住み続ける権利: 貧困、震災をこえて

著者 :
  • 新日本出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (214ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784406055680

感想・レビュー・書評

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  • 威勢はいいが、地に足がついていない。特に後半の記述がひどかった。とてもじゃないが、人権としての住み続ける権利を確立するための論考のていをなしていない。本書には未来への道筋も希望も慟哭もないからだ。

    ・カトリーナハリケーンについては、状況のつかみかたが表面的に過ぎる。
    ・スウェーデンに過疎地はないのか?というトピックは面白いが、20年も前の話だし、全般的な調査でもないので信用に欠ける。
    ・「やることがなくて困っている」という話しも興味深いが本当に多様な被災者の一例に過ぎないと思ってしまう。
    ・原爆のむごさの伝え方においては暴論である。展示を通した社会教育に携わってきた一人として、暴力、残酷性の子どもへの伝え方は細心の注意を払わなければいけない。特に展示という一方的で、来場者の反応に即時にこちらから対応できないメディアでは。

  • 井上英夫『住み続ける権利―貧困、震災をこえて』(新日本出版社、2012年)は基本的人権の一つとして「住み続ける権利」を提唱した書籍である。貧困問題や震災を踏まえて住み続ける権利の保障が現代社会において重要な意義を持つと主張する。

    著者は阪神淡路やスマトラ島、東日本大震災など地震や津波の被災地の窮状を紹介する。さらに群馬県渋川市の高齢者入所施設「静養ホームたまゆら」火災事件など住まいの貧困の現場も取り上げる。貧困や不平等が「住み続ける権利」を侵害しており、それが痛ましい状況の背景になっている。

    本書の問題意識に共感する。東京都世田谷区では東急電鉄・東急不動産の再開発・二子玉川ライズによってビル風など住環境が破壊され、住民は生活の危機に直面している(林田力『二子玉川ライズ反対運動』)。東京都品川区では東急大井町線高架下の住民が東急電鉄から一方的に立ち退きを要求され、長年生活してきた住居を奪われようとしている(林田力「東急電鉄が大井町線高架下住民に立ち退きを迫る」)。ゼロゼロ物件や追い出し屋などの貧困ビジネスによって低所得者の住居は不安定になっている。

    これらは全て「住み続ける権利」の侵害である。資本主義経済の下では住民も建物も頻繁に入れ替わった方が金は動き、経済発展に資する。そのために体制側は追い出しに好意的である。二子玉川ライズは「賑わい」、大井町線高架下住民追い出しでは「耐震補強工事」という名目を掲げている。

    それらの動きに「結局のところ、私達を追い出したいのだね」と住民達が直感することは正当である。だからこそ、住民側は「住み続ける権利」という人権論で対抗することは意義がある(林田力「マンション建設反対運動は人権論で再構築を」PJニュース2011年6月17日)。

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著者プロフィール

【解題】
新井章(弁護士)

「2015年 『現代日本生存権問題資料集成3』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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