弦と響

著者 :
  • 光文社
3.53
  • (13)
  • (27)
  • (31)
  • (10)
  • (0)
本棚登録 : 184
感想 : 40
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334927448

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  紙に書かれた文章から実際に音楽は流れてこないが、音楽を聴いた時と同じような情動を呼び覚ます美しい文章で綴られた十三編のオムニバス。

     ラストコンサートの日を迎えるにあたって、初老にさしかかったカルテットの四人組とその家族、スタッフ、客たちが、後悔と寂寥に満ちたそれぞれの過去をそっと振り返るモノローグで占められている。全体的に感傷的な暗い雰囲気なのだが、掉尾を飾るコンサートは一転してそれらすべてをのみ込んで、そして静かに幕が下りる。

     クラシック音楽に門外漢な分、文章から音楽に近づこうと、音楽小説を何冊も読んできたが、本書は一、二を争う小説だと思う。

  • 老舗カルテットの解散をめぐる諸々。

    途中で少し中弛みしたが、主婦のむつみさんが出てきて話がうまい方向に舵を切ったとおもう。
    ラストの、余韻を感じるシーンが好きだ。
    コンサートに出かけたくなった。

  • カルテットのラストコンサート。メンバー・スタッフの語りもいいけど、初めて聴きに来た主婦の場面が好き。

  • 鹿間四重奏団のラストコンサートの日の、カルテットに関わる人たちのモノローグ。演奏者、家族、マネージャー、ホール関係者、客、etc.  陰で支える人たちの存在を思う。

  • コンサートを開くというとこれだけたくさんの人が動き、様々な仕事があるのですね。私は主婦「むつみ」の立場にいちばん近いです。
    実績のある弦楽四重奏団が解散することになり、そのラストコンサートの日、メンバーやカルテットにかかわる人々の気持ちがかわるがわる語られます。










    リーマンショックと大震災で景気が冷え込み、コンサートホールが被災して興行を行えないところもいくつかあります。石巻の津波の被害にあった楽器店が懸命に楽器を修復している様子をテレビで見ました。プロの演奏用に使えなくても学校などで練習に使ってほしいと。お金がたくさんかかっても直せるなら直す、捨てないという老店主。

    音楽が好きという気持ち。不思議です。

  • この物語は、カルテットに関わった人々の回想から始まる。
    決して、大きな事件が起こる訳ではないが、
    どんどんそのカルテットに興味が湧いてくる!
    そしてなによりも、物の表現が素晴らしい!

  •  クラシックのための小ホール専属の弦楽四重奏団がラストコンサートを開く。最年長のチェリストが体力の衰えを感じ、引退をすることをきっかけに、カルテットも解散することになった。そのラストコンサート当日の朝からコンサート終了までを、カルテットの4人と、その周辺の人たち、当日の客などの一日を追って描く。

     余談ですが、ホールのイメージは、紀尾井ホール?

  • 鹿間四重奏団の4人とその音楽関係者や家族がひとりづつ登場して独白。ラストコンサートのホールでやっと登場人物が一同会すという展開でした。鹿間さんだけが独白がない。鹿間さんは誰かに語られる形で登場しました。独白を聞いてそれぞれの人となりを想像し、演奏当日を迎え、四重奏の場面に至るにあたり、読んでいるこちらはホールのホワイエでの待ち時間に抱く気持ちから音までも…と相当な想像力を試される話でした。

  • 自分は「裏方」というのが好きな性質だと思う。
    舞台を見ても、照明や舞台装置や音響や、受付や案内のスタッフや広報や営業が、それぞれどんな役割をこなして舞台を作り上げるのか、他に自分が知らないどんな仕事があるんだろう、と気になってしまう。映画を見ても、このシーンはどこで、どんなふうに撮ったんだろう、どんな裏話があるのだろう、と思ってしまう。DVDなどにあるコメンタリーを聞くのは大好きだ。

    この『弦と響』は、鹿間四重奏団のラストコンサートをめぐるカルテットメンバーと周辺の人々を静かに描いた物語だ。
    語り手がくるくる変わる、いわば連作短編集。
    中年から老年にかけての人たちがメインで、解散するカルテットをめぐる人間模様は決して情熱的ではなく、どこか寂しく静か。音楽や曲、あるいは弾き手ばかりにスポットを当てるのではなく、メンバーの家族やかつての恋人、コンサート会場スタッフ、マネージャー、掃除婦など、周辺の人が主な語り手になっている。
    大きな事件が起こるでもなく、多少のトラブルがあっても、ラストコンサートは静かに閉演する。それが、地味だと感じる人もいるかもしれないが、「裏方」好きな自分としては、なんだかとても共感する物語だった。
    世の中のいろいろなことは、一人が作るのではなく、たくさんの人が介在して様々な思いを持って作りあげられている。受け取る側も様々な人がいる。そう感じられることが、面白い。

    この本は、ひとり静かに、できれば冬に読んでもらいたい。
    音楽や絵が好きな人はもちろん充分に楽しめるし、生活に忙しくて楽しむことを忘れてしまった人、疲れている方にもおすすめです。きっと静かな気持ちになれる本です。

  • 弦楽四重奏団のラストコンサートを迎える日、思いを語る楽団のメンバーや彼らを支えてきた人たち。

    最終章の「ラストコンサート」のページを開いた時は鳥肌が立った事に驚いた。
    まるで、素晴らしい演奏のクライマックスに突入したみたいで。

    大きなうねりは無く、派手でもないけれど、情景を思い浮かべるのが楽しい小説だった。

全40件中 11 - 20件を表示

著者プロフィール

小池 昌代(こいけ まさよ)
詩人、小説家。
1959年東京都江東区生まれ。
津田塾大学国際関係学科卒業。
詩集に『永遠に来ないバス』(現代詩花椿賞)、『もっとも官能的な部屋』(高見順賞)、『夜明け前十分』、『ババ、バサラ、サラバ』(小野十三郎賞)、『コルカタ』(萩原朔太郎賞)、『野笑 Noemi』、『赤牛と質量』など。
小説集に『感光生活』、『裁縫師』、『タタド』(表題作で川端康成文学賞)、『ことば汁』、『怪訝山』、『黒蜜』、『弦と響』、『自虐蒲団』、『悪事』、『厩橋』、『たまもの』(泉鏡花文学賞)、『幼年 水の町』、『影を歩く』、『かきがら』など。
エッセイ集に『屋上への誘惑』(講談社エッセイ賞)、『産屋』、『井戸の底に落ちた星』、『詩についての小さなスケッチ』、『黒雲の下で卵をあたためる』など。
絵本に『あの子 THAT BOY』など。
編者として詩のアンソロジー『通勤電車でよむ詩集』、『おめでとう』、『恋愛詩集』など。
『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集02』「百人一首」の現代語訳と解説、『ときめき百人一首』なども。

「2023年 『くたかけ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小池昌代の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×