血染めの部屋: 大人のための幻想童話 (ちくま文庫 か 32-1)

  • 筑摩書房
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (309ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480035257

作品紹介・あらすじ

純白の処女の喉元に飾られた血の色の首飾り。さしこむ月光の中、下肢から血をしたたらせる狼少女…。女は、その身体の奥にいつも血の匂いを秘めている。赤頭巾、白雪姫、青ひげ、吸血鬼譚などに着想を得て、性のめざめと変容とを描く、セクシュアルで残酷な短編集。

感想・レビュー・書評

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  • 7-9月 *移動図書
    請求記号:T-か ちくま文庫
    所蔵館 2号館図書館

  • 原著の出版は1979年だが、
    この文庫が出たのは20年後の1999年【※】で、
    グリムやペローの童話をモチーフにした短編集であったため、
    恐らく1998年以降の『本当は恐ろしいグリム童話』などの
    大ヒットに便乗した復刊だったのではないかと推察。
    シャルル・ペロー「青ひげ」「長靴をはいた猫」他の
    「読み直し」「書き直し」といった作品群。
    明言されていない裏の意味を読み解くというよりは、
    男に従属する女、
    あるいは男の望むとおりの姿形や性質を備えた女の物語に対する
    アンチテーゼといった趣き。
    だからといって、そこに登場する乙女たちが
    セックスの問題から解放された自由な存在というわけではなく、
    個人的にはその辺が……なんかこう……スッキリしない、
    モヤモヤする感じ(笑)
    グリム童話の換骨奪胎だったら、マンガではあるけれど、
    諸星大二郎の諸作品の方が捻りが利いているし、
    目から鱗が落ちるような新解釈が施されていて面白いと思ってしまう。
    しかし、カバー画に採用された竹中英太郎作品が掘り出し物。

    【※】先立つ1992年に出版されたハードカバーの文庫化らしい。

  • 3/19 読了。
    童話の持つ残酷さやエロティックな部分を再構築した短編集。こう言っちゃうと昔流行った「ほんとうはこわいグリム童話」なんちゃらみたいなものを想像してしまうけれど、ああいう即物的描写はない。血そのものというより血の匂い、残虐の香りが漂っている。私が今まで見たものの中だと、「赤ずきん」を題材に採ったゲーム「The PATH」の雰囲気に近いと思う。
    「赤ずきん」や「青ひげ」などを言ってしまえば"現代語訳"している作品であるため主人公は少女であることが多いが、ここに描かれる少女は性的欲望を駆り立てるものとして、端的に処女性の権化である。「彼女はみずからの処女性という眼に見えない神秘的図形の内部に立って動いているのである。彼女は割られていない卵のようだ。封印された容器のようだ。自分の内部に、その入口が処女膜という詰め物で堅く閉ざされた魔術空間をもっているのだ。彼女はいわば閉鎖系なのだ」(「狼たちの仲間」より)と作中にもある通り。しかし、同時にこれはそんな処女性の権化たちの復讐の物語でもある。残酷な力をふるうのはしばしば彼女たち自身なのだ。
    森と一体化した木のような姿で鳥を飼っている"精霊の王"に攫われた少女の静かな森での生活とその終わりを綴った「精霊の王」、エルゼベート・バートリを思い出しつつティム・バートンに映像化してほしいような少女吸血鬼の儚い恋を描いた「愛の館の貴婦人」が特に好きだった。

  • こういうのをマジック・リアリズムというのかと初めて知った。
    主にグリム童話を書き直している。
    でもほとんど全部オチや細部まで童話と同じなので
    もっと書き換えようよ、と思ってしまう。
    岸田今日子くらいの毒と官能美が欲しかった。
    大人のための、とあるけど白雪のパパが突然表れた白雪を突然〇〇し始めたりするくらいで官能的要素はほとんどない。
    青髭の皮の臭いと虎の顔を覆うマスクのチラ見せがちょっとだけ官能かなー

  •  童話を現代風にアレンジした連作。最近多いよね、こういうの。でも、倉橋由美子ほど残酷でも、A・ライスほど淫靡でもない。うん、薄味だね。面白くない訳じゃないけど、温いなって思うのは、過激な刺激のあとだからなのか…。

  • 短篇集。10篇収録。
    耽美的でエロティックで、それでいてどこか硬質な肌触り。以前読んだ『ブラック・ヴィーナス』より読みやすかった。
    ペローの「青ひげ」を下敷きとした表題作。海に浮かぶ孤城の陰鬱さ、鏡張りの寝室に漂う白百合の重苦しい香り、“夫”の圧倒的な存在感。そして娘を救いにきた母親の姿。白髪をたてがみのように振り乱し、喪服の裾を腰までたくし上げて馬にまたがり、片手に手綱、片手に夫の形見の拳銃・・・・格好イイ!
    母親のせいで窮地に陥る娘の話は昔話に数あれど、母親に窮地を救ってもらうというのは聞いたことがないような。そういう意味でも意表を衝かれて面白い。
    「雪の子」は掌編ながら、赤・白・黒といった色彩のイメージの強烈さとグロテスクな味わいで、一番鮮烈だった。
    “彼女はみずからの処女性という眼に見えない神秘的図形の内部に立って動いているのである。彼女は割られていない卵のようだ。封印された容器のようだ。自分の内部に、その入口が処女膜という詰め物で堅く閉ざされた魔術的空間をもっているのだ”なんていう表現にはドキドキする。
    どのヒロインもある意味したたかで、力強く描かれているように思えた。
    訳者によるあとがきも、カーターの文学史的位置づけに言及するなど詳細で、読み応えがある。
    ――The Bloody Chamber by Angela Carter

  •  最初の「血染めの部屋」から心臓を鷲づかみに。こういう物語が大好きだし、読みたかったのよっ!ぞくぞく興奮した。  誰もがよく知る童話が時空を超え女性の視点で語り直され、幻想と耽美、セクシャルで官能滴る残酷な毒ある童話へと変貌する。作家が再構築した童話にただただ酔いしれた。 タニス・リー『血のごとく赤く』を再読し、読み比べたくなる。

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著者プロフィール

1940年、イギリスのサセックスに生まれる。大学で英文学を学び、卒業後しばらくは新聞記者として働く。1966年に小説『シャドウ・ダンス』でデビュー。以後、『魔法の玩具店』(1967)、『ラブ』(1971)、『ホフマン博士の地獄の欲望装置』(1972)、『新しきイヴの受難』(1977)といった作品を次々に発表し、昔話、SF、ポルノグラフィ、ミステリなど、さまざまな要素を盛り込んだ、新しいゴシック小説の書き手として注目を集める。1984年に『夜ごとのサーカス』を、1991年に『ワイズ・チルドレン』を発表し、1980年代以降を代表するイギリスの女性作家として高い評価を得るが、1992年に死去。ほかに短篇集として『花火』(1974)、『血染めの部屋』(1979)などがある。

「2018年 『新しきイヴの受難』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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