水曜日のアニメが待ち遠しい:フランス人から見た日本サブカルチャーの魅力を解き明かす

  • 誠文堂新光社
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  • Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784416315088

作品紹介・あらすじ

日本のアニメやマンガがフランスで大きな支持を得ているといわれています。実際、フランスで行われている「ジャパン・エキスポ」の来場者数は右肩あがりで、20万人を越す集客を誇るイベントに成長。しかし、どうしてフランスで日本のアニメやマンガが受け入れられるにいたったのでしょうか?

本書では、フランスにおける日本のアニメ・マンガ文化の輸入史を黎明期から振り返るとともに、人気となった理由をわかりやすく分析。フランスにおける日本アニメの放映が本格的にスタートした1970年代に幼少期を過ごした当事者だからこそ知るエピソードや実体験も豊富に交え、「クールジャパン」の正体に切り込みます。

感想・レビュー・書評

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  • 日本のアニメ・マンガオタクのフランス人自称第一世代の著者が語る、フランスにおける日本アニメ・マンガ興隆史(ゲームも)とそこから発展した日仏比較文化論です。
    1978年夏にフランスのテレビ番組『レクレ・ア・ドゥ』で放送された『UFOロボ グレンダイザー』が日本アニメ浸透の引き金になったとは意外な話でした。自分も小学生の頃に観ていた記憶があります。確か『マジンガーZ』シリーズなんですよね。しかし、ちょっとこれまでのマジンガーとは毛色が違っていて、兜甲児(声:石丸博也)も登場するのですが、これがまた脇役になっていてマジンガーZにも乗らないんですよね。子どもながらにこれには違和感があったことを憶えています。
    どちらかというとマイナーなアニメだったと思うのですが、なぜかこれがフランス人の子どもにウケてしまった!『レクレ・ア・ドゥ』の当時の子ども視聴率は100%だと言われたそうで、場所も変わればわからないものですね。(笑)
    日本のアニメがフランスの子どもたちにウケた著者の見解としては、様々な偶然や創造的誤解、フランスの社会や価値観とは異なる世界観への興味や親しみなどいろいろな要素があったとのことです。フランスにはないジャンルであったこと、翻訳などフランスっぽい編集がなされたことなどのほか、何よりも悪役にもそれなりの理由を見出す物語構成となっている日本アニメは、個の権利(自由)を優先させるフランスの価値観とは異なる他者への「共感」の世界観を挙げています。
    そうして『レクレ・ア・ドゥ』そしてそれに続く『ドロテ・クラブ』で次々と放送される日本アニメのおかげで、フランスの子どもたち、特にエリート層とも移民層とも違うプチブル層の子どもたちに広く浸透したということです。また、このような「共感」の世界観は、これを題材に移民層の子どもたちとのより広いコミュニケーションにも発展できる可能性があったことを指摘しています。
    そういえば自分の学生時代、研究室にはフランス人留学生がいましたが、『キャプテン翼』の話で盛り上がったことがあったっけ。(笑)
    しかし、1980年代、フランスの価値観とは異なる日本アニメの世界観の故に、エリート層から巻き起こったパッシングの対象になったとのことです。誤解が逆向きになった時、異文化交流のマイナス面が強調されてしまうということでしょうかね。
    その後、規制された日本アニメの放送に代わって、有志者は受動的に「アニメを観る」ことから能動的に「マンガを買う」スタイルとなっていたとのことですが、2000年代、フランス人オタクが集うエキスポに目を付けた日本の官・産が「クールジャポン」として進出することになったということでした。
    個人的には「クールジャパン」など商売根性見え見えの上から目線のいかがわしさを感じるのですが(それに自分で「クール」と言うとは恥知らずなことよ)、その点は著者も同じでしたね。(笑)
    著者の経験からして、ある文化やサブカルチャーの異文化への受容は、そのように「日本」であることを強調・洗練するように上から仕組まれることではなく、逆に偶然や創造的誤解により日常とは違う何かに巻き込まれた結果であり、冒険的なものであったからこそ魅力的であり、異文化の「間」に落ちる過程が面白かったということで、案外、何だかわからない変なものの方が人々の心、特に子どもの心には響いてくるのかもしれませんね。
    著者はマンガ『北斗の拳』の翻訳も担当しているとのことで、そのうちフランス人と『北斗の拳』でも盛り上がる日がくると面白いな。

    • 深川夏眠さん
      お邪魔しま~す。

      私は未読ですが、友人の話では、
      パリの書店でフランス語訳版『北斗の拳』を立ち読みしたら、
      当たり前ですけど、あの...
      お邪魔しま~す。

      私は未読ですが、友人の話では、
      パリの書店でフランス語訳版『北斗の拳』を立ち読みしたら、
      当たり前ですけど、あの、ごっついキャラクターたちが
      「Bonjour!」と挨拶していて、噴き出してしまったそうです(笑)。
      2016/03/24
    • mkt99さん
      深川夏眠さん、いらっしゃいませ~。
      コメントいただきありがとうございます!(^o^)/

      ははは。それは笑ってしまいますね!
      どちら...
      深川夏眠さん、いらっしゃいませ~。
      コメントいただきありがとうございます!(^o^)/

      ははは。それは笑ってしまいますね!
      どちらかというと気取ったイメージのある単語なので、日本人にはその場に馴染めないかもしれませんね。(笑)

      著者の話では、『北斗の拳』の中に日本的なユーモアを見出したとのことで、例えば、漫才でいうところボケ役として不条理やシニカルさを体現する敵役、ツッコミ役としてケンシロウという捉え方をしていて、あえて翻訳としてユーモアを前面に出した部分もあるということでした。
      まあ、「ボンジュール」がユーモアだったかとうかは分かりませんが、これも著者の言う通り完全無欠な翻訳はあり得ないので、単にそれに当てはまる言葉を入れたら今度は逆に日本人には笑える言葉になってしまっただけかもしれないですけどね。(笑)

      本当に異文化のふれあいでは笑いのツボがいろいろと転がっていそうで楽しいですね。(^o^)
      2016/03/24
  • フランスで幼少期、次々放映される日本アニメを夢中になって観ていたフランス中流家庭の男児が、長じて日本で日本語で、当時の思い出とその流行について分析した本。未知の文化圏から入ってきた無国籍風なテレビアニメが、既存フランスの人種的、社会的なカテゴリーを越えて人々を結びつける有効なツールであった、という視点は新鮮だった。
    それにしても、日本の子供がテレビを観ながら味わっていた楽しさとワクワク感を、時代と文化を越えてフランスの子供が同じように味わっていた事を思えば、当時のアニメ制作者方には感謝しかない。ありがとうございました。

  • フランスの漫画熱。この始まりはなにだったか。その当時日本の漫画のシャワーをたっぷり浴びたこどもじだいをすごした作家自身の言葉で綴られる。「北斗の拳」のフランス語訳も筆者。サブカルチャーまで広く知識は広がり,研究書といった感も。

  • ああ~、どこの国でもオタク世代差における隔たりはあるものなのだなあ…一般化による特別感の薄れと、安易さへの危惧ってやつね…と思ってしまったのはやはり私が共感大好き日本人だからなのかもしれない。
    日本アニメの受容方法の変化は、確かに最初から「外」のものとして受け取るよりはそりゃあ、そんなこと意識せず共感できた方が自分の体験として落とし込めるだろうなあ、と思うけども、インターネットに色んなものが溢れかえっているこのご時世では、たとえ子どもであっても「オリジナル」の情報を知らずにいるのは最早難しいことなのではないかなあ…と思ったりもした。
    まあ、わからんけども。
    しかしそれはそれとして、確かに「クールジャパン」はちょっと、と思う。思った。もう懐かしいワードのような気もする。

  • 実は、サブカルチャーに限定せず、フランス(の人々)の歴史と現状を教えてくれる良書。昔のフランスでの日本アニメ(安価な埋草)は、最近の日本でいうと韓国ドラマと考えれば近いのかと。”クールジャパン”には、わたしも違和感があります。創造力の無い官僚が、乗っかっただけとしか。海外(特に欧米)で人気が出ると、手のひらを返したように態度(評価)を変えるエリート層の存在も、フランスと大して変わらないものと思います。

  • 2015.12.26市立図書館
    お正月、初読了本。フランスでの日本アニメやマンガの受容史を中心にして、そのなかで育った海外オタク痔一世代の著者が考えるところの日本のサブカルの魅力を語る本。
    フランスやイタリアを筆頭に、いまの日本語学習者にはアニメやマンガから入ってくるタイプが一定割合はいるし、そういうわけではなくても、日本のアニメやマンガの認知度はこちらが思う以上に高いと感じていたが、その秘密の一端がわかり、大人の思惑や都合もありつつ、フランスの子どもたちに思いのほか切実に受け入れられてもいたのだと知った。また、ごく最近のシャルリー・エブド事件にも言及して、フランス社会の抱える移民問題をはじめとした矛盾について論じているのもタイムリーでよかった。
    日本発のアニメやマンガの魅力として「共感的な世界観」をかかげ、異文化が翻訳されたり規制を受けたりしながら届くことによる創造的な「間」やときに誤解をもよしとする分析は、直感的になるほどと納得できるものだった。著者自身は個人的な体験に基づくナイーブな本かもしれないと恐れつつも、作品をじゅうぶんに見ないままの放言のめだつフランスメディアの論調の一貫性のなさや、むやみと絶対視・美化してしまう一部オタクの存在、ジャパンエクスポへの違和感など、かなり客観的に分析していると感じた。
    いま「クールジャパン」で売り込み中の日本のサブカルの今後がどうなるのか、著者の思いに共感しながら見守っていこうと思う。

  • フランス人から見た日本アニメ論ということで興味を持った。著者は「フランス人オタク第一世代」という日本史研究家であり、にして、フランス語版『北斗の拳』などマンガの翻訳も手がける人物。
    「とにかく安かったから」という理由で、子ども向けプログラムが欲しかったフランスのテレビ局に買われた日本製アニメ。『UFOロボグレンダイザー』に子どもたちは夢中になった。悪役にも人間性があったり、アウトローが主人公であったりするストーリー性の深みは、アメリカ製子ども向けアニメにはないものだった。しかし、暴力的であるとの批判を受け、バッシングを受けるようになる。テレビアニメが下火になるとこんどはゲームやマンガといったカルチャーに人は流れ、しだいにファンが組織化され、ジャパンエキスポが台頭するといった流れが解説される。
     おおまかな流れの説明のなかに、彼自身の経験や、フランス人と日本人との考え方違いなどが挟み込まれていく形で、たいへん読みやすい。著者は「日本マンガの未来は明るいとは限らない」として、『NARUTO』終了後にヒット作がなく、市場は停滞もしくは縮小傾向にあると指摘している。また「クールジャパン」に対しても〈「二歩の作品」であることをひとつのブランドのように押し出したり、それを自ら「クール」と言ってしまうようなその政府のやり方は、過去の「偶然」に基づく成功理恵を無批判に再生産しようとしているようにも見える〉と否定的だ。
     また、日本特有の文化――たとえば部活動や先輩後輩といった学校文化をどう翻訳するか、といった問題への苦慮なども書かれていたりして、興味深い。

  • アニメが大好きなフランス人から見た日本論。ジャパンエキスポに批判的なのがオタクらしい。シャルリーエブド事件にまで言及しているのが驚きだった。

  • タイトル見て、「ああ、水曜日のアニメね。自分もドラゴンボールは楽しみに見てた気がする。フランスでもそんな感じだったのかな」と思ったら違った。なんと昔のフランスの小学校は水曜日が休みだったようで、昼すぎに数時間アニメをやっていたらしい。何その、夏休みみたい編成(最近はそんなことなさそうだけど)。
    著者は日本に来て踏切の音を聞いた時に懐かしい気分になったらしい。フランスでは踏切の音って違うのか(調べてみたら、確かに違った)。アニメでの踏切のシーンといえば自分は涼宮ハルヒの憂鬱を思い出す。どんな音だったかは覚えてないけど……。
    そして、フランスでもオタク批判(というよりも、日本アニメのパッシング)の対象になったらしい宮崎勤の連続幼女誘拐殺人事件。自分はこの事件のことをほとんど知らないのだけど、どれだけ影響力があったのかよく分かる。
    なお、ドラゴンボールでは戦闘シーンが大幅にカットされ、気をためているシーンを長い時間流すなんてこともあったんだとか。ある意味、ドラゴンボールらしい気がする。
    それと、フランス人が日本風に描いたマンガのことを「マンフラ」というらしい。調べてみたら、舞台まで日本のマンガがあるらしい。ちょっと気になる。
    北斗の拳の改変は、この本の紹介を見るかぎり面白そうと思った。内容もそうだけど、声優たちが改変するよう動いたというのが面白い。そういうこともあるんだなぁ。

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著者プロフィール

トリスタン・ブルネ:1976年フランス生まれ。ジュネーヴ大学大学院博士後期課程在籍。日本史学研究。翻訳家。日本のアニメ、マンガなどに造詣が深く、フランス語版『北斗の拳』をはじめマンガの翻訳に携わる。2004年に初来日。以後、留学経験を経て、現在は、日本の大学や語学学校で、フランス語、フランス思想の講師もつとめている。

「2015年 『水曜日のアニメが待ち遠しい』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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