神様のケーキを頬ばるまで

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334929282

感想・レビュー・書評

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  • タイトルが気になり読みました。
    内容はとある雑居ビルで働いていたり関わりがある人達の5つの短編集です。短編に出てくる主人公たちは、それぞれ違った悩みや鬱憤を抱えていて自分で解決できず、もやもやとした人生を生きています。その人たちが自身や周りの事と向き合い、少しづつ前向きに考えられるように変化していく物語です。物語はすべて独立しているわけではなく、他の短編の主人公が少し出てきたりと連動していました。

    作中でとある作家の絵や映画が出てきますが、その作品の評価が人それぞれとなっています。良い捉えをする方もいれば、自分に合わない・好みではないと様々な評価がなされています。映画や絵の評価がそうであるように、悩みや鬱憤も捉え方一つで変わっていくものだという思いを抱きました。主人公たちはそれに気づき、もやもやした気持ちを整理できたのかなと思いました。

    読了後は劇的に生き方が変わる物語でなく、ほんの少しだけ変わってきそうなほんのり明るさを感じたい時に読むと良いかなと思いました。

  • この作家、彩瀬まるさん。懐がものすごく深い気がします。

    いろんな年代の、それも性別も違う登場人物が
    あたかも自分のいる隣のビルに本当にいそうに感じる不思議。
    なんでこんなに色々なことを知ってらっしゃるのか。
    彩瀬さんの人間力、どんどん好きになっていきます。

    東京の錦糸町にある雑居ビルと、ある人物に関係する人々の連作短編集。

    仕事場でのちょっとした知り合いや、もっと関係の深い友達。
    その人が見せてくるいつもこちらが見られている面を通り越し
    見ているようで見せてもらっていない、
    いや見たいとこちらが思っていないから、見られていない面に
    スポットをいつも当てている気がします。

    相手と一緒に時間を共有すれば、
    色々なものが変化して、相手との関係性も変化していく。
    いい方向でも、悪い方向でも、
    変化は毎日続き、接近してみたり、離れてみたり。

    時と共に同じ場所に留まれないから少しずつ先に進んでいく。

    他の人には鼻で笑われるような変化でも、自分で愛おしく思っていいんだ
    と思える一冊です。

    しおりさんの『ウツボのフィギュア』
    天音さんが作った『パンケーキ』
    どちらも、ものすごく欲しい~。
    絶対的なもの、私も探そうっと。

  • 綾瀬まるさんの本は2冊目ですが、この本も良かった~!

    歌舞伎町のとある雑居ビルに関わる人々を描いた短編集。
    マッサージ店を営む女性。
    カフェの店長。
    古書店のアルバイト。
    アプリ開発会社の女性社員。
    雑居ビルの向かいに住む女性。
    それぞれが生き方に悩み、模索中。

    心に残る言葉がちりばめられている。
    「目にしていて、それでも見えないもの」
    「誰にも嫌われないのはいい作品じゃなくて、どうでもいい作品。強く主張するものが無くて、意識に残らないから嫌われない」
    「全部出し切った人の背中は、負けても光って見える」

    綾瀬まるさんの他の本も読んでみたい!

  • 錦糸町の古い雑居ビル付近を中心に展開される短編集。
    「ウツミマコト」という作家の絵と映画作品がリンクしています。
    強く感じたのは同じものを見ても、受け止め方は人それぞれということ。
    自分のこだわりや、欠点だと思っているところも、
    ほんの少し見方を変えるだけで世界が変わることもある。

    些細なことにとらわれて、つい周りが見えなくなってしまいがちな私にはどのお話もツボでした。
    「たまには肩の力を抜いて自分を褒めてあげていいんだよ」
    って言ってくれてる気がしました。
    いつも褒めてる気もしますが…ふふっ。
    ものすごくパンケーキが食べたいです♪

    恥ずかしながら『山椒魚』自選全集の削除も論争も、
    全く知りませんでした。
    評価は分かれるようですが、井伏鱒二氏の慈悲に心がなごむ気がします。

  • 日常のしんどさ、挫折から少し踏み出す、みんないろいろあるけど生きているんだと思える5話の短編集。

    辛い現状を変えるのは少しの勇気と行動なのはわかっているけど、難しいもので。
    でもきっと、きっかけは身近に転がっていて、周りはそんなに敵だらけじゃないかもしれないと思えた。

    落ち込んだら、おいしいものをお腹いっぱい食べよう。
    心が荒んだら、部屋を掃除しよう。苦手だけど。
    じっとしているのがいちばんだめだ。
    そうして頑張ったら、たまにはご褒美にケーキを食べよう。

  • 家族、恋人、趣味など色々なことに悩み向き合う人々の温かい話。誰かが救ってくれるのではなく自分で行動を起こし変わろうとする登場人物たちに少し勇気をもらえます。

  • 雑居ビルを舞台に仕事や恋や生活のこと、他者から見た自分のこと、サラッと流れるように核心をついてくる。でも嫌じゃなかった。
    どこかで人との繋がりがあり、出会いや経験が混ざり合って自分を作っていく。
    人々が抱く痛みがチクチクと胸を刺すけれど、思い込みで狭くなった視野を広げてくれ、身体にじんわりと温かさが復活するような短編集だった。
    もうちょっと読んでいたい気持ちが残る。人の数だけこういう物語があるのだと思うと人間は面白い。

  • 誰しも心当たりがあるようなかっこわるさと、勇気を出して行動した結果のかっこよさと、どちらも描かれてる作品。
    どの登場人物もやはり憎めない。
    良くも悪くもあまりひっかからないので、こちらが、どんな精神状態でも気負わずに読める稀有な本かも。

  • 5つの短編からなる作品。『骨を彩る』がよかった!と思って本書を手に取ったのだが、3つ目の話を読み終わった時点では物足りなく感じた。その理由は「終わりのあっけなさ」である。僕が『骨を彩る』を読んで良いなあと感じたのは、読みながら、そして読み終えてから「じわじわと」込み上げる感動、あったかさだった。それを読者にもたらしてくれるのが彩瀬まるの文章の魅力だと思った。しかし本書の3つ目の短編までは、その魅力が失われている。「え、ここで終わるの?」という物足りなさを感じる。あったかさで心が満たされないのが残念で堪らない。
    ところがである。
    4つ目の短編で僕のそれまでの評価が一気に覆る。話の締め方に対する不満もあったが、それと同じぐらい僕の心をモヤモヤさせていたものがある。それは「ウツミマコト」という映画監督の処女作『深海魚』が全ての話に登場する意味だ。この映画は、王道のラブロマンスなのだが、主人公のシンクロナイズドスイミングの振り付け師が恋人である女性アスリートに究極の演技を求める。そのストーリーが暴力的でエロチックな為、評価は真っ二つに割れる、という作品である。3つ目の話を読んだ時点で、「ああ、究極を求めると精神もなにもかも壊れるから、ほどほどでいいのよ、ほどほどで」というまるで近所のおばちゃんがよく口にするような言葉しか思い浮かばなかった。彩瀬さんが伝えたいメッセージはそれなのかと思った。
    全く見当違いである。
    彩瀬さんは近所のおばちゃんではなかった(こう言ってるが僕は近所のおばちゃんを侮辱していない)。
    話が前後して申し訳ないが、僕が感動した4つ目の話のあらすじはこうだ。
    主人公はIT会社で事務員をしている28歳の女性、十和子(とわこ)。合コンで知り合った一流会社勤めで34歳の上条に惹かれる。十和子の趣味は「プロレス」なのだが、彩瀬さんの趣味もプロレスなため、プロレスを語る十和子が彩瀬さんに実写化されしまうのは僕だけではないはずだ。それはまあいいとして、何回か食事に誘われるのだが、お洒落をして、話す内容は食べ物とか旅行とか職場の中の変わった人の話で、自分の趣味が「プロレス」とは言えない。上条が自分を好きなのかどうか、自分は上条のどこが好きなのかと悩み、職場のトイレに籠もっては新着メールの問い合わせボタンを連打する(想像するとおもしろい)、上条から食事に誘われれば嬉しくなってついていく、というようなことを繰り返していた。
    しかし、あるときに「芦原しおり」というイラストレーターとふとしたきっかけで(これには「ウツボ」が関係している)友人になる。
    しおりと飲みに行ったときに、ウツミマコトの『深海魚』の話になり、映画を観てない十和子にしおりがストーリーを説明するが、反応は良くない。しかし、しおりはこう述べる。

    「(・・・)そのまま出してくれてるんです。みじめな部分も、どろどろの汚い部分も、ごまかしたり取り繕ったりしないで。それって、もの凄く勇気や胆力のいることだと思います」

    僕はこの箇所を読んだとき、はっとした。これまでの話の主人公はみな相手に合わせているひとたちばかりだと。十和子もそうだと。プロレス好きだと言えないで、上条に好かれようと、行動している。上条に溺れて「本当の自分」を見失っているのだ。後日、十和子は上条に自分の想いを打ち明けるが...さてどうなる?
    5つ目の短編だけが他の4つと毛色が少し違うと僕は感じました。なので、4つ目の話でそれまでの3つの話で著者が言わんとしていることをしおりに語らせたのではないかと僕は思うのです。
    しおりだけではありません。十和子はなぜプロレスが好きなのかをこう述べています。

    「ぜんぶ出し切った人の背中は、負けても光って見えるんです。」

    脱線するが、ソチオリンピックのスケート競技のショートプログラムで浅田真央選手がそれまでしたこともないようなミスを連発し、メダル獲得が危ぶまれる、というようなことでメディアが騒ぎ、世界中のファンが動揺を隠せないでいた。僕は「あらまあ、大変なことになったねえ」とこれまた近所のおばちゃんがテレビを前に誰にともなくつぶやくようなセリフをつぶやいていた。しかし、翌日のフリースケーティングで浅田選手は自己最高得点をマークする。最終結果は6位入賞とメダルには届かなかったものの、浅田選手は演技に満足しているようであったし、彼女の演技、涙は世界中のファンを感動させた。
    僕が本書を読み終わって思い出したのは浅田選手の演技終了後の姿だった。美しく、輝いていた。十和子のセリフが心に沁みた。でも、僕は浅田選手は負けてはいないと思う。メダルを獲得できなかった=負け、ではないからだ。それは別の問題だろう。彼女は勝ったのだ。1日で気持ちを立て直し、チャレンジし続けてきたトリプルアクセルを見事に決めて!
    ...まあ結局何が言いたいのかというと、彩瀬さんの伝えたいことは4つ目の話に凝縮されてるなあと僕は感じました。もちろん読み手によって好きな話は違うだろうし、それはそれでいいんですが、僕は4つ目の話「光る背中」を読む前に、本書を投げ出さないでほしいと思います。4つ目いいですよ。僕と同じように感じる人、4つ目まで頑張りましょう。

  • 描写が丁寧で、柔らかくもしっかりとした文体が、読み心地が良い。

著者プロフィール

1986年千葉県生まれ。2010年「花に眩む」で「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞しデビュー。16年『やがて海へと届く』で野間文芸新人賞候補、17年『くちなし』で直木賞候補、19年『森があふれる』で織田作之助賞候補に。著書に『あのひとは蜘蛛を潰せない』『骨を彩る』『川のほとりで羽化するぼくら』『新しい星』『かんむり』など。

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