梵我堂の〈本音で迫る小論文〉 (受験面白参考書)

  • 大和書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (202ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784479190103

感想・レビュー・書評

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  •  ここにもう一つ勘違いしそうなことがあるので注意しておく。今、現代文の方を「純客観」としながら小論文は「主観を主にした」としか書かなかったのは、「純主観」ではいけないからである。
     単なる主観だけ書いてしまい、人を納得させる論拠を持たないものは「勝手な意見」に過ぎないのであって、これは月並みな意見よりも悪い点数になることがある。しっかりとした論拠があった上で、自分なりの結論を出すことが大切なのである。
     また、自分の言いたい事をとにかく言おうとする場合は、結論を先に決めておいてよいが、それに説得力のありそうな論拠を後から考えてつける必要がある。とにかく、「説得力のある主観」でなければならない。
     ●小論文における主観には説得力のある論拠を伴わなければならない。

     ここで、もう一つ「主観」について付け加えよう。小論文の主観は説得力がなければいけないのだが、この説得力というのは、今述べた「論拠を有する」というだけでなく、「自分の主観は普遍に通じてる」という確信を持つところから生じてくるものなのである。単に自分一人の意見というのはやはり「勝手な意見」の範囲にとどまってしまう恐れが強い。自分の意見は少数意見であっても正しいことを述べているのだ、ないしは、わかってもらえれば皆も同意してくれるはずだ、という確信が伴っていなければならない。そういう気持ちからは、自ずから論拠をもって人を説得する姿勢が生み出されてくるし、確信をもった意見というのはそれだけで人に通じ易い。これは小論文では大変重要なことなのである。そして、このように根底における普遍性を目指すところからも、「純主観」ということは言えないのである。
     ●小論文における主観は、普遍に通じることを確信したものでなければならない。

     まずaのところから何でもいいから書き始める。いろいろ書いているうちにcの辺りから「のって」くる。すると、すぐに制限字数がbのあたりで切れてしまうが、ここでやめずにdという結論らしきものが出るところまで書く。次に、c以前の部分を捨てる。そして、dのところを制限字数の最後の部分b'と考えて、書き初めの地点a'を定める。そして、dに呼応したeの文を考えて書き出しの位置におき、あとはそこからcにつながるようにfをでっちあげればよいのである。これこそ書き方の「本音」であって、先の述べた論理性などは、後から整えるものにすぎない。

     小論文では、独自性がだせれば一番よいのだが、実はなかなかうまくいかない。すべての問題に対して独自な体験をもっていたり、独自な考え方をしていたりする人がいるわけがないからである。従って、前者で述べたのは一種の建て前であり、逆の場合の説明しかあまり有効ではない。
     そこで、一般的には独自な題材を得られない時の対策が必要であるが、その場合は高度性を狙うのがよい。これならば、訓練さえすればどういう問題に対しても何とかなる。
     ●独自の題材がない場合には、すぐに諦めて高度性に狙いをしぼった方がよい。
    「高度性」いうのは、レベルの高い意見ということである。この場合は特に変わった意見である必要はない。学者レベルで考えられたような意見ならばよいのである。
     ということは、逆に言うと、一般の高校生・受験生レベルの意見ではいけないということである。ここでも先の教訓が生きる。
     ●自分がすぐに考えつくようなレベルの文章を書かないこと。
     と言うと、実際には諸君は学者ではないし、そんなに難しいことを日常において考えているわけではないからどうしてよいかわからなくなるかもしれないが、これには良い方法がある。
     つまり、学者レベルの意見を読んで、それを理解した上で、自分の言葉にして書けばよいのである。小論文というのは「自分の意見」を書くものであるが、必ずしも「自分で考え出した意見」である必要はない。人の意見に納得してそれを自分のものとしたなら、それは立派に自分の意見である。誰だって、すべての事を自分で考え出してなどはいない。大ていの部分は人の意見を借りているのだし、また、創造性のあると言われてる人にしても、それらをうまく組み合わせているのである。従って、諸君も高度な文章を多く読んで理解し、自分のものにして言えるようになればよいのである。
     ただし、単に鵜呑みにしているだけでは、場合に応じた文章にならないので、あくまで理解したことを自分の言葉で自分の文章として書けるようになることが肝腎である。
     ●高度な意見を述べるには、高度な文章を読んで、それを利用すればよい。
     ●人の考えを利用するには、よく理解した上で自分でその考えを操れるまでにならなくてはならない。

     文章技術は反復練習を重ねることで飛躍的に改善可能である。反面、発想はマンネリ化したくり返しのなかからは生まれない。ものごとを見る観方を固定化させないことが肝心である。誰かが「殺人は悪だ」と言ったとする。確かに簡単には否定はできない。しかしそこで、そうだそうだと賛成するのではなく、例えば、「殺人は善だ」と考えてみる。もちろん考えただけではだめなので、その理由をあれこれ考えてみる。あるいは主語を変えて、「育児は悪だ」と考え、そしてまたあれこれと理由を考えてみる。少し極端かも知れないが、別に話題を「殺人」に限定せずともよい。その結果、出てくるのは「屁理屈」だけかも知れないが、誰もが考えつきそうな「常識」よりは一万人に一人の人間しか思いつきそうにない「屁理屈」の方を重んじるのが大学の先生というものなのである。

     小論文の技術的側面の最大のコツは何かを一言で言うなら「読み手に努力を強いるな」ということである。短時間で何百枚という答案を読まされる採点者の身になってみればわかる。模擬試験とはわけがちがう。採点者は添削したり批評を書いたりする義務はなく、ひたすら評価を下すだけなのである。結局は印象が勝敗の分かれ目になる。誰もが考えつきそうなことしか書いてないくせに、やたらと読むのに時間をくう答案よりは、何の抵抗もなく読め、しかもユニークな着想が示されている答案に好意を持つのは目に見えている。

     平凡な発想でしか書けないとしたらせめて書き出しくらいは意表をつくものであってほしい。一〇〇しかないものでも一二〇に見せろ、ということである。もちろん「結論は最初に考えるもの」「書き出しは最後に考えるもの」が基本である。本筋がしっかりしていないのに書き出しだけにこる、というのも困りものではある。「羊頭狗肉」になる恐れもある。しかし「狗頭狗肉」よりはましである。

     文章は、内容を十分に考えた上で書き始めそして書き終えるものだと考えている人が多いようである。残念ながらそれは達人のすることであり、諸君らがいくら努力してもその域に達することはできないと知るべきである。文章を書くということは書きながら考える、あるいは書き上げた上でもう一度考える、ことなのである。したがって、一つの文章がこれ以上手の入れようがないほどに完成するのは当然のことながら何度も書き直しをしたあとということになる。けっこう時間をくうものだということを心得てもらいたい。試験場ではそんな時間はない、という反論が聞こえてきそうである。その通り。だからこそ、本番までに何度も練習して、自分の発想や着想のスタイルを確立し、できるだけあのプロセスを短時間で完了できるようにしておかなければならないのである。

     みんなが「正しい」ということを「もしこれが間違っていたら」と考えなおしてみる。みんなが「まちがっている」ということを「正しい」と仮定したらどうなるか、と疑ってみる。当たり前に進行している世の中ではあるが、例えばこれを宇宙人としてながめたらどう見えるのか、蟻になって見上げたらどう写るか、想像してみる。試験場で時間に追われながら考えようとしてもできることではない。日頃からあれこれと夢想しておく。「現代文」のテキストの中で心に残る文章があれば、それについてあれこれと考えておく。あるいは普通にはどう考えても結びつかないと思われる二つのものを結びつける接点はないかと考えてみる。相撲と競輪をミックスしたスポーツはできないものか、野球のバットに電球をつけてらどうなるだろうか。今、目の前を歩いている女の子をものにたとえるとしたら何になるか。腕時計かテニスのラケットか、靴のひもか。考える材料はいくらでもあるはずである。このような日頃の練習の成果を発揮する場所が試験場である。その意味では、小論文に関しては鉛筆を手にする前に勝負がついていると言えるものである。

  • 小論文を制限時間内に書くには
     ①下書き
      ・縦書きの方が早く書ける。
      ・文章を良くすることを考えず書き出し、一気に結論まで書き上げる。
       (勢いをつけることと、何らかの結論を出すことが目的)
     ②制限文字数内で、結論にたどり着くように文章を組み立てる。
       (勢いをつけるためだけに書いた前半の不要な部分は削除する)
     ③論理記号(接続詞、助詞、助動詞)を検討する。
     ④清書(400字で約15分かかる)

  • ある程度の文章が書けるようになった人が読むには、間違いなく役立つ一冊。会話調の文体も面白い。受験小論文の採点者側から見た意見を辛口トークでズバっとついている。

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