やっと訪れた春に

著者 :
  • 祥伝社
3.79
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本棚登録 : 147
感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396636296

作品紹介・あらすじ

男は、生きるのがどこまでも下手だ。

二人の藩主を擁する橋倉藩。
割れて当たり前の藩を割れさせぬ――
重すぎる命を課された近習目付たちの命運は。
名もなき武家と人々の生を鮮やかな筆致で映し出す。

橋倉藩の近習目付を勤める長沢圭史と団藤匠はともに齡六十七歳。本来一人の役職に二人いるのは、本家と分家から交代で藩主を出す――藩主が二人いる橋倉藩特有の事情によるものだった。だが、次期藩主の急逝を機に、百十八年に亘りつづいた藩主交代が終わりを迎えることに。これを機に、長らく二つの派閥に割れていた藩がひとつになり、橋倉藩にもようやく平和が訪れようとしていた。加齢による身体の衰えを感じていた圭史は「今なら、近習目付は一人でもなんとかなる」と、致仕願を出す。その矢先、藩の重鎮が暗殺される。いったいなぜ――隠居した身でありながらも、圭史は独自に探索をはじめるが……。

感想・レビュー・書評

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  • 本家と分家、交代で藩主を出していた橋倉藩では十四代目当主候補岩杉重政が相続を辞退し、ようやくその分裂めいた状況が終息するかに見えた…が、重政暗殺により事態は急変、本家分家それぞれの近習目付であり幼馴染であり親友の長沢圭史と団藤匠が暗殺犯を追う。

    事件の成り立ちも、登場人物たちの動きも思想も、間違いなく江戸時代の一地方藩を舞台にした時代小説なのに、現代社会派ミステリーの味わいを深く漂わせる。官僚の、家族を亡くした男の、老いて思うように生活できなくなった還暦過ぎの、それら全ての悲哀はすべて時代を超えて通じる感情であり、物語。

    清廉さ鋭利さを伴う友情や愛情は北欧ミステリーの味わいにも似ているように思える。青山文平は見逃せない。

  • サスペンスのようで興味を惹かれた

  • 時代小説とミステリが合わさったような小説。普段は現代ものばかり読んでいるので、初めは文章や単語に馴染めなかったが、登場人物やその時代の暮らしがとても魅力的で飽きなかった。
    ストーリーも大胆で面白く、最後は一気に読んでしまった。

    宮部みゆきさんの時代小説と同じく、梅干しやうどんなど、素朴な料理がとっても美味しそう。

  • 本家と分家が交互に藩主を出すという極めて不安定な事情を抱えた藩で、両家の当主を支えながら藩の政治の安定を図ってきた二人の壮年の侍。藩の中興の祖から続く因縁を密かに抱えながら、厚い友情で結ばれ苦楽を共にしてきたが、重臣の暗殺により思わぬ展開を見せる。あらすじといい、登場人物の魅力といい、素晴らしい歴史小説。藤沢周平や山本周五郎に匹敵する面白い小説を書く著者。他の本も読んでみたい。

  • 「藩政を抜本改革した分家の岩杉重明以降、本家と分家から交互に藩主を出していた橋倉藩は、重政が相続を遠慮したため分裂が終わるはずだったが、その重政が刺殺された。重明の命で反対派を粛清した鉢花衆の末裔・長沢圭史と団藤匠は、馴染みのうどん屋で議論しながら犯人を追う。」(『2023本格ミステリ・ベスト10』歴史・時代ミステリ2022)

    簡にして要を得た紹介なので、ママ転載。

  • 題名が爽やかな感じがして借りたが、内容はかなり凄まじい話だった。くるみみそのうどんが出てきて食べてみたくなった。

  • 2022.10.25

  • 毎回飽かずに思うけど、青山文平の作品は、時代小説だということを忘れてしまうほど登場人物たちの心の動きがリアルに描き出されている。そして怖い。
    唯一無二のスタンスをもった時代小説作家だと思う。

    百十八年にわたって本家と分家で交互に藩主の座につく習わしになっていた橋倉藩。それは、武神と称せられる四代目藩主の伝説から生まれた慣習であった。
    近習目付を勤める長沢圭司と団藤匠は、その伝説に登場する鉢花衆の末裔だった。
    ある日、藩主の供を務めていた圭司は城の堀に落ちるという失態をおかし、勤めを辞退する。

    高齢ではあるが壮健だった圭司がなぜ堀に落ちたのか…
    それを発端にいくつもの謎の存在が明るみに出、解かれていく。
    伝説の真実はどこにあるのか。

  • 小説NON2022年2月号〜5月号掲載のものに加筆修正し、2022年7月祥伝社刊。二つの家から交互に藩主を出すという橋倉藩。そのことわりを形づくったと言われる鉢花衆を継ぐ同い年六七歳の長沢圭史と団藤匠の二人の近習目付の活躍が楽しい。特殊な設定の中で、藩主暗殺事件がおこり、二人が謎を追うというストーリーは、緊迫感たっぷりで面白い。犯人の動機に納得できないところもあるが、狂気じみた意表を突く展開と出来事が興味深かった。

  • 藩主が二人いる橋倉藩。
    当然、そこには二人の近習目付を置くことになる。
    だが、藩主相続を望まないという申し出と共に
    藩はひとつにまとまった。
    春が訪れようとしていた。
    が、そこで起きた暗殺事件。
    P220
    〈時々の代をつなげていく者たち〉の
    命(めい)に縛られた過酷で悲しすぎる生き方に胸が塞がる。

    青山文平さんらしい、重厚で情に溢れた作品。
    読み終えてほーっとため息が出た。

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著者プロフィール

作家

「2022年 『ベスト・エッセイ2022』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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