カブラの冬: 第一次世界大戦期ドイツの飢饉と民衆 (レクチャー第一次世界大戦を考える)

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  • 人文書院
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  • Amazon.co.jp ・本 (154ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784409511121

感想・レビュー・書評

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  • 海上封鎖による輸入路破壊とグダグダの食糧管理政策がナチズムを生み出したというのは興味深い
    食糧政策失敗の反省を生かした政策を実行したのがナチスというのは微妙な気分になる
    ナチスは悪でもやったことすべてが悪とは限らないということか
    「食い物の恨みは恐ろしい」がここまで真に迫ってくることもない
    レクチャーというだけあって短いので読みやすい

  • 第一次世界大戦、連合国はドイツの食糧輸入ルートを封鎖。
    ドイツは元々食糧、肥料、飼料を自給できなかったのに、短期決戦を想定し、食料供給の手立てを用意していなかったドイツ政府は狼狽。国民は飢えに苦しんだ。
    政策のミスもかさなってドイツ人は60万もの命を失い、暴動や反乱が発生した。
    やるせないのは、この飢えの苦しみを記憶に刻みこんだドイツが、食糧を始めとする物資時給のために次の戦争を起こし、さらにスラブ人やポーランド人の食糧を収奪したこと。
    僕は、第二次世界大戦で、ドイツ人が「不要な民族を飢餓で大量に殺す」政策を選択し、ユダヤ人やスラブ人を飢餓状態に置いた、びっくりするほど野蛮な発想がどこから来たのか不思議だったのだけれど、自分が苦しんだが故に有効さをよくわかっている手段をとったのだと。

  • 確認先:川崎市立宮前図書館(DT13)

    ドイツの近代史、とりわけ第一次大戦下の1917年の冬に起きた大規模な飢饉(イギリスによる食料の海上封鎖に加え、自国内でのジャガイモ凶作が重なった)のことを「カブラの冬」と呼ぶ。評者は本書を読むまではまったく知らなかったが、さらに言えば、ここで言う「カブラ」というのは食用のカブのことではなく、家畜飼育のエサであるルパダガだ(北海道の農家の方なら「ビートの青菜の部分をおかずにする」とお考えいただくと、スムーズにご理解できるのではないか、と評者は考える)。

    と同時に、この時代に噴出した餓死という形態の変化と、「死ななくてもよかった生命」から生じるルサンチマン(恨みつらみ)と、その恐怖がどのような民衆心理の醸成へとつながっていったのかについての仔細な検討を試みるための「前提条件の提示」(この問題は、藤原一人が答えるにはあまりにも大きな問題である)を少ないページでコンパクトにまとめてあることにも留意する必要があるだろう。

    なお、死亡者数76万人は大げさであるというどっかで聞いたようなたわ言もネット上では散見するが、その数値の真偽性の如何ではなく、「腹が減っては戦はできぬ」という諺ともつながりを持ちかねないこの現象から何を学ぶことができるのかという問いのほうが大きいのではないだろうか。

  • 第一次大戦のヨーロッパにおける食料事情を記述した本。76万人もの民間人の餓死者を出したドイツ帝国の状況は悲惨の一言に尽きる。飼料用の不味い蕪しか食べるものがなく、食料配給が少なくなって体力が低下し、インフルエンザなど伝染病で次々に死んで行く人々。このトラウマが東方拡大路線と言うナチス政策支持に繋がり、第二次世界大戦へと向かうと言う皮肉。単純に平和をと叫ぶだけでは何の解決にもならないと言う悲しい結論が見えてくる。

  • 第一次大戦下ドイツの飢饉は、ナチを育む土壌となった。
    イギリスの海上封鎖は単なる戦術ではなく「食糧テロ」というパンドラの箱であった。
    うまく終わることが出来なかったWW1がWW2につながることを予測していた人は結構いたらしい。
    どこが勝っても続けるしかないスパイラル。

    今までナチスの「生存圏」って言葉がいまいちよくわからなくて、過激派がよく使う被害妄想の類だと思っていたんだけど、飢餓の恐怖に基づいた食糧計画でもあったのか。つまり餌場という生存に必要なテリトリーの確保。

    後書きを読んで、テーマに向き合う姿勢の真面目さに衝撃を受けた。
    私はこの誠実さに見合う読み方ができていただろうか。…できてないよな。寝ぼけながら読んでたし、まさに危惧されたとおりの先進国中心な読み方しちゃったし。
    正座して読み直したい。

著者プロフィール

1976年生まれ。京都大学人文科学研究所准教授。専門は農業史、食の思想史。2006年、『ナチス・ドイツの有機農業』(柏書房)で日本ドイツ学会奨励賞、2013年、『ナチスのキッチン』(水声社/決定版:共和国)で河合隼雄学芸賞、2019年、日本学術振興会賞、『給食の歴史』(岩波新書)で辻静雄食文化賞、『分解の哲学』(青土社)でサントリー学芸賞を受賞。著書に、『カブラの冬』(人文書院)、『稲の大東亜共栄圏』(吉川弘文館)、『食べること考えること』(共和国)、『トラクターの世界史』(中公新書)、『食べるとはどういうことか』(農山漁村文化協会)、『縁食論』(ミシマ社)、『農の原理の史的研究』(創元社)、『歴史の屑拾い』(講談社)ほか。共著に『農学と戦争』、『言葉をもみほぐす』(共に岩波書店)、『中学生から知りたいウクライナのこと』(ミシマ社)などがある。

「2022年 『植物考』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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