考える練習

著者 :
  • 大和書房
3.58
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本棚登録 : 447
感想 : 43
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784479392392

感想・レビュー・書評

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  •  ネットに情報が溢れ出る昨今。考えないでもわかった気になる時代である。そんな時代だからこそ読みたい一冊だ。第一講から、思考に「公式」は役に立たない、「わかった」と思わずに考え続ける、とくる。

     実に多くのテーマを論考しているが、一貫して流れているテーマは、『学問は「頭」でするものではない、本当は情緒でやるものだ』という岡潔の言葉に集約されていると思う。保坂和志の文章は実に論理的なのだが、一方で「文体とはペンの動きやためらいである」とか、「小説を書くことは、最初の何フレーズかのメロディが与えられればあとは即興を引き続けられるっていうのに近いようなイメージ」であるとか、「辺縁的な観念を大事にする」とか、頭で生まれた観念をもとに言葉を紡ぐのではなく、五感で掴むリズムや音と、そこから生まれるライブの情緒を大事にしているのだな、と思った。
     「文学は理屈ではなく芸術である」ということかなと。

     共感した点が2つほど。1つは「理系と文系を繋ぐような本を書きたい」というモティベーション。もう1つは、ドラマ「ER」のように、物語の中に大きな視点と小さな視点のものが同時に描かれる群像劇が面白いってこと。そこで起こる問題は、見る視点によって大きくも小さくもなる。物事を多面的に見ることの重要性は、それに尽きると思う。
    小説では伊坂幸太郎が得意とするスタイル。「あまちゃん」や三谷幸喜の映画や舞台もそう。登場人物全てのキャラクターに「人生」を与え、読み手がいろいろな立場で想像できる。小説を味わう醍醐味の1つであろう。

  • 自分の中の当たり前がことごとく揺さぶられました。

  • 小説、小説論、エッセイなど、この作家の本はわりと読んできたと思うが、この対談形式の、話し言葉で書かれたものは、今までの私の持っていた作家のイメージとは、ちょっと違っていて、最初慣れるまで違和感があった。

    わかりやすい言葉で書かれているが、どんどん読み進むというわけではなく、いちいち読むのを止めては「考える練習」をしながら読んだ。そういうふうに読むようにできていたと思う。
    ハッと気づかされることが、たくさんたくさん書いてあった。目次を抜き出そうかと思ったが、どれもこれも抜き出したくなり無理。そばにいつも置いて、たまにチラチラ見たい感じだが、これは図書館の本であった。購入するべきだろう。

    一番印象に残ったのが、ペットショップの話というのが自分でもどうかと思うのだが。

  • 保坂氏の言う「考える方法」は「正解」を考えることではなかった。



    正しさ、客観性、冷静を嫌い、すぐに回答を求めず、論理も否定する。論理や言葉は「枷」になって世界を限定している。朝起きて寝るまで我々は枠の中で枠に疑いを持つことなく動かされている。我々は経済活動にカウントされない時間を送れなくなっている。それをさせている相手を「やつら」と呼ぶ。やつらは強い力学である。そこから抜け出すにはまずそこに枠があることに気づかなくてはならない。iPhoneのような便利なテクノロジーなんていらない?

  • 社会の

  • 8/4読了

  • こういう本を選挙前に読まないとだめだな。「テンプレート化した思考」にいかに抗うか、が心に残る。

  • 前半はそれほどでも無いんだけど、中盤以降からぐいぐい面白くなってきた。繰り返し読み続けたい一冊。

  • 芥川賞作家が考えるとはどういうことかを若手編集者からの質問に答える形で書くエッセー。
    経済的なものの見方を否定する形を取っており、それに対して当初は反発を覚えた読み進めるうちに確かに自分が毒されている部分も大きいと思えて来た。経済的な合理性が正しいとするのは概ね人が金銭的インセンティブになびくケースが多いということだが、当然それ以外の最後通牒ゲームに現れる公平性の問題も重視される訳で、あくまで個人の判断の問題。著者はそこを重視しており、多数の人がどう思うかではなく、自分がどう思うか、どう有るべきかを考えろと説く。

  • たとえば村上春樹に「何枚レコード持ってます?」って訊いて、「ずいぶんたくさんあるみたいだ。しかしまだ十分ではないとしか答えようがない」って云われて、「は?なに言ってんのおまえ」ってなったとします。
    そんな村上春樹ってどんな思考回路してんのかを、噛み砕いて言語化してくれたような、そんなイメージの本です。

    「考える」こととは、いつも決断を下すためにあるのではない。出来事をあるがままに一旦受け止める。本能的に感じた違和感を逃さない。いかにも正論だったり、あまりにも理にかなってたりすることに対して素朴な疑問を持つ。そもそも「意味」って何?みたいな疑問も持つ。ようなことをいうのではないかしらと思いました。

    作家がべらべらしゃべくるタイプのこの構成は、普通に説明されたものが書いてあるよりかえって「考える練習」にもなる。

著者プロフィール

1956年、山梨県に生まれる。小説家。早稲田大学政経学部卒業。1990年『プレーンソング』でデビュー。1993年『草の上の朝食』で野間文芸新人賞、1995年『この人の閾(いき)』で芥川賞、1997年『季節の記憶』で平林たい子文学賞、谷崎潤一郎賞、2018年『ハレルヤ』所収の「こことよそ」で川端康成文学賞を受賞。主な著書に、『生きる歓び』『カンバセイション・ピース』『書きあぐねている人のための小説入門』『小説の自由』『小説の誕生』ほか。

「2022年 『DEATHか裸(ら)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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