世界幻想文学大系 第44巻 月世界への旅

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  • Amazon.co.jp ・本
  • / ISBN・EAN: 9784336025500

感想・レビュー・書評

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  • SF以前のまだ幻想であった時代の月世界への旅を網羅的に
    紹介する本。ほぼ読んだことのない作品ばかりが並び、少し
    ばかり没入するのが難しかったが、いろいろと興味深い点が
    あったのも事実である。月への旅において科学が幻想を打ち
    壊したと責める点や、不思議の国のアリスにそれまでの宇宙
    旅行小説のエッセンスが多く含まれている点などが印象に
    残った。

    最終巻「普遍の鍵」は前に読んでいたのでこの「月世界への
    旅」をもって長かった世界幻想文学大系の旅も終わり。
    長かったし、決して読み易いものばかりでもなかったし、
    中には本来私が読む本ではないものもあったのだが、総じて
    良い旅程であった。これを機会にしばらくは積読消費に
    かかろうと思います。

  • 4/12 読了。
    M.H.ニコルソン「月世界への旅」。科学が幻想を制覇してしまう前の月世界旅行譚の歴史。
    ルキアノスの時代から人びとは、空を飛び月へ行くこと、そこで人類の似姿と語り合うことを夢みてきた。ジョン・ウィルキンズによれば、月へ行く方法は四つ。「一.精霊または天使による。ニ.鳥の力を借りる。三.体に結わえつけた翼による。四.空飛ぶ車による」。本書もこの四つの分類を下敷きにして、飛行の夢文学史を追っていく。
    一.精霊による飛行。架空宇宙旅行記の祖、ケプラーの「夢(ソムニウム)」は、<賢い女>(魔女)と契約した使い魔に運ばれて月へ行く、超自然的手段によるものだった。この系譜にはキルヒャーの「忘我の旅」などが連なり、スウェーデンボリによって近代オカルティズムの頂点に達するとともに衰退した。
    二.鳥の助けを借りた飛行。鳥を手懐けて空を飛ぶという文学上の試みはペルシアを起源とし、アレクサンダー大王に仮託されてヨーロッパに広まった。やがて巨鳥や有翼馬の伝説となり、ニムロデ、ガニュメデ、ペガサスなどの物語を生んだ。その後、より具体的に鳥を訓練し、月に渡る動力とする先駆的な作品が出てきた。それがゴドウィン司教の「月の男」であるが、そこでは渡り鳥の行き先は月であるという<科学的根拠>によって渡り鳥を手懐けた男が月へ行き、巨人族と出逢う。「ロビンソン・クルーソー」や「ガリヴァー旅行記」に影響を与えた。
    三.人工翼による飛行。レオナルド・ダ・ヴィンチが鳥の機械的原理を模倣することによって人間も飛行できるという可能性を示したが、彼は実行しなかった。その後、シラノ・ド・ベルジュラック「日月両世界旅行」が結露の蒸発による飛行、更にロケットの原型となる火薬燃料を使った飛行法を発想し、いよいよ人間が空を飛ぶという夢物語が現実に近づいてくる。
    四.空飛ぶ車による飛行。フランチェスコ・ラーナは真空の球を取り付けた飛行船を考案し、ジョナサン・スウィフトは磁力によって浮かぶ島ラピュタを「ガリヴァー旅行記」に登場させた。遂に1783年、モンゴルフィエの気球が飛行に成功すると、その後は科学が空想の世界を征略し、人類はまもなく月に降り立つという夢を叶えたのだった。
    しかし、人類は広大な宇宙を見上げる望遠鏡と、極小の世界を覗く顕微鏡によって、相対的な世界の中間地点に宙吊りになってしまった。大きいと同時に小さくもある、正しいと同時に間違ってもいる人間の世界の戯画が月という夢であるならば、キャロルの「不思議の国のアリス」こそ、最大にして最後の月世界旅行譚なのだ。

    関連本:荒俣宏「別世界通信」、松岡正剛「ルナティックス 月を遊学する」

  • 面白い。
    頭の中に映像と文字がどんどん植えられていく感覚。
    知らない世界を教えてもらえる喜び。
    読書が世界を広げるというのは本当だと思う。

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著者プロフィール

評論家・作家。書誌学、メディア論を専門とし、評論活動を行うほか、創作も手がける。
主な著書に『紀田順一郎著作集』全八巻(三一書房)、『日記の虚実』(筑摩書房)、『古本屋探偵の事件簿』(創元推理文庫)、『蔵書一代』(松籟社)など。荒俣宏と雑誌「幻想と怪奇」(三崎書房/歳月社)を創刊、のち叢書「世界幻想文学大系」(国書刊行会)を共同編纂した。

「2021年 『平井呈一 生涯とその作品』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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