城郭考古学の冒険 (幻冬舎新書)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344986114

作品紹介・あらすじ

城跡の発掘調査、絵図・地図、文字史料など分野横断的に「城」を資料として歴史を研究する「城郭考古学」。城を築いた豪族・武士の統治の仕方や当時の社会のあり方等々、近年、城を考古学的に研究することで、文字史料ではわからなかったことが次々に明らかになってきた。信長・秀吉・家康・光秀・久秀らの城づくりからわかる天下統一と戦国大名の実像、石垣・堀・門の見方、アイヌのチャシ・琉球のグスクなど日本の城の多様性、世界の城との意外な共通点等々、城郭考古学の成果とその可能性を第一人者が存分に語りつくす。

感想・レビュー・書評

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  • 城の魅力を語る新書。戦国時代までの城と近世の城は印象が異なる。しかし、石垣や天守閣などの外形で区分することは本質を掴めない。近世の城は大名が頂点となり、家臣に君臨した。織田信長が天主に居住した安土城が典型である。戦国時代までの城も大名が中心であるが、家臣との連合政権の色彩があった。本丸と有力家臣の曲輪が併存していた。信長の城の形は豊臣秀吉に継承され、全ての大名が秀吉の家臣になり、全国に展開された。

    これは世界の城と比べた日本の異質性になる。ヨーロッパでも中国でも中東でも城は町を守るものであった。日本で町を守る城郭は小田原城総構えなど例外的である。支配者だけが守られれば良いという日本社会の後進性がある。

    この後進性は現代にも継承されている。福井県では県庁と県警本部が福井城の本丸にある。県庁や県警本部に行くためには堀に架けられた橋を渡ることになる。「福井城の本丸の堀と石垣で守られた県庁と県警本部は四百年前に成立した封建権力の象徴性と権威性を一身にまとっている」(75頁)。自分達が守られればよいという公務員感覚の反映があるだろう。

    戦国時代の越前国は朝倉氏が戦国大名となり、一乗谷を本拠とした。一乗谷は谷の入口に城戸を設け、町人地も含めて町全体を守護する城塞都市であった。経済発展に応じて武家地の一部を商家に明け渡していった。近世よりも中世の方が民間感覚はあった。役所が一等地を占め続ける現代日本は中世以下の面がある。

    本書はモンゴルの発掘調査の話も掲載する。ここには感心できない内容もある。著者らは発掘調査のための機器を持ってモンゴルに入国する。モンゴルは地下資源の不法調査をする輩もいるために空港のチェックが厳格になっていた。そこでゴルフクラブのカバーに入れ、観光客風の恰好をして厳格な審査を受けずに入国審査を通ったとする(262頁)。

    これは脱法的な手法であり、日本とモンゴルの友好に悪影響を及ぼすものである。考古学の研究ならば良いというものではない。発掘した遺物を国外に持ち出す輩もいる。そのような輩と同レベルの手口になる。

  • 城郭研究者の第一人者が古今東西の城について比較解説してくれる本。

    特に海外の城との比較が興味深い。

    最近宇陀松山城のあたりにも行ったが、このような城がたくさん築かれた戦国時代って本当に大変な時代だったんだなと思う。

  • ああ、お城に行きたい欲がむらむらと…明智光秀、松永久秀のところ興味深かったなあ。2人とも、ほんとはいい人なのだな。お城の復元や整備はしてほしい気持はあるけど、あれこれと問題もあるのね…もともとなかった天守を作っちゃうのは酷い…難しい部分も多いけど、そうなんだ〜!と感心していたら少しずつだけど読めたわ。海外のお城もイケる千田先生すごい。モンゴルに発掘調査に行った時のドレスコードいい。勇者。その服装でのお写真載せてほしかった〜。

  • NHKで戦国時代の城郭の解説には必ず出演される著者の贅沢な作品。
    旅先の城を見る程度の城ファンの私でも、読み始めると止まらないぐらい面白く幅広い。

    研究者としてだけでなく、著者の城郭への愛が溢れ、知的好奇心を刺激してくれる。
    入門編にとどまらず、海外との比較もあり、この著者の研究範囲の広さに驚きでもあった。今後も、城郭というワードが出てくるテレビ番組にはこの著者が当面活躍されるだろう。

    著者は知識を楽しそうに語っている著者の風景が目に浮かびつつ、日本史好きは勿論、城っていいなと思った程度の人でも楽しめる城(郭)入門書である。
    城郭のためだけの旅行もやってみたくなる悪魔の書でもある(笑)
    機会があれば、千田先生の授業も受けてみたい。

  • 最近は街興しのシンボルにもなる「お城」だが、目立つ天守だけでなく、城郭としての本質価値を保護し再建することが肝要と説く点、頷けるものがあった。学術的根拠に基づかないPRは無論、遺構を破壊する「整備」事例などは甚だしい悪例で、警鐘を鳴らす事には意義がある。城郭の保存状態や、復元または保護施策などを評価する試みも、今後有用になってきそう。屋敷跡の配列を見れば、戦国初期は君臣間の関係が並立に近かった事がわかるなど、建物を眺めるだけでは得られない情報を紹介するところは読みどころ。

  • 千田先生、テレビでは磯田先生とキャッキャウフフしてるとか杉浦アナと仲良く討ち死にとか、ひたすら楽しい先生なのだが、文章となると驚くほど真面目です。城郭考古学のパイオニアとして、既存の学問と戦ってきたスピリットが見える本でした。なお、過去に書かれたものを集めて新書化しているので、重複する話が一部見えるのが、ちょい引っかかりますが、それだけ強調したいポイントだと考えましょう。

  • テレビで拝見する著者の姿は、お城愛が溢れすぎて弾けた素敵なおじさま。ご本を読むのはこれが最初なので、どういったお仕事・研究をする分野なのかさえ正直よく知らなかった。
    お城でイメージするのは立派な天守。くらいの知識で読み始めても、とても面白く読みました。
    織田、豊臣、徳川、の三英傑が関わった城の変遷だけでもかなり面白いです。急速に発展していく様子も面白いけれど「じゃあそこから視点を広げて本州じゃないお城はですね、」と次の話題が出てきて、さらに「日本のお城の発展も面白いですけれど、世界はこんなふうなんです、比較をすると、」とさらに視点を広げてもらって、最後は「お城おもしろい!」になります。
    お城といっても、歴史、考古学、民俗学、いろんな視点から学ぶことができるのだと知ったし、それをいかに残し守り研究していくか、という研究者の視点も熱くて、大変勉強になる面白い本でした。

  • 馬出し、外枡形など織豊期に積極された防御形態が世界的にも地域発生的に採用されており、防御施設としての普遍性があるというのは驚きであった。また織田信長の築城した小牧山城や安土城、明智光秀が築城した周山城の形態から各大名が目指すべき主君像が反映されていて面白いと感じた。

  • 城郭考古学の第一人者、千田嘉博氏による城郭研究に関する入門書的な内容。大阪城や江戸城等の有名な城郭から地方の中世城郭までとにかく分かりやすく解説しています。何と言っても、著者の城郭考古学者としての矜持が強く感じられる内容であり、読み応えがあります。

  • 日本史はあまり得意ではないのだが、戦国武将好きな息子と一緒に、主にNHKの歴史番組を見ているうちに千田先生の存在を知り、少年のように楽しそうにお城のロケをしているのを拝見してすっかりファンになってしまった。
    この本もそんな千田先生のお城愛があふれていて、かつ、現在の日本のお城或いは城跡の保存の在り方について、学者として言うべきことははっきり言う箇所も随所にみられ、納得の一冊ではあった。
    ただ学問的には、千田先生の学説の中には「最近の有力説」ではあるけれども、学会でオーソライズされたいわゆる「通説」とまではなっていない、という説もまあまああるようなので、それらについては他の先生たちの本にも触れて、自分ならどう考えるか、そういう態度で臨むべきなんだろうなあと思うところはあった。個人的には、千田先生の説がこれからは通説となっていくだろうとは思っているが、千田先生の熱量に押されて、千田先生の説だけが唯一正しいように受け取ってしまうのは、読む側の姿勢としては気をつけたいところだとは思う。
    とは言え、日本史が得意でない私でも読んでいて楽しかったのに間違いはないので、私もこれからお城めぐりを始めてみたいなと思った。

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著者プロフィール

千田嘉博(せんだ・よしひろ)
1963年愛知県生まれ。奈良大学文学部文化財学科卒業。城郭考古学者。大阪大学博士(文学)。国立歴史民俗博物館助教授などを経て、現在、奈良大学文学部文化財学科教授。主な著書は『織豊系城郭の形成』(東京大学出版会)、『信長の城』(岩波新書)、『真田丸の謎』(NHK出版新書)、『城郭考古学の冒険』(幻冬舎新書)など。

「2021年 『新説戦乱の日本史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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