- Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
- / ISBN・EAN: 9784396113582
感想・レビュー・書評
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ニューヨークを拠点に国際的に活躍する日本画家の著者が、質問に答える形で自身の芸術観を語っていく本。
大上段に振りかぶったタイトル(本書の最後の質問でもある)が示すとおり、質問の多くは「そもそも」と頭につけるのがふさわしいような“大きな問い”である。
たとえば、「人間は、なぜ絵画を描くのですか?」「芸術家とは才能ですか、技術ですか?」「芸術家は、死ぬまで描くべきですか?」など……。
そうした“大きな問い”の合間に、「岡本太郎は、なぜ海外で評価されないのですか?」とか、「美大、芸大の教育で画家になれますか?」などという個別具体的な問いがある。
いずれにしても答えにくい問いが多い印象だが、著者はすべての問いにきわめて明快に答えていく。
それらの答えの中には「うーん、極端なこと言ってるなあ」と思わせるものもあるが、「なるほど」と感心する答えのほうが多い。
語り口調に近い平明な文章で綴られているが、随所に深い「芸術哲学」ともいうべきものが見られ、読み応えがある。
印象に残った一節を引く。
《良い作品ほど、余白が単なる描き残しではなく、奥行きの深い空間に感じられるものです。
(中略)
西洋絵画の場合、一般的にはいわゆる余白という概念が入り込めないような、空間すべてを描き込んで埋めてしまうものです。すべてを支配する人間中心の世界観からか、あるいはキリスト教的価値観から、神と自分の間には不可知を認めたくなかったからかもしれません。
いずれにしても、余白への無関心は、西洋絵画が大きな行き詰まりに到達する要因でした。》
《絵画の見方は、「自分」「環境」という変わりえる変数が複数ある方程式のようなものです。年齢、人生経験、立場、境遇によって、極端な場合は、朝と夜でも同じ絵画が違って見えることがあります。》
《わびさびとは、空間と時間に対する尊敬の概念です。これは、その気になって探せば、世界中至るところに存在していますし、欧米の現代アートの中には、まさにわびさびとしか言いようがない仕事をしている芸術家たちもいます。これが、古いものを捨て新しいものを築いていく西欧的モダニズムのなかで、積み残されていたのです。
わびさびは、そもそも、かつて洋の東西関係なしに皆知っていたことです。古びていくことのすばらしさがさび、そして「こんなおもてなししかできません」とお詫びする心をわびと言います。》
《そもそも、「美」という感覚は、「生きていてよかった」「生まれてきてよかった」ということです。「なぜ、人間が緑の植物にや花々に美を感じるかというと、太古の昔、そこに行けば生きていけるから、それが、生存のための本能になったのでは」と、物理学の佐藤勝彦先生(東京大学名誉教授)から、うかがったことがあります。その通りだと思います。》
《(「生きる希望を失った人に観せたい絵画は何ですか?」との質問に答えて)
芸術作品なら、何でもその候補です。色々な作品を観せたいと思います。すぐれた芸術作品は、基本的には生きるリアリティーに満ちており、絵画は、画家が夢中で生きて描いた証です。
(中略)
突き詰めれば、ある意味では、絵画は生きる希望を失ったり傷ついて落ち込んでしまっている人のために存在していると言ってよいかもしれません。楽しくてハッピーな人は絵画なんか必要としていません。外に行って、ひとりで遊んでいればいいのです。》詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
うーんあまり相入れない。オークションは画家に一銭も入らないから存在悪、という部分だけ、目から鱗であった。
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千住先生の考え方、とくに芸術の世界では賛否両論あるのかな、と邪推しつつも、自然観について、とても明瞭で一貫しているものとして共感。
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偉そうなおじさんの長い説教と自慢話。しょうもない…
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●インターネットでは基本的に視覚情報と音、そして文字情報しか伝わらないのに対し、美術や音楽のみならず、茶道華道、料理までの多種多様な芸術は、インターネットが1番不得意とする空間や質感、温度感、匂い、湿度そして空気感にこそ、その軸が置かれている。
●岡本太郎。あなたの職業はなんですか?「人間だ」
●日本画は和紙、西洋画は洋紙、キャンバス。日本画は動物性タンパク質、水溶性。絵の具は同じだが、西洋画とは接着方法が違う。人は道具でものを考える。
●狩野永徳の花鳥図。モナリザの担保にルーブルに渡った。
●年間100作以上がアメリカの画商によって、全世界のコレクターに収まっています。しかし、全くオークションに放出されていません。これは画商とコレクター、コレクターと作家、そして作家と画商の信頼関係の証左です。
●生きている作家にとって、オークションに出ることのメリットは何もありません。
●値上がりを期待して絵画を購入するのは邪道。 -
あまりに漠然とした「問い」に興味を持ち読んでみたが、
著者の千住博氏のその答えがストンと腑に落ち途中からそのことばをノートにメモりながら読み進めることになってしまった。
賛否あるかもしれないけれで、私の中では 正統派 というか知識が一つ増えたというか...いい本だと思った。 -
久米書店