ことばの白地図を歩く: 翻訳と魔法のあいだ (シリーズ「あいだで考える」)
- 創元社 (2023年6月14日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
- / ISBN・EAN: 9784422930992
作品紹介・あらすじ
不確かな時代を共に生きていくために必要な
「自ら考える力」
「他者と対話する力」
「遠い世界を想像する力」
を養う多様な視点を提供する、
10代以上すべての人のための人文書のシリーズ。
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『ことばの白地図を歩く――翻訳と魔法のあいだ』
ロシア文学の研究者であり翻訳者である著者が、自身の留学体験や文芸翻訳の実例をふまえながら、他言語に身をゆだねる魅力や迷いや醍醐味について語り届ける。「異文化」の概念を解きほぐしながら、読書体験という魔法を翻訳することの奥深さを、読者と一緒に“クエスト方式”で考える。読書の溢れんばかりの喜びに満ちた一冊。(装画:小林マキ)
感想・レビュー・書評
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『夕暮れに夜明けの歌を』では、ベランダで静かに詩を朗唱していた著者の姿が印象的だった。本書購入時にもその面影がちらついていたが、いざページを開くや、些かキャラ変していることに気づく。
いきなり飛び込んできたのは「Quest 0(クエスト・ゼロ)」の表題。
「この本をとったってことは、つまりこの本がきみを探していたってことだ。あ、目のまえが白く光りはじめて、光のなかに1枚の紙が浮かんできた」と続く。その白地図をプリントした印刷機が自分に話しかけてきて(驚)、「旅に出て、世界で何が起こっているのかをことばを学びながら知ってきてほしい」と依頼してくる。そこでようやく著者が案内人として登場。印刷機の号令?とともに、「クエスト」が始まる…。
?????
「誰かとの共著なのかな?」と著者名を振り返ったけど、彼女ひとりしか記載がない。上記の謎シナリオに一瞬戸惑っちゃうほど、前作から様相がガラリと変わっていたのだ。
著者の奈倉さんはロシア文学研究者で翻訳家、大学でも教鞭を取られている。本書は彼女のロシア語学習や翻訳活動の経験・そこから編み出された言語観を通して、10代の若者(恐らく本書のターゲット層)に「ことばを学ぶとはどういうことか」「翻訳で分かる世界の見え方」をクエストの間突き詰めていくというスタイルである。
はじめにお断りしておくと、見た目のゆるさとは相反して結構奥深い。奥深いというのは、彼女の言語観や哲学のようなもの…と言うべきか。(まとまっていなくてごめんなさい泣)
例えば原書の翻訳は注釈をつけてもそれが誤情報だったり、読者をストーリーから引き離す危険性がある…というもの。「注釈ついてる!ラッキー!」とすぐ安心するチョロい読者だった自分は愕然。(「今まで読んだ注釈の中に間違いが紛れていた可能性がある…ってコト?」)
原書を母語とする読者と同じ読書体験を日本の読者にしてもらう為、翻訳者は魔術師のように言葉を構築していかねばならない。原文と原文読者の関係性を完全再現しなければならない。
これは翻訳の話だけど、本当の世界の見方・理解の仕方って案外こうなのかも。めちゃ気が遠くなりそうだけど。。
翻訳作業に限らず、ことばにまつわる学習には必ず「妖怪 あきらめ」がついて回る。
著者曰く、目標を定めても気力体力が切れた時や本当に身についているのか不安になった時に出没するとの事。「妖怪 あきらめ」は表紙の果物台の下から飛び出している黒い物体で、恐らくヒトの幼児くらいのサイズはある。
でも個人的には可愛いく思うし、何だかんだでヤツも自分の一部である。頑張ろうとしている時にいちいち出てこられるのは困るけど、クエストが原因で事切れないように見守ってくれていると考えれば良いだけの話だ。
一生懸命な自分の失敗を笑ってはいけないと著者が言うように、クエスト(ことばを学びながら世界を知る)に失敗してもヤツは笑ったりしないだろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「10代以上すべての人に」というシリーズのキャッチフレーズがこそばゆい。『夕暮れに夜明けの歌を』も翻訳された本も読んでないが奈倉さんの優しさと真っ直ぐさ、翻訳家としての矜持が伝わる。紹介された本読みたい。露語学び直したい。
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111108さん
図書館にありますように。。。
しかしアコギな、、、誰も買わないような値段設定するのは、どう言う神経なんでしょうね?111108さん
図書館にありますように。。。
しかしアコギな、、、誰も買わないような値段設定するのは、どう言う神経なんでしょうね?2023/07/10 -
111108さん
今更ですがインターネット上で読めました
戦争文学で反戦を伝えるには|逢坂冬馬×奈倉有里|コロナの時代の想像力
h...111108さん
今更ですがインターネット上で読めました
戦争文学で反戦を伝えるには|逢坂冬馬×奈倉有里|コロナの時代の想像力
https://note.com/iwanaminote/n/n09361e5477c32023/07/28 -
猫丸さん
お知らせありがとうございます!
今読んできました。戦争文学に対する考察などとてもよかったです。逢坂冬馬さんもこれから読みたくなり...猫丸さん
お知らせありがとうございます!
今読んできました。戦争文学に対する考察などとてもよかったです。逢坂冬馬さんもこれから読みたくなりました。2023/07/28
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ロシア文学研究者で翻訳家の筆者による、新しい言語を学ぼうという人向けの、エッセイ。
そのままでは他言語で伝わりにくい、文化的背景をともなう単語を使った文章について考える、翻訳理論の授業の話がおもしろかった。
注釈を入れると、読書のリズムが原文と違ってしまう、という教授の言葉には、共感。
かといって、注釈なしでこの背景をどう伝えられるのか、と一緒に考えてしまうが、模範解答に納得。
かなり低年齢向けに感じるRPGのクエスト仕立て部分と、本文のレベルのギャップにやや戸惑う。 -
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ベスト 『ことばの白地図を歩く』 | 教文館ナルニア国
https://onl.sc/chw2ZTyベスト 『ことばの白地図を歩く』 | 教文館ナルニア国
https://onl.sc/chw2ZTy2023/10/11
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ロシア語翻訳家の奈倉有里さんによる、RPGのような形で、言語を習得し、本を読み、文化に親しみ、翻訳にまで進む道を自らの経験を交えて歩んでいく一冊。
言語を学ぶ喜び、読書体験の喜びをうまく表現していると思うし、自らが背負う”文化”は自ら選び取ってよい、生まれや家族に起因する属性に縛られる必要はないというメッセージは非常にポジティブに響きました。
「10代以上のすべての人に」というメッセージが非常にしっくりくる。
言語ねえ、いろいろとできるといいんですけど、なかなかすぐに挫折してしまいます。
この本を手にとって、もう一度やろうかなと思えました。時々読み返しながら、新しい言語・文化に触れることを恐れずに生きていたいと思います -
シリーズ「あいだで考える」創刊のことばが好きでした。
(一部引用)
私たちは、本を読むことで、他者の経験を体験できます。
本の中でなら、現実世界で交わることのない人々の考えや気持ちを知ることができます。
(…)本を読むことは、自分と世界との「あいだに立って」考えてみることなのではないでしょうか。
本書は「あいだで考える」シリーズの第三弾。ロシア文学研究者・翻訳家の奈倉有里さんが、自分で運命のことばを選び取り、好きな文化の担い手となって、翻訳業を成すためのコツを書いています。
奈倉さんの言葉遣いは時折とても刺さるものがあり、今回は「ことばの子供時代」という話題が特にじんわり来ました。
(引用)
・ことばを学ぶと、子供時代を体験できるみたいで楽しいね。
・子供は間違えてもいいし、舌足らずでもいいし、まだまだ知らない単語がたくさんあってもいい。そのことばの世界に生まれてきだけで、じゅうぶん偉いのだ。 -
『ことばの白地図を歩く』
ロシア文学の研究者であり翻訳者である筆者が外国語の学び方を小・中学生にも分かるような優しい言葉で指南します。ジュニア向けですが大人で外国語を学びたいと思う方にも発見が多くある本ではないでしょうか。迷信のコラムやロシア語に興味を持ったエピソードが良かったです。 -
奈倉有里さんの新刊。同時に、創元社が企画する「10代以上すべての人のための人文書シリーズ」~あいだで考える刊行の一刊でもある。
遠くて近い、近くて遠いロシア。
子供のころはただ、「怖い国、人種」と言うような感覚で見ていた。
歳をとり、時間が出来てくると、世界の中に占めるスラブ民族が培ってきた文化、芸術、そのほか生活に根差した諸々に興味が出てきた。
手始めに始めたのが Eテレのロシア語講座~があえなく、瓦解。
折からのロシアによるウクライナ侵攻でフェイドアウト。
録画していたストックも見る樹、聞く気が失せ削除した。
時を同じくして関心が募ったスヴェトラーナ、フィリペンコの作品群、片っ端から読み、奈倉さんを知る。
10代で読む~個人的に言えば12,3歳のころ、春の曙時?むくむく湧いてくる知的好奇心、そして学業に物足らなさを感じ、理系?文系?あるいは学際的なジャンル?乱読乱聴時間である。
内容は分かりやすく、紐をたどるように次の場面が展開していく仕組み・・1日もあれば読める。そして指針も用意されており 愉しい。
神西さんの名前が懐かしく、その誤訳?も紹介されていたが・・明治大正昭和、まして世界中がネットで一瞬につながる現時点で(あの時)を語れないのは自明の理。よくぞ、先人はここまで歩んできたと感嘆するばかり。ツルゲーネフ、プーシキンはいまいち肌が合わなかったが、語学講座で番組内紹介でいろいろ教えられた料理,エセーニンは脳裏に焼き付いている・・出来れば彼の子興味にも足を踏み入れたかった。
奈倉さんは文字を通しての【間をつなぐ】職人・・してみると音楽、料理、手工業・・みな同類の匂いがした。
米倉さんの夭逝が哀しい。 -
この春創刊した人文書の新シリーズ「あいだで考える」、文庫よりひと回り大きい判型で手触りよく軽く、「10代以上すべての人に」と銘打って、ふりがなたっぷり、イラストあり、二色刷り150ページ。巻末には芋づるの元(参考文献&おすすめリスト)。「岩波ジュニア新書」「ちくまプリマー新書」「14歳からの世渡り術」といった中高生向けノンフィクションへの呼び水として相次いで創刊した「岩波ジュニスタ」「ちくまQブックス」と同じような狙い(読みやすい仕様での本格読書へのスモールステップ)を感じる。
シリーズ3冊目は私にとっての本命(このシリーズを知るきっかけともなった)。ロシア語ロシア文学にどっぷりひたって生きてきた著者による語学指南から読書のすすめを経た翻訳入門はRPG仕立てにもなっていて、読んだ勢いであたらしい言葉に挑戦するか英語や古語などを学び直したくなること必至。
目標があってもなくても語学はできるし、「異文化と自国文化」のような雑な分断をあおる考えかたは徹底的に疑いたい。自分の感覚をとぎすまして言葉や生活を経験しながら、本の世界の魔法にかかりその体験を他の人にも伝えるべく翻訳にたずさわっている著者の流儀を知ることで、「翻訳」は言語をただ横から縦にするだけじゃない複雑な営みだということがよくわかるし、たとえば小説の映画化やアニメ化なども、仕事や教育もみな「翻訳」だなあと思った。
それにしてもスラヴ語界隈は米原万里、黒田龍之助、そして奈倉有里と、定期的にとんでもない逸材(語学力はもとより話術が巧みな個性派)がでてくるのがすごい。亀山郁夫とかヌマヌマもいるし…。 -
こちらも図書館本。今日返却期限だったので急いで読んだ。
「あいだで考える」は10代向けのレーベルらしいけど大人にも必要なことが書かれていると思う。
最近、言葉に丁寧に向き合っている人の文章を読むのが好きだ。
翻訳のためのさまざまな技術が紹介されている。原作者の想いを汲み、翻訳する技術に尊敬の念を抱く。
自動翻訳が簡単にできる時代であっても、翻訳者はいなくならないし、いなくなってはいけない。