的に食べるものではなくて、どちらかと言えば非日常的な食べ物の印象がある。
    ”たまのごちそう”…特別感が半端ない。

    うなぎ屋『まつむら』を舞台に、うなぎを食べる男女の機微を描いた連作短編集。

    「大人は隙間だらけだ。いやなこと、知りたくないこと、受け入れたくないことばかりで、心が冷えて縮んでしまう。泣きわめいても、現実はおろか、気持ちさえ変えられない。だから、ときどき必要なんだよ。心をいっぱいにしてくれるごちそうが」

    お腹さえ満たされればいい、なんてそんな単純にはいかないのが大人の面倒くさいところ。
    ただ美味しいだけでもだめ。隙間風の吹く虚しい心をいっぱいに満たしてくれる”ごちそう”が時には必要だ。
    それにしても、女性陣の食べっぷりが実に気持ちいい。塞いだ気持ちも一気に吹き飛ばす底知れぬパワーをもらった。

    私にとって、うなぎ料理は蒲焼きくらいしか思いつかないけれど、こんなにも種類があるとは。
    白焼きに肝焼き、う巻き、うざく、刺身…。
    中でもうざくは是非とも食してみたい。
    それにしても、全ての短編に登場していたゆうちゃん。
    最初はなんて情けない男なんだろう、と呆れて見くびっていたけれど、視点が変わると…なかなかいい奴じゃん。見直したよ。

    この作家さん、女性だったのね〜びっくり。

  • カトゲンさんの小説は、新刊を読むたびに「この小説が今までの中で一番好きだ」って思うのだが、今度は本当に心から強くそう思った。大好きだ。
    ダメなオトコと、ダメなオトコに振り回されつつも離れられないオンナを描かせたら天下一品のカトゲンさんだが、今回はダメなオトコと見せかけてピカイチのオトコだったね、ゆうちゃん。
    一章ずつ、人がつながって行ってどんどんゆうちゃんの人となりが見えていく構成もとてもよかったけど、最後の最後に「そうきたかっ!!!」と。もう、泣きましたよ、いや、ほんとにぐずぐずで鼻水が止まらずに。そして最後につながった人たちの縁をもう一度最初からたどっていくと、たくさんの伏線がちりばめられていたことに気付くという。
    なるほど。これは一読目は人の繋がりを楽しみ、二読目は隠れていた人物の影を楽しみ、三読目はゆうちゃんを真ん中に広がる縁の円を楽しむ、という、まるでひつまぶしのような小説なわけですな。おいしい涙が隠し味のうなぎ小説。カトゲンさん最高!

  • うなぎ食べた~~い。ず~~っとお腹空かせて読んでました。
    うなぎ屋さんに来た何組かのお客さんの話なんだけど、
    どこにもごんちゃんが絡んでて・・・
    なんだよ~いい人じゃん。
    続きが知りたいけど、きっとうなぎ屋さんがまた2人を元通りにしてくれると信じて。

  • 「うなぎ女子」という本のタイトルから
    ダメな男「権藤佑市」に振り回される
    女子達の話かと思いながら読み進めていると
    笑子が思っている女子たちと権藤佑市の
    関係が話が進むにつれて明らかになり、
    権藤佑市の意外な一面がいっぱい出てきて
    終盤に進んでいくにつれてガラッと印象が
    かわって面白かった。なんでうなぎ屋なん?
    って思いながら読んでいたけど途中で出てくる
    「心の隙間を満たすために」うなぎを食べる
    ってのがグッときたな。大人というか歳を
    とるとどうしても埋めることができない
    心の隙間があってその隙間をほんの
    ひと時でも埋めるために食べる美味しいもの
    それが今作ではうなぎだったんですね。
    わたしも美味しいものを食べたときは
    ほんのひと時でも嫌なことが忘れられるもん。
    まぁそもそも「権藤佑市」の人生を大きく
    変えたものがうな重でしたもんね。

    表紙のうなぎも作中に出てくる
    うなぎ料理の数々も読んでいると
    当たり前だけど食べたくなるもんですね。
    しばらくしたらわたしも心の隙間を
    埋めに行きたいとおもいます。

  • キリナさんに頂いた本。
    この作家さんは初めて読んだ。
    短編連作というか、章ごと視点が違うのだけど、ずっとある男性が出て来て、彼と鰻とそれにまつわる女性たちの物語という体。
    最後まで読んでから、すぐにもう一回初めに戻って読み直した。
    なるほどなぁってなる。
    はじめ、ロクデナシ男とダメな女の物哀しい恋愛話かと思った笑
    まぁ、こういうひとはモテるよね。絶対モテる。
    あと大月先生は絶対モテないよね笑
    女の人たちはどのひともなんだか身につまされる、、、
    そして最後に出てくるともえママの言葉はどれも沁みるな。
    とくにごちそうは心の隙間を埋めるために必要なんだっていうの。

    鰻はあまり好きな食べ物ではないけど、特別感はわかる気がする。
    そして描写がすごく美味しそう笑
    このひとものすごく鰻愛してるんだろな。
    他の作品も読んでみようと思います。

    わたしの鰻の記憶はは成田山の参道かな。だから初詣的イメージかも。

  • 2022年5月3日読了

  • 友だちに薦められた際、鰻を食べたくなるよ…と言われ、確かに食べたくなりました。
    たまーにで良いから、どうせなら美味しい鰻を食べたいなぁ。
    話の内容は、続編も気になります。

  • ウナギ好きです!それだけ^^
    想像していた内容とは違うものでした。
    うなぎ屋が五編共に同じ店として登場し、また登場人物がこの店ですれ違ってみたりと、面白い構成でしたが、
    私としてはあまり読み込むことのない恋愛ものでもありました。
    第五章は、それまでの章に登場していたうなぎ屋さんの女性店員さんへの話と通じたり、お土産を買っていた人の素性が分かったりとちょっとすっきり。
    ともあれ、おじさんはたいていうなぎと寿司が好きらしく、私もまた、おじさん?なのかもしれません。^^

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著者プロフィール

神奈川県生まれ、東京育ち。日本大学芸術学部文芸学科中退。日本推理作家協会会員。2009年、『山姫抄』(講談社)で第4回小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。『泣きながら、呼んだ人』(小学館)が盛岡のさわや書店が主催する「さわベス」1位を獲得。2011年に刊行した『嫁の遺言』(講談社)が多くの書店員の熱い支持を受けベストセラーに。その他に『蛇の道行』(講談社)、『四月一日亭ものがたり』(ポプラ社)、『ひかげ旅館へいらっしゃい』(早川書房)、『ごめん。』(集英社)など。昨年刊行した『カスタード』(実業之日本社)は奇跡と癒しの物語として多くの読者を勇気づけ、本作はその続編にあたる。不器用だけど温かな人情あふれる物語には、幅広い世代にファンが多い。

「2022年 『ロータス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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