- Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344404878
作品紹介・あらすじ
田中角栄は、大正七年に新潟県刈羽郡二田村(現・西山町)に生まれた。吃音に苦しむ少年時代、軍隊で苛められる青年時代をおくるが、二十八歳で国政の舞台に登場するとたちまち頭角を現し、やがて小学校卒の革命的政治家として永田町に君臨する。三十年以上にわたり日本を支配する道路特定財源などの戦後システムはいかにつくり上げられたのか。
感想・レビュー・書評
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2013.1記。
新潟の寒村に生まれ、裸一貫で上京した田中角栄の伝記的小説。日雇いから始め、その類まれな頭脳、愛嬌、先見性を武器に、小さな工事会社の社長として、やがては代議士として、ついには佐藤栄作の後継を巡る「三角大福中」の権力争いを経て首相にまで上り詰める。
それにしても、角栄の猛勉強ぶり、やるといったらやる人間性にはやはり圧倒される。通産大臣として米国との繊維交渉で歴代の誰よりも本気で相手と渡り合って役人を心酔させ、首相としては、日中国交回復を実現。その原点には、16歳で上京する角栄に向けた母フメの言葉があるようだ。「大酒は飲むな。できもしねえ大きなことはいうな」「人は休まねば体をいためる。だども休んでからはたらくか、はたらいてから休むかとなれば、はたらいてから休むようにしろ」(上巻P.74)
今の感覚で言えば、公共工事の情報をもとに先回りして土地を買い叩くなど角栄の「金権」は到底許されるものではない。が、代議士が足を運んだこともない山間の村に一人演説に来た若き日の角栄を信じ、「都会の人間たちに一本の無雪道路が人の生命を救うありがたさが分かるか」と、ロッキード事件後も票を投じ続けた人々のことを軽々に笑うこともできない。
学生時代、ゼミの研修で新潟県浦佐の農村を訪れたことがある。90歳の老翁が、既に盲目となった瞼を閉じながら「角栄先生の掘ったトンネル」について限りない敬愛を込めて語っていた姿を思い出す。それが村にバスを走らせ、商業作物の出荷で現金が入るようになり、そしてスキー客がやってきた。
角栄の功罪を問い直すことは、現在の日本が抱えている多くの問題について考えることだ、というのはよく言われることだが、おそらく多くの面において真実なのだろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
戦争のところは知らなかった事が多くて、勉強になりました。
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私が小学校低学年の時にロッキード事件がニュースでながれていました。ダミ声で右手をあげるおじさんというイメージしかなく、この本を読むまで新潟の土建屋のオヤジが政治家になって金で総理大臣まで登り詰めたんだろうなという認識でした。貧困の少年時代から裸一貫で上京して血のにじむような努力をしてのしあがっていくストーリーに引き込まれます。今、日本に必要なのは田中角榮のようなリーダーではないでしょうか。
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「日本の発展にきわめて重要は役割をうけもった」巨大な政治家、田中角栄の人間性を描き出そうとした書。2002年の作品。
上巻は、乞音が激しかった幼少期から、上京し住み込みで働きながら夜間の専門学校(土木科)に通い、仕事を転々と変えつつ機械設計図面引きのアルバイトなども行った青年期、酒保・糧秣係等専ら後方支援で過ごした軍隊時代、体を壊して除隊後に建築設計事務所を立ち上げ、軍需関連の特需で急成長、終戦もうまく乗りきって事業で成功、政界に進出すると、炭管疑獄で有罪になるなど危ない橋を渡りつつも地元へのなりふり構わぬ利益誘導で着実に選挙基盤、権力基盤を築いていき、岸内閣の郵政大臣に就任する等権力の中枢に近づくにつれ、えげつない金脈作りに手を染め出していくところを描いている。まあ、この辺りは当時の日本の政治がまだまだ未熟だったことを示しているんだろうな(かといって今もって十分成熟しているとは言えないが)。
田中角栄は、類い希な記憶力の持ち主、「どんな立場にいても、巧みに立ちまわり、他人よりも有利な位置につこうと、たゆまぬ努力をする性格」、「人情にあつく、金を惜しみなく人に分け与える性格」、めずらしいほどの強運の持ち主、「餌のありかを探しあてる、野獣の嗅覚」、「゛こうある。これをどうするか゛と考える現場処理の天才」、艶福家…。要するに、エネルギッシュで人間味に溢れた有能かつ魅力的な政治家だったようだ。
自分が小学校高学年の時にロッキード事件が起きた。日々事件報道を耳にし、小学生の頭に田中角栄は悪者として完全にインプットされたが、そのイメージは少し軌道修正が必要なようだ。
中村喜四郎氏も手本にしたと思われる、磐石な選挙基盤づくりも紹介されていて興味深い。 -
田中角栄の生き方とりわけ若いころの話がしっかりと書いてある。
時代の最先端(土木)をやっていたことが大きかったのかと思った -
商売でもなんでも、とにかく嗅覚が凄い男だと思った。
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田中角栄ほど、日本的な政治家らしい人はいない。
『金権政治家』というレッテルも貼られている。
貧しい農村の競馬馬にかける父親とひたすら健気にはたらく母親。
今回読んで見て、小学校卒という話であったが、
建築に関して、独学的に勉強する姿が浮き彫りとなった。
抜群の記憶力、仕事に対する集中力があったが、
また、以外と諦めの早いオトコでもある。
次々にチャンスをものにする人懐っこさ。
ひとくくりで、その姿を明らかにすることは、困難なオトコである。
信長的であるが、残忍ではない。
秀吉的な感じが強い。
それに、現場の苦情を基礎に、政策化する能力がある。
清濁 あわせ呑む という感じではなく、
泥水を気にせず呑む という大胆なところがあるねぇ。
十代は、『大仕事を遂げて死なまじ、熱情の若き日はまたと来せはじ』
二十代は、『末ついに、海となるべき山水も、しばし木の葉の下をくぐるなり』
三十代は、『岩もあり木の根もあれど、さらさらと、たださらさらと水の流るる。』 -
タイトルの通り「田中角栄の生涯」が、時系列に綴られている。本書上巻では、角栄の幼少期を取り巻く環境、なぜ上京することになったのか、土建業で身を立てることになったのか、出兵から戻りどのような方法で自分の会社を大きくしていったのか、国際興業の小佐野賢治との出会い、そしてどうのようにして政界入りし、越山会を作り上げていったのか、「越山会の女王」ともいわれた秘書:佐藤昭子との出会い等々が綴られている。
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日本で政治家と呼べるのは角栄だけみたいなのを見たので読んでみた。
出来る人だったのだろうということは分かる。
しかし、上では金の話だけが書いてあって件の列島云々とかは一切なし。 -
★2010年90冊目読了『異形の将軍 田中角栄の生涯 上』津本陽著 評価B+
列島改造論で日本の高度成長期を一気に加速した宰相田中角栄の生涯を追った作品。最後にはロッキード事件をきっかけに、毀誉褒貶の激しい政界からの引退に追い込まれていった彼の生い立ちから彼の人となり、考え方をドキュメンタリーに描いている。いまだに、彼の魅力を語る人も多く、なぜ彼がそれ程の評価を得ているのかが不思議で読むことにしました。
彼は、学歴を持たないことを逆にバネにして、一気に政界のドンへと駆け上っていった魅力の一端が垣間見ることができます。やはり、高学歴の政治家にはない人間的な熱さ、心遣いがあったことと、人並み外れた努力家であり、抜群の記憶力と洞察力で、世の中の先を見通していたことがよく分かる。今の政治家にはない人としての賢さと大きさが読んでいてよく分かります。