- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784394190271
作品紹介・あらすじ
チベットの現代作家たちが描く、
現実と非現実が交錯する物語
伝統的な口承文学や、仏教、民間信仰を背景としつつ、
いまチベットに住む人々の生活や世界観が描かれた物語は、
読む者を摩訶不思議な世界に誘う――
時代も、現実と異界も、生と死も、人間/動物/妖怪・鬼・魔物・神の境界も超える、
13の短編を掲載した日本独自のアンソロジー
感想・レビュー・書評
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小説というジャンルがまだ新しいというチベット文学。現実と空想が妖しく溶け合う短編集で大変面白かった。章ごとに解説があり、分かりにくい背景を補ってくれる。厳しい内容の「ごみ」が心に残った。
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twitterで情報が流れてきて興味を持ったので購入、読了。
現代チベットの作家の掌短編集で、
幻想的な作風に的を絞ったもの。
原著はチベット語または中国語で書かれた作品、全13編。
諸外国人から見た“ステロタイプなチベット”ではない、
当地の普通の生活者の日常――の延長線上にある、
信仰と怪異の情景。
■ツェリン・ノルブ「人殺し」(2006年)
■ツェラン・トンドゥプ
「カタカタカタ」(1989年)
「神降ろしは悪魔憑き」(1984年)
■タクブンジャ「三代の夢」(1989年)
■リクデン・ジャンツォ「赤髪の怨霊」(1990年)
■ペマ・ツェテン「屍鬼物語・銃」(初出不明)
■エ・ニマ・ツェリン
「閻魔への訴え」(初出不明)
「犬になった男」(初出不明)
■ランダ
「羊のひとりごと」(1992年)
「一脚鬼カント」(1996年)
■ゴメ・ツェラン・タシ「一九八六年の雨合羽」(2013年)
■レーコル「子猫の足跡」(2016年)
■ツェワン・ナムジャ「ごみ」(2016年)
異文化圏の様相を垣間見る新鮮な読書体験だったが、
生活様式は多少違っても、
人間が喜んだり怖がったりする「もの」「こと」は、
やっぱり同じだと納得。
巻頭ツェリン・ノルブ「人殺し」のインパクトが
強烈過ぎて、他が幾分霞んでしまったのが残念だった。
「人殺し」は、トラック運転手の〈俺〉が
山道で助手席に乗せてやった、
復讐したい相手を探しているという男の
その後の動向を気にかける話。
本来別個の存在である二者が時空を超えて合一する
ボルヘス的幻想譚の趣。 -
バリエーションに富んだ幻想奇譚を収録したアンソロジー。チベット文化に馴染みが薄い場合でも丁寧な解説が巻末に付いているため支障なく読めます。どの短編も面白く甲乙付け難いのですが特に気に入ったのは異音に悩まされる「カタカタカタ」です。
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楽しく読了。
書店でふと目にした蔵西さんの美しい表紙に魅了され、チベットのお話の世界に足を踏み入れる幸運な人もいるのじゃなかろうかと思う素敵な装丁。
幻想奇譚と銘打って入るものの、なんちゅーか非常に現実的なチベットのお話のようにわたしには思えました。古い伝統を維持してきた旧来の社会に突如として侵入してくる資本主義。(広義の)グローバリゼーションの中で世界中で経験されてきた物語がチベット風味をまとって語られます。
おもしろーい!
チベット社会を知るにももってこい!
何通りかうがった読み方もできるし!
ですが単にお話としてめっちゃ楽しめます。
みんなの感想を聞いてみたい! -
チベット。ポタラ宮とダライ・ラマみたいな袈裟をかけた僧侶がいっぱいいるところ、あと何にもイメージが浮かばない。たぶん経済的には貧しい地域なんだろうなくらいの印象しかない。
文学の力って、そんな接点のない地域の文化でも、読み解くことによって、おぼろげながら見えてくること。
なんだ、この面白い話の数々は!
チベット凄いぞ!
この本には13の短編が収められているが、作品の特徴によって3つの章に分けられている。
Ⅰ、まぼろしを見る
Ⅱ、異界/境界を越える
Ⅲ、現実と非現実のあいだ
それぞれの章の終わりに作品解説があるので、これ、どういう意味?となった頭の中のモヤモヤも、すっきり解決する。とても親切な編集。
第一章の、まぼろしを見る、はそのまんま、夢か現かわからないようなお話し。面白くないわけじゃないけど、正直、この調子で最後までいったらしんどいな、と思った。
ところが第二章の、異界/境界を越える、の最初の短編「屍鬼物語・銃」かツボにはまった。もともとインドから伝わってきた話が、チベットでアレンジされたらしいけど、その設定がなんとも、こう言ってはなんだが、かわいい。
ある日、師匠の命を受けた若者が、墓場から屍鬼を連れ出して、師匠のもとに届けることに。道中では決して屍鬼と話してはいけないという掟があり、その沈黙の掟を破ると屍鬼は墓場に飛んで戻ってしまう。しかしながら、屍鬼は早いこと墓場に戻りたいから、若者に面白い物語を延々と語りかけ、時々、どうだ?この続きが聞きたいだろう?と若者の様子をうかがう。ひたすら耐え続けた若者だったが、最後の最後で、「で?どうなった?」と尋ねてしまう。
その途端、残念!ゲームは振り出しに! ということで、屍鬼は、墓場へびゅーんっ!と戻ってしまう。
描かれてはいないけど、してやったり顔が目に浮かぶ。ほら、なんかかわいいでしょ? 水木しげる先生だったら、めちゃくちゃかわいいキャラに描いてるはず。
この屍鬼物語だけで一冊になってもたぶん買って読む。
この他にも、羊のひとり語りで、信心深い人たちの生活習慣と、自らに待ち受ける運命を語る話とか、子猫の目線で、たぶん牧畜で糧を得ている山村の貧しい生活を語った話とかあって、それも個人的には気に入っている。チベットは人と動物の距離が近いのだと思う。
あと、ゴミ山で拾ったゴミをわずかな現金と引き換えにして暮らしている人々の話の、その名も「ごみ」も面白かった。ゴミ山に生まれたばかりの赤子が捨てられていたことから話は展開するのだが、そこから、それまで均衡が保たれていたゴミ山での人間関係が崩れていく話。どうにもならない生活苦と、仏教からくる倫理観とのせめぎ合いが、いまのチベット社会の現状を反映しているのかな、と思う。
ぜひ第2弾、第3弾と続けて刊行して欲しい。 -
チベットの幻想小説アンソロジー。チベット文学ってあまり読んだことがないし、文化も知らないなあ。でもどこの国の人も怪奇幻想って好きなのかしら(笑)。
お気に入りはツェラン・トンドゥプ「カタカタカタ」。なーんかこのタイトルだけで不気味に思えました。実際描かれるシチュエーションの数々が、どうしようもなく不安をあおります。だけど結末ですとんとうまく落とされた感じで、すっきりしました。
猫好きにとってはレーコル「子猫の足跡」がなんだか切ない作品です。でも解説を読むと、いろいろなことが暗喩されているのですね……。 -
(借.新宿区立図書館)
チベット(正確には中国のチベット地方)現代小説で魔物的なものが登場する短篇集。チベット現代史の一面も見られる。