命売ります (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 641
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480033727

感想・レビュー・書評

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  • 新聞の文字がゴキブリに化けた。
    羽仁男にとって、
    現世が無意味のなものとなった。
    そして、死のうとし失敗した事から
    自殺では無く、この命を誰かに奪ってもらおうと
    主体性を持って命を売る商売を始める

    死のうとするも、なぜか死から免れていく
    ストーリー自体がとても面白い

    組織に属さない、家族概念への拒絶 生への執着から放たれた事で全能感、自由を得たと思う羽仁男
    厭世的な思想の裏側に強い美意識、自己愛が
    強烈な匂いを放つ

    死をも自分の意思でコントロールし
    美しく散ろうとするも、
    いざ目の前に死が迫ると逃れようとする
    矛盾、臆病さ
    逃れられない人間の生という枷

    この本を通じて
    三島由紀夫という自己愛を見せられている気がした
    理想と現実の狭間で誇りを保ち生きる事が如何に難しいいか
    生への執着がこの世の全ての執着の根源だと語っていた

    喉にしこりを残す読後感に感嘆する

  • 三島の作品の中ではあまり知られていないが
    1968年、週刊「プレイボーイ」に連載された
    ハードボイルドでエロチックなエンタメ小説である。

    自殺に失敗した27歳の広告マン羽仁男は
    「命売ります」と新聞広告を出す。
    一度死んだ彼にとってこの世はもはや
    ゴキブリの活字で埋まった新聞紙にすぎない。

    だがなかなか命を売り切ることはできず
    次々と依頼が舞い込み
    さまざまな男女に関わるうち
    人間という不可思議の渦に巻き込まれて行く。

    エンタメ小説として最上級に面白いが
    そこは三島である。
    テーマは「死」だ。

    あの衝撃的な最期ゆえに
    私にとって三島は「死」そのものであり
    同時期に「豊穣の海 第二編 奔馬」を
    書いていたことを考えても
    簡潔な言葉の奥には
    人として生まれてきたことへの
    やりきれない絶望が見えてならない。

    純粋を求めれば存在の否定という無に行き着く。
    しかし無になりそこねれば
    人の世からハラリと剥がれたまま
    身の置き場もないままに
    時だけが過ぎて行く。

    生から剥がれないよう
    必死でしがみつくのが人生であれば
    しがみつく意味が見いだせないと
    手を離したくなるものだ。
    だが一度手を離したら最後
    たとえ無になれなくても
    もう元には戻れない。

    桜の花びらが排水溝に吸い込まれて行くように
    羽仁男はいともたやすく
    生に執着する者たちの世界に落ち込んで行く。
    集団としての彼らはあまりに強固だ。
    なぜなら自らの「無意味」に気づいていないからだ。

    1968年。日本人が自由をはき違え、
    アイデンティティを一気に失って行った時代。
    やはり羽仁男はまぎれもない三島なのである。

    ところでこの作品は多分映像化されると思うのだが
    羽仁男役は松田龍平さんがいいと私は思う。

  • 久しぶりに読みたくなったので再読。
    やっぱり面白い!
    三島由紀夫作品は難しいイメージがあったけど、とても読みやすくてユニーク。
    帯に惹かれて初めて読んだ時も「こんな作品もあるんや」と驚いた記憶がある。
    レター教室も読んでみたいな。

  • 平凡な生に対する羽仁男の解釈がねじれすぎていて、面白い。

  • 自殺未遂をした男が死にきれずに、新聞に「命売ります」と寄せたところに様々な依頼が舞い込んでくる。
    様々な依頼人を通して、生きるとは?生命とは?を考えさせてくれる小説。

    初めての三島作品。
    三島由紀夫ってもっとクレイジーで陰鬱な人かと思っていたのですが。
    なんですか、この深くておもしろい作品は。
    太宰を彷彿とするような感覚があります。
    文体もとても読みやすい。

    当たり前に生きているつもりはなくても
    生きていることが当たり前になってしまう側面があり
    いつ死んでも後悔ない!と思って生きていても
    死に直面した時、人は誰しも恐怖に押しつぶされてしまうのではなかろうか?
    人間の本質を描いた作品。

    一気読みしてしまいました。

  • とても面白かったです。わくわくハラハラしてどんどん読み進めてしまいました。自殺するほど何かあったわけでもなく殺されるような恨みを買われるのも嫌だから命を売る主人公がなんども死に損ねるのに最後は死ぬのが怖くなる流れもすごく自然でぐいぐい引き込まれていきました。最後、え?ってとこで終わりますがあの展開もなかなか好きです。吸血夫人とその息子との擬似家族の話が切なくて特に好き。

  • 21.3.7読了
    50年以上前の作品のため、程良いレトロ感あり、でも感覚は古臭くなく、比喩表現なんかは新鮮でした。
    生に執着し始めると何故か面白みが失速しますが、前半のハードボイルド+ブラックコメディは楽しく読ませて頂きました。

  • 昔の本だからか、文章もなんとなくメランコリックな雰囲気。物語としては、エンタメ小説の感じでテンポよく進んでいくが、主人公や他の登場人物に色濃く漂う厭世的な空気がポップに読ませてくれないという。あと、どうしても主人公を三島由紀夫に重ねてしまう。

  • 描写も文章も美しいしタイトルから想像するのに反してスタイリッシュな印象の一冊。時代背景が古くても文章は古くない。三島由紀夫は「憂国」しか読んだことがないし他の有名な作品から文豪のイメージがあったのだけれど獅子文六作品を思い起こさせるようなものを書いていたんだと知った。この人の風景描写は癖になるからまた他の作品も、それこそ「金閣寺」とか読んじゃおうかな。

  • 命や世間との距離感が離れたり、近づいたり。この人は、生きるということの意味を普通の人よりずっと強く感じたがっていたのじゃないかな。

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著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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