ナチスもう一つの大罪: 安楽死とドイツ精神医学

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  • 人文書院
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  • Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784409510377

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  • T4作戦や日本語のウィキペディアでは独立した記事項目さえない14f13、廃疾作戦などについて一通り学べる本です。末尾には脳死、臓器提供、日本帝国における精神医学の貧困さやナチ・ドイツの巨大な戦争犯罪と相対化させぬために、様々な日本が主体的に関わった戦争犯罪も簡素ながら列挙され731部隊のこともほんの少し書いてあり前世紀前半を覆った大量殺戮の主要なものの一端が十分垣間見え、現在の命の格差につながる問題を熟考に導くにも必要要件を満たしていると思われる推奨書籍です。

  • 1940年、ナチス断種法を日本的に焼き直した「国民優生法」が制定された。しかしこの点においても、日本はまだ国家が遺伝病対策に本腰を入れる段階に達していなかった。当時の日本における死因の第一位は相変わらず結核であり、精神病や癌その他の慢性疾患は公衆衛生の対象のはるか埒外に置かれていた。事実、「国民優生法」の適用による断種件数は、敗戦までにわずか454件にすぎなかった。これは当時の日本がナチス断種法の理念を否定してあくまでも人道的に法律を制定、運用したためでは決してない。対象となるべき精神病患者がほとんど捕捉されていなかったためなのである。したがって、精神科医療の不備とならんで精神病患者の調査不足こそが、この数字に現れた結果にほかならない。戦後に至るまで、日本の精神医学が一貫してドイツ精神医学の強い影響のもとに整備されてきたことは言うを待たない。日本におけるT4作戦の欠如は、ひとえに実際の精神科医療がドイツに比して、内容的にも、また時間的にも、相当に立ち遅れていたことにその原因の一端をもつ。この事実を無視したまま、両者の戦争犯罪を比較することは全く無意味である 。

  • 参考文献。

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著者プロフィール

元上野メンタル・クリニック院長、精神医学史家

「2022年 『精神分析とナチズム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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