誰も知らない 世界と日本のまちがい 自由と国家と資本主義

著者 :
  • 春秋社
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784393332719

感想・レビュー・書評

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  • 博覧強記松岡正剛氏の世界の中の日本史一筆書き講義録。話し手(書き手)は楽しいんだろうな。でも聞く(読む)方は、俺にも言わせろ的な気分になってフラストレーションが溜まります。日本史に一家言の無い人向け。

  • 松岡の主張は次の一文に要約できると思う。
    「世界はもともとけっして同質ではない。にもかかわらず、現在、世界はアメリカの
    ルール・ロール・ツールによって均質化されつつある。これは間違いである」
    これが松岡の主張である。本書は、第一に、このような状況が「いかに」生じたのか。第二に、この「間違い」に対抗する術はあるのか。この二点について解答を提示することを目的とし、論じられていく。

    ・私たちはいかなる時代に生きているのか
     松岡は現代とは「資本主義」の世界であるとみる。松岡の資本主義観は、ウォーラーステインによっている。本書でも幾度も引用される。ここでいう資本主義とは、世界システムとしての資本主義である。資本主義は今や世界中に網の目のように広がり、グローバル資本主義となりつつある。しかしながら、資本主義は必ずしも安定的システムでもなければ、安心できるシステムでもない。これまでにも資本主義の問題や矛盾は指摘されてきた。もちろん、反対に資本主義を正当化する理論家も多く存在する。なぜ問題や矛盾は存在するのか。その大きな理由は、「世界はもともとけっして同質ではない(P8)」にもかかわらず、世界をある一つの特殊なシステムが覆おうとしているからであると松岡は考えている。

    ・現代社会はいかにして生じたのか
     ではこのような資本主義社会が世界を覆うようになったのは一体なぜなのか。その起源・原因を探っていく。資本主義はそれ自体で発生し、発展してきたものではない。それは「国家」と密接な関係がある。したがって、近代国家の成立を探ることと資本主義モデルの起源を探ることは不可分の関係となる。松岡はその起源を二つの段階に分けて考えているようだ。第一の段階ではその起源をフランスとイギリスに求める。第二の段階ではそれをアメリカに求めている。
    まずフランスであるが、ナポレオンが近代システムの確立のため多くのことをもたらした。第一に国民国家の確立であった。第二に、大陸封鎖令によって、ヨーロッパ各国に経済的自立をうながした。第三にイギリスの産業革命と結びついたことも相まって、商業資本主義から産業資本主義への転換をもたらした。一方でイギリスはグローバル資本主義の成立に大きな貢献をしている。イギリスの三角貿易の発明であるという。その技術的背景には「株式会社」の発明があった。イギリスは覇権を維持するためにアジアとヨーロッパを結びつけた。後に三角貿易はアヘン戦争の原因となり、いよいよヨーロッパ列強がアジアに進出してくるきっかけを作った。その後、イギリスは近代植民地を地球上の各地域につくることによって栄えることとなる。これが「パクス・ブリタリカ」である。この植民地経営による繁栄は、同時にそれまでヨーロッパの内部で興っていた資本主義が世界に広がることを意味した。
     日本が列強の論理(世界帝国のルール)で生きることとなったのは、「日清戦争」の勝利からである。このことは以下の文で表されている。
    『これは一言で言えば列強が用意した「グローバル・スタンダード」に入ったということで、それをしたからには戦争に勝とうが負けようが、どこに植民地を作ろうが奪われようが、ようするに資本主義市場でアップダウンを繰り返して国家を経営していくしかないということを単に示しているだけなんです。』(P234, L9~L10)
    こうしてイギリスの論理が世界の論理となり、日本もその論理の中で生きることとなった。この第一の段階についてもう一点重要な点は「思想的観点」である。それは「社会ダーヴィニズム」だ。ダーヴィンは「種の起源」を記したことで著名な人物である。このダーヴィンの「生物学」における「進化論」とマルクスの唯物史観が合わさり、曲解され、「歴史は発展する」という見方が広まったのである。この思想が資本主義の発展に大きく寄与したことは言うまでもない。
     続いて第二の段階としてアメリカについて述べられている。第一次世界大戦、第二次世界大戦が終結すると世界の中心はアメリカに移っていった。「ブレトンウッズ体制」が確立され、「パクス・アメリカーナ」の時代が開幕した。「パクス・アメリカーナ」は大きく三つの経済政策が柱となっていた。反共主義、新植民地主義、新自由主義である。新自由主義とは、「市場原理主義」と「小さな政府」による資本主義を展開していく政治方針のことをいう。この新自由主義が日本を含め世界を飲み込もうとしている。以上が現代社会の資本主義がいかに生じたのかについての松岡の診断であった。

    ・処方箋としての苗代
     冒頭にも述べたが松岡は「世界が、たった一つの強力な原理や制度で動いていくなどということは、はなはだおかしいこと(P456)」だと考えている。しかしながら現実には、小泉・竹中改革に象徴的であるがアメリカの「新自由主義」が浸透してきている。そこで、松岡が提案することは、その「アメリカのもの」をいったん「苗代」にすることである。苗代とは、稲作で行われてきた方法の一つである。それは、いったん蒔いた種を「苗」にして、それをふたたび田植えで移し替えるという方法である。つまり、いきなり田んぼで育てないのである。成長を二段階にしているといってもいい。グローバリズムの導入をいったん幼若な苗にして、それから本番で植え替えるという方法があるのではないか、このように提案し、本書は終わる。

  • 資本主義ってのがどこから生まれて、どこへ向かっているのか?時代や国やジャンルを超えて、とてもわかりやすく語られていて面白かった。
    「編集」の大切さや日本の持つ可能性など、いつもこの人の本を読むと様々な視点とアイデアが勉強になる。

  • 仕事のために再読。

    実際の講義を文字に起こしただけあって非常に読みやすいし、最初の方で著者が提唱した「編集」という概念の大切さはとても共感できる。
    で、著者自らがその「編集」とはどういうことかってのを、歴史を語るうえでも実践していて、「こういうの、20代の初めに読んでたら、またその後の知的好奇心は変わってただろうなあ」と思わせてくれる。

    ただ、ところどころ「ん?それは違うんじゃないの?」という事実認識が出てきたりして、たぶん語っているからつい口が滑ったとかだと思うんだけど、そこがちょいとマイナス。

  •  歴史の雑学を披露し、常識とは別の角度からモノ申す趣向の本である。日本文化研究者の第一人者、松岡正剛の本を読んでみた。第10講「資本と大衆の時代」について、こちらの内容についてはとても興味深い。

  • 松岡氏の書かれた本は初めて読みましたが、資本主義の発生・成長過程にスポットをあてて、近代史を解説してくれている本です。最近、資本主義が行き詰まりを見せかけていますが、資本主義というものが、誰によってどのように生まれてきたかを知ることは興味あることでした。

    乱暴な言い方かもしれませんが、資本主義は労働コストが低く抑えられていた始めのころ(奴隷や、それと労働コストが変わらない人たちが、働いていた頃)はうまくいったシステムですが、その方法がとれなくなると、うまく機能しないのかもしれませんね。

    以下は面白かったポイントです。

    ・ヨーロッパの列強が、強大な力を持ったオスマン帝国を追い詰めることになったのが第一次世界大戦である(p13)

    ・イギリス国内では紅茶の消費税を引き下げたのに、植民地のアメリカでは関税をかけたことが、1773年の「ボストン紅茶事件」、独立戦争につながった(p15)

    ・連帯保証人とは、連帯債務者であり、人的担保(人質)そのものである(p24)

    ・秀吉が関白秀次に密かに託した「国割り」には、後陽成天皇を北京に移し、大日本帝国の首都を北京、秀次は内閣総理大臣(大唐の関白)、日本国内政治は、宇喜田秀家あたりを考えていた(p51)

    ・日本に伝わったキリスト教は、新教(プロテスタント)に反対した旧教側の、ラディカルな団体(イエズス会)であった(p60)

    ・イギリスの王(ヘンリー8世)が離婚して、アン・ブリーン(エリザベス1世の母)と結婚するときに教皇に許しがもらえなかったので、1534年に首長令を発布してイギリス教会は自立した(p61)

    ・森林型の「多神多仏」では、時期を待つ、多くの意見を聞いてまとめる、リーダーが何人もいる、見送る、チームが分かれる、といった保留という考え方が成り立った(p75)

    ・株式会社の誕生とともに三角貿易(本国、植民地、相手国の三角:イギリスが本国生産の絹布をインドへ輸出、インドはアヘンを中国へ輸出、中国から紅茶を輸入)を生かして本国が利益を圧倒的に有利にする)が始まった(p92、160)

    ・中国の人口が漢代(0.6億程度)から、18世紀に4億人になったのは、サツマイモのおかげ(p95)

    ・産業革命には、動力革命・交通革命・産業革命の三段階がある、1757年にプラッシーの戦いでイギリスはフランスを破ってインド獲得、1763年に7年戦争でフランスからアメリカ植民地を獲得する(p121)

    ・1842年の南京条約は、香港割譲・5港の開港・没収アヘンの代金支払い・イギリス戦費補償・関税(5%)・領事裁判権・最恵国待遇、などである(p162)

    ・主体や主語を二人称や三人称において、自分の位置を一歩控えて、そこから状況を見るのが日本の特徴(p197)

    ・ベルリン西アフリカ会議では、アフリカに興味を持つ14カ国がアフリカ分割を行った、コンゴの人口はこれにより2000万から900万人に減少した(p243)

    ・20世紀初頭には、欧米列強はアフリカ分割・アジア侵略を経て、世界の84%を支配した、そのころの工業力は100年前比較で、イギリスは2倍、アメリカは3倍、ドイツは4倍である、欧州人口はその間に、2→4.5億人となった(p301)

    ・ドイツでは1900年には戦艦はイギリスを凌駕していた(戦艦:38、巡洋艦:42)、ついにイギリスがドイツと衝突したのが第一次世界大戦である(p304)

    ・第一次世界大戦の敗戦国は、ドイツ・トルコ・オーストリア・ブルガリアの4カ国、戦勝国は英仏露米等の27カ国、但し両者とも米国以外はかなり消耗した(p306)

    ・新植民地とは、政治的に独立していても軍事基地がおかれているような地域(日本にも10箇所の米軍基地あり)、アメリカが保有する、ジャマイカ(ボーキサイト)、ベネズエラ(石油)、ペルー(石油と銅)、グアテマラ(石油とバナナ)、かつてでは、フランスのアルジェリア、イギリスのザンビア・ジンバブエ、ベルギーのコンゴである(p395)

    ・高度経済成長のシンボルである新幹線の資金は世界銀行から借りた、その条件が日本の石炭産業の整理であった(p409)

  • 一人暮らしを続けてる中で、お風呂で本読みが習慣になってきた。よっぽど、酔ってない限りとにかく本を読む。のぼせない様に30分

    で、今日読んでた本の中で、松岡正剛さんが32歳のときに、野尻抱影さんという90歳の星の学者に会いにいった話があったんだ。

    野尻さんは、松岡さんに年齢を聞いて32歳だとわかると、
    「まだまだ、動物やな。50か60に成ったとき人間は人間になるんや。人間になるまでは、時々足を地面にふみつけてごらん」と。

    「何が起こっていると思う?」
    「足の下で地球がまわってるんだ。だからこうゆうことを人間になるまで時々思い出しなさい」って


    と、ここでお風呂で一息。うーん。自分に振り返るとどうゆうことなんなだろう。思わずお風呂の床を踏みつけてみる。ちゃぽんって。波がたつ。

    松岡氏は、「地球が廻っている上に僕らがいるってことは、僕らは地球やその時間の一部であるってこと」とまとめるがいまいちピンとこない。

    もしかすると、自分はいつのまにか会社や、社会や、周りの皆や、自分の周りを取り巻く世界に立っているって幻想を抱いて、時間さえも僕の時間と思い込んでいるのかもなって。一部なのに、時間も自分でコントロールできるって傲慢になってるだから動物なんかなと。

  • 近代の話は読んでて鬱になってくる。
    おかげで読み終わるのに時間がかかってしまった。

    内容はダイジェスト的な感じでちょっと物足りない。

    イギリスの歴史的犯罪に結構スポットが当たっている。

  • 松岡正剛さんの俯瞰的ものの見方は大いに参考になる。時間と距離を軸に、縦横無尽だ。

  • コクコクしたり、すっ飛ばして読んでたけど…
    結びの部分はョイこと言ってるじゃん。

    私も日本が好き〜♪
    些細な変化を味わえる繊細さが好き!
    こんなことを強く思えるのは、イマの時代に日本という国に生まれてこれたから☆

    でも、この繊細さを扱うのは難しい。
    少し間違うだけでツマラナイ人間になってしまう。
    今は、プラスの繊細さが消えてマイナスの繊細さバカリ目立つ

    それは、戦争を経て欧米化した時代に生まれたからしょーがないのかもしれないね。。
    今しか見えてないものは、キット真の良さには気付けない。


    っとまぁ、話は大きくずれましたが…
    いったん「小さいもの」を作っておく。
    それを認識したうえで大きいものを作ったら??という提案。
    今は、大きいものしか見えていないから。。
    繊細なこころを持つ日本人だからこそ「小さな変化」を見立てられる。
    そこが、日本の強みなんじゃない??というカンジでした。

著者プロフィール

一九四四年、京都府生まれ。編集工学研究所所長、イシス編集学校校長。一九七〇年代、工作舎を設立し『遊』を創刊。一九八〇年代、人間の思想や創造性に関わる総合的な方法論として″編集工学〟を提唱し、現在まで、日本・経済・物語文化、自然・生命科学、宇宙物理、デザイン、意匠図像、文字世界等の研究を深め、その成果をプロジェクトの監修や総合演出、企画構成、メディアプロデュース等で展開。二〇〇〇年、ブックアーカイブ「千夜千冊」の執筆をスタート、古今東西の知を紹介する。同時に、編集工学をカリキュラム化した「イシス編集学校」を創設。二〇〇九~一二年、丸善店内にショップ・イン・ショップ「松丸本舗」をプロデュース、読者体験の可能性を広げる″ブックウエア構想〟を実践する。近著に『松丸本舗主義』『連塾方法日本1~3』『意身伝心』。

「2016年 『アートエリアB1 5周年記念記録集 上方遊歩46景』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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