ケルトの島・アイルランド (ちくま文庫 ほ 7-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480026460

感想・レビュー・書評

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  • ★2.5かな。
    アイルランドへの愛情は痛いほど伝わってきますが、いかんせん並行して司馬遼のアイルランドものを読んでいたこともあって鮮烈さが圧倒的に不足しとります。
    しかしどうやらこの国は歴史を知ってこその国で、単なるミーハー観光者では太刀打ち出来んようですなぁ。

  •  アイルランドを紹介する本はいくつかあるが、アイルランドをその地形からアプローチした本は珍しい。
     著者が地質学者であることから、その興味に従った視点で彼の地が語られており、それが素直なアイルランドの魅力を伝えてくれる。

     アイルランドでは「ドラムリン」というタマゴ形の低くなだらかな円頂丘が連なって、風景を形作っている。
     これははるか大昔、氷河によって形作られたものである。したがって、決してアイルランドでしか存在しない地形というわけではないのだが、ことアイルランドでは樹木のほとんどが伐採され、丘陵が坊主になっているため、そのフォルムが実によくあらわになっているのだ。

     かつてはドルイドなどの樹木信仰なども存在したアイルランドが、その大切であったはずの樹木の大半を18世紀初頭までに失うことになってしまったのには、いくつかの理由がある。
     イギリスが産業革命期に製鉄や蒸気機関の燃料として木材が大量に必要となり、当時植民地となっていたアイルランドを補給地の1つとし原生林を切り拓いて植林と伐採を繰り返したのがひとつ、そして畜獣と穀物のイギリス向け生産地としてすみずみまで大開拓が行われたのがもうひとつの理由だ。
     ちなみに植民地の常として、庶民の腹をもっともよく充たしたのは肉でも穀物でもなく残りの荒地で栽培されたジャガイモで、そこに1845年から4年間ジャガイモの疫病が大発生したことで、あのアイルランド大飢饉が巻き起こることになったのだった。
     さてアイルランドの森林面積は1920年の統計で森林面積が国土の1%以下しかなく、1950年代から本格的な植林が行われるようにはなったのだか、2018年時点でも9%までしか回復していない。ヨーロッパの平均は30%、まだ道のりは遠い。

     そんなわけで、このあらわになったドラムリン地形の風景にはアイルランドの悲劇が隠れている。
     だが、筆者の学者としての愛に満ちた語り口は、読む者にその独特の風景を容易に想像させるばかりか、筆者と同じくそれを愛してしまいそうになるたまらない説得力を持っているのだ。
     それはこの土地に対して大きな救いとなっている。悲劇を知りつつも、素朴に愛らしい風景を味わってみたいという旅愁に駆られてしまうのである。

     この本を読み、私はアイルランドを3度旅した。筆者の語った風景が、そのまま面前にあった。

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著者プロフィール

1926年、京都府に生まれ、1935年、札幌に移住。北海道大学理学部卒業後、同大学低温科学研究所助手等を経て、物性物理学・統計力学・数理物理学を専攻。理学博士。1980年まで同大学理学部教授として主に物理の研究・教育に従事。同年、人生二毛作に向けて大学を退職し、エッセイストに転向。1990年、建設省(現国土交通省)国土地理院長表彰を受賞。
小学生のころから地図の美しさに魅せられ、放浪を趣味とする。1960年代より地形図を手に全国の旧道、廃線跡、産業遺産などを歩く旅をスタート。地図と旅の愛好者の集まり「コンターサークルS」を主宰。現在も各地を精力的に歩き続ける。1972年、『地図のたのしみ』(河出書房新社)で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。北海道大学名誉教授。
『地図を歩く』(河出書房新社)、『地図のワンダーランド』(小学館)、『地図で歩く古代から現代まで』(JTB)、『消えた街道・鉄道を歩く地図の旅』『にっぽん地図歩きの旅 古道、旧道、旧街道』(ともに講談社+α新書)、『忘れられた道 完』(北海道新聞社)、『サッポロこぼれある記―北の街の空のひろがり』(そしえて)、『エントロピーとは何か―でたらめの効用』(講談社ブルーバックス)、『地図の中の札幌』『北海道 地図の中の鉄路』(ともに亜璃西社)など、地図・鉄道・旅行・物理学に関する著書が多数ある。

「2017年 『北海道 地図の中の廃線』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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