ウクライナ戦争と米中対立 帝国主義に逆襲される世界 (幻冬舎新書)

  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344986701

作品紹介・あらすじ

感想・レビュー・書評

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  • 断片的に捉えていたウクライナ問題を体系的に理解するに有益な本だった。また、ロシア関係だけではなく、最も意識すべき中国に繋げて議論される。個人的には台湾有事とウクライナ戦争がストレートには繋がらない。その視点でも読んでみた。

    2003年のイラク戦争はアメリカが全くロシアの言うことを聞かずに開戦した。それまではロシアもG8に参加し、西側との全面戦争は無いのだからと徴兵制を廃止しろと言う主張をしていた。それと前後して2003年にジョージアでバラ革命、2004年にはウクライナのオレンジ革命。そこでウクライナがNATOに加盟すると言い出した。2005年にはキルギスでチューリップ革命。この一連のカラー革命をプーチンや彼のブレーンたちは、アメリカの陰謀だと思い込んだ。

    よく言われるのは、東西ドイツ統一時のNATO東方不拡大発言の反故。本著では「アチソン発言」を引き、開戦に踏み切る2ヶ月前の2021年12月、プーチンとバイデンが電話会談にも原因を求める。ロシアがウクライナに侵攻しても米軍の派遣は行わないと明言。バイデンの失言だと。

    中国について。人民解放軍が創設100周年を迎える2027年までに戦闘体制の全面強化を宣言、台湾有事可能性があると。しかし、武力を背景に統一させても遺恨は残り、そんな事をせずとも爆発的な変化を起こさずじわじわと原状変更できるなら中国にはその方が良策。諸刃の剣となる経済制裁に及びたくない西側の利害とも一致する。敢えて手を汚さない。その為には、ロシアがウクライナと戦争状態に無い方が良い。どちらが勝つかではなく、決着がついていないとアクションが判断できない。ならば、後4年、中国を動かさないためには。連関する事情はあるような気がする。

  • 普段読む小説とは全く異なる緊張感…

    自分の中に日本の軍備議論にアレルギーを感じつつも「力による現状変更は認めない」という大前提を念頭に読み進め、日本を取り巻く現状認識、読み応えがあった。
    不安を煽るでも巷の嫌○でもなく平和を考えた。

    是非いろんな人に読んで頂きたい。

  • 朝日新聞記者だった著者が2022年4月の独立後、ウクライナ情勢と米中対立について5人の識者と対談し考えをまとめたもの。冷戦期のように、アメリカと中国による二極化を基軸としながらも、帝国主義時代のような複数の大国によるパワーポリティクス(権力政治)が繰り広げられる。・・これがポスト・ウクライナ戦争の国際秩序ではないか。パワーが剝き出しになる世界、との認識に至った。

    そこで日本はどうするか、新秩序づくりに影響力を持てる大国として踏みとどまれるのか、小国となって大国に蹂躙されるのか、その岐路に立っている。

    小泉悠氏との対談
    峯村氏:アメリカの政治学者ブレジンスキーは「ロシアがウクライナを失えばアジアの辺境国になってしまう。逆にウクライナを取ればユーラシアの帝国になる」と指摘している。ウクライナはどうすればいいのかとの問いには「フィンランド化しかない」と答えた。中立国家になることでロシアに攻撃される可能性が減るとの指摘だった。
    小泉:ウクライナがいくら譲歩してもロシアはどんどん進行してくる可能性は高く、最終的には全土占領されかねない。フィンランド化はすべきではないし、こうして戦争が始まってしまった以上、ロシアの目論見が失敗した形で終わるのが一番いいと思う。

    今まで記者の書いた本は学者の本と比べ物足りないと感じることが多かった。記者の本領はあくまで新聞紙上なのだ、と感じていたが、そのところを峯村氏自身あとがきで書いていた。峯村氏は青学の客員教授でもあるが、ジャーナリズムと学者の世界の断絶を感じたという。アカデミズムではどうしても理論や先行研究が重視され、ジャーナリズムは一次情報ばかりに焦点が当たり、理論化や普遍化が足りなくなりがちという。
     学者たちが「ジャーナリスティックな書き方で軽い」とジャーナリズムを批判し、ジャーナリストが「学者の論文は理屈ばかりでつまらない」とアカデミズム批判するのをしばしば目にする。しかし両者は補完しあって日本全体の「知」を高めていくことが必要だと考えた、という。

    対談は2022年の6月末から7月あたりに行われたようだが明記されていない。書いてあるとよかった。

    2022.9.20第1刷 図書館

  • とても面白く読めました。
    米中露の関係性の中にいずれも関わる日本の立場とこれからの在り方について、現実的な状況分析からのアプローチをしている。
    現実を見てしまうとこういった理論展開しかないよなと思わざるを得ないのですが、一方で理想論左派的な立場を塗り潰すのは違憲のコントロールという面でリスクが高すぎるとも感じる昨今です。
    普通にぶつかれば理論が勝ってしまうように見えるのですが、両方飼っていて良いのではないかと。
    ともあれ、現実的な検討をする上での論点について、さらには各国の文脈について多くを知れる本でした。

  • 現在のウクライナ戦争、最近の米中対立と中国の台湾侵攻のリスクを中心に、国際政治的、軍事的、地政学的な観点で分析されている本

    中長期的な課題として、プーチンロシアとウクライナ戦争の影響は大きいものの、日本•世界にとっての最大の脅威は中国だと指摘する。
    中国は情報公開が不十分で得られるものは限られているとは言え、近年の軍拡は明らかで、台湾侵攻に関して説得力のある蓋然性が高いリスク分析がされている。
    (なお、個人的にはウクライナ戦争はそのリスクを増大させるのではないかと思っていたが、ほとんどの中国政府や軍関係者は「ウクライナと台湾は別問題」と考えているとのことであった。)
    また中国や欧米の強かさに比べて日本は個人レベルでも企業レベルでも国家レベルでもナイーブで楽観的で強かさがなさすぎるとの指摘が強調されている。心理戦や世論戦や影響工作への低い防御力•レピュテーションリスクの認識不足や安全保障の観点が欠如した国際的活動•中国の軍事演習への甘い対応。

    そんな予測困難だが蓋然性のある紛争リスクと世界各国や国連のパワーバランスの変化に対して、憲法9条と日米安保を有する日本が今後どのように対応していくのが望ましいかについても記されている、

    対談形式の本である。
    やや専門的な言葉も出てきたり、戦争の話題の時に(笑)が出てくるのは不快だったが、皆さん穏やかな語り口なのはよかった。

  • 【読書レビュー 609】
    峯村健司、小泉悠、鈴木一人、村野将、小野田治、細谷雄一『ウクライナ戦争と米中対立ー帝国主義に逆襲される世界』幻冬舎、2022年

    大変勉強になります。

  • ロシアのウクライナ侵攻により混沌とする世界秩序。軍事・経済両面で拡大を広げる中国。今後の世界勢力図のゆくえを国際政治の専門家5名に著者がインタビューした対談記録。
    アメリカのリソース不足ゆえにロシアと中国の二正面作戦はできない。だから最優先課題として台湾有事に米軍のリソースが向けられていたが、ロシア×ウクライナ戦争が起きて米国はウクライナを支援し、ロシアと対峙せねばならなくなった。台湾への関与が先細る懸念のなか、その米国の足元と動向をじっと観察し計算している中国の習近平。中国の核弾頭は今後数年のうちアメリカの核と同数か上回るようになるという。台湾海峡での実弾演習訓練も格段に増え航空兵力の増強が著しい。加えて、米ソのホットラインなどのコミュニケーション手段や核・軍備管理の経験の蓄積が米中間では全くない。偶発的な事故や小競り合いが米中対立の大惨事となる危険性は米ソ冷戦期より高い。台湾有事は時間の問題という専門家たちの主張と危機感が行間から伝わってきた。

    世界の多極化か。それとも米中対立を軸に力を剥き出しにした権力政治の復活か。どちらにせよ19世紀的帝国主義時代に回帰する。スマホをもって19世紀に戻るのは嫌だなと思うが、専門家たちの見解を読むと先行きは暗い。日本の「戦後」もどこかで終わるかもしれない。そう覚悟しなければならないときがくる。

  • 渦中のロシアとウクライナの戦争後の世界について、中国情勢に詳しいジャーナリスト峯村健司氏と5名の軍事やロシア情勢などの専門家との対談をまとめた本。

    軍事の専門家の話は、兵器や戦争の戦い方などを詳論しているのだが、私はこの辺りには興味がなく、軽く読み飛ばした。

    逆に面白かったのは、ロシアの軍事・安全保障の専門家小泉悠氏や国際政治専門の鈴木一人氏との会談。

    両氏の主張で共通するのは、今般のウクライナ戦争と今後の中国と台湾の関係をパラレルに考え、ウクライナ戦争が中国にどのような影響を与えるかという方向性で論じられていることや、ウクライナ戦争はアメリカ(端的に言うとバイデン大統領)の弱腰な姿勢(「アメリカはウクライナ戦争に軍を派遣しない」という発言など)が、ロシアをつけあがらせたという点などである。

    小泉氏はロシアについて、ウクライナはすぐに陥落すると非常に楽観的な見立てをしていた、しかし実際にはウクライナは簡単には屈しなかった。
    これはプーチンがウクライナ国民のアイデンティティを決定的に見誤った結果だという。

    また、ロシアがウクライナ戦争に踏み切った理由について、一般的には、ウクライナが西側諸国に取り入れられる、具体的にはNATOに加盟することなどを阻止するためと言われているが、このほかにも、プーチンのアメリカに対する不信があるという。

    例えば、2003年のイラク戦争。アメリカはロシアの言うことを全く聞かずに開戦に踏み切った、また2005年に起きたキルギスのチューリップ革命はアメリカの中央情報局(CIA)の陰謀と考えている。

    これらの真偽について、本書では言及がないが、ウクライナ戦争が始まった背景にはロシアのアメリカに対する積年の不信感があるということは重要な視点である。

    また、鈴木氏は、ロシアが意外にもウクライナに苦戦している(2022年9~10月現在)のは、ロシアが大規模な紛争をやるためのインフラ整備をしてこなかったからだという。例えば、ソ連時代のインフラを使っていて、それが実際に役に立たないことが今回の戦争で分かったというのだ。

    これに対し、ウクライナはアメリカから提供された衛星通信システム「スターリンク」などを使い、通信面で優位に立っている。

    これが実態だとすると、いかにもお粗末な状態でロシアは戦争に踏み切ったものだ。

    また、この戦争がどのような形で決着するかは、今後の中国と台湾の問題にも大きな影響を与えること、また地勢的にこの問題は直接的に日本にも影響することは必至で、その意味でもウクライナ戦争からは目が離せない。

    また、最後に登場する細谷雄一氏との対談(パワーポリティクスに回帰する世界)も興味深かった。

    ウクライナ戦争後の世界は、冷戦のように米中の二極化を軸としながら、帝国主義時代のような複数の大国によるパワーポリティクス(権力政治)が繰り広げられると予想する。

    その際、「複数の大国」がどこを指すか、ここが問題だ。
    そもそも、日本はその中に入れるのか、2023年には中国を抜いて世界最大の人口を抱えるインドの台頭、さらにはロシアや中国が資源外交により取り込もうとしているグローバルサウス(アフリカ、ラテンアメリカ、アジア新興国など)の動向など、更に国際社会は複雑化していく。

    また、前述のグローバルサウスがロシア・中国陣営に取り込まれていくと、民主主義諸国は国際的にマイノリティーとなる可能性もある。例えば、インドが中国に取り込まれたとしたら、この2国だけで人口28億人、実に世界の35%を占めることになる。

    台湾有事、民主主義の衰退と覇権主義の勃興など、世界は激しく変わろうとしている。今後はこのような緊張感をもって、国際問題を注視することが肝要であると、本書を読んで改めて思った。

  • 現在の、そしてこれからの国際情勢を見通すためにジャーナリスト峯村健司が専門家達と行った議論の対談集。「ポスト・ウクライナ戦争」の新秩序、アメリカや欧州、そして日本の抑止論等。内容に具体性のある本だった。

    プーチンが掲げる「帝国ロシアの復活」。習近平が目指す「中華国民の偉大なる復活」。現在の国際秩序を塗り替えることが、この二代国家の理想だと峯村健司は語る。

    情報量は多いが、難しい言葉はそれほど多くない上、機知に富んでいるので読み物としての面白さもある。読み終えて、現状を正しく把握することの重要性を強く感じた。

    以下、気になった対談と覚え書き。

    小泉悠との対談では専門である、ロシアの軍事・安全保障について論じる。
    時代的な背景のせいでロシアは思い込みと被害妄想が強い。そういった認識の歪みや反省しないメンタリティと、この7〜8年の地政学的な環境の悪さが悪魔合体しちゃってるのが、現在のロシアとのこと。さらにその反米思想がメディア操作によって国民意識にも根付き、アメリカの手先になっているウクライナ許せんと、歪んだ認知が定着。なるほどねえ。

    また、ソ連崩壊後の90年代から兵士の間で汚職が蔓延。そうした腐敗体質が軍の上層部まで浸透。ロシア軍の装備が古臭く、兵隊がウクライナで苦労しているのは汚職のせいなんだとか。

    核・ミサイル防衛政策についての専門家、村野将との対談は、現在のリアルな抑止論について検討されていて特に読み応えあり。
    アメリカは国防に使えるリソースが限られているため、ロシアと中国、その他の国々にどのように軍事面でリソースを割くかの検討が必要になる。そこで考えるべきは中国の「台湾有事」と現在急ピッチで進められている「軍民融合」。それらに繋がるのが「核エスカレーション」の問題。日本も無関係ではない話なので、軍配備について考える際の手助けになるはず。

    あえて苦言を呈すと、内容の重複してる箇所が結構あります。また、アメリカ、ロシア、中国が中心過ぎてインドやブラジルあたりの話がほぼ無いです。軍備が拡張しつつある国なので、内容が重複するくらいなら、こちらの国のパートも聞きたかった。

    とはいえ、新書にしては十分なほど密度の濃い話がされているのでおすすめです。同時期に発売された『ウクライナの200日』と併せて読むと、より多角的な視点が得られると思います。

  • 2023/01/18 amazon 1034円読了20223/01/25

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著者プロフィール

峯村健司(みねむらけんじ)一九七四年生まれ。青山学院大学客員教授。北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。ジャーナリスト。元ハーバード大学フェアバンクセンター中国研究所客員研究員。朝日新聞で北京、ワシントン特派員を歴任。「LINEの個人情報管理問題のスクープと関連報道」で二〇二一年度新聞協会賞受賞。二〇一〇年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『宿命 習近平闘争秘史』(文春文庫)、『潜入中国 厳戒現場に迫った特派員の2000日』(朝日新書)がある。

「2022年 『ウクライナ戦争と米中対立』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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