中盤以降に明智小五郎が登場する。
それ迄は犯人の独壇場だ。
新聞記事によって事件の凄惨さが世間を賑わせる描写に時代を感じる。
小道具が惜し気なく使われていて面白い。
ピストルが出て来るのは予想外だった。
助手の野崎三郎も波越警部のなかなか好人物だった。
私には青髭=畔柳博士が遊んでいるようにしか見えない。
芸術的ではない。
変装したりいつも楽しそうだと感じた。
一方、富士洋子のような顔貌の女性をコレクションする趣味には生理的な嫌悪感を抱いた。
勇猛果敢な洋子が同情を起こし、捕えた青髭を逃がそうと気を緩めたのは気の迷いとしか言えない。
「パノラマ島奇談」と重複する場面が非常に多い。
屍蝋も裸女の地獄池もそうだ。
作者自身の背徳的な理想が反映されているのだろうか。
明智は犯人の逮捕より個人的な真相の追求を優先すると述べているが、もしかしたら自身の推理で犯人を圧倒し、絶望させて自死させる事が真の目的ではないのかと考えたくなってしまう。