樋口一葉の手紙教室 (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
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本棚登録 : 34
感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480039385

作品紹介・あらすじ

樋口一葉は『通俗書簡文』という手紙の書き方の実用書を書いた。病の床での執筆で、生前に刊行された唯一の本である。年始の文、歌留多会のあした遺失物をかえしやる文、猫の子をもらいにやる文、離縁を乞わんという人に、などなど掌編小説さながらのストーリーが展開する"手紙文例集"を森まゆみが味わい深く読み解く。手紙を楽しみたい人、必読の書。

感想・レビュー・書評

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  • 樋口一葉の『通俗書簡文』なる書物のことを世に紹介したという意味では、この著者の仕事はそれなりに評価されるであろうが、著者はこの『通俗書簡文』がいかなる書物かということについて、「樋口一葉が書いた手紙の書き方の実用書である」という説明しかしていないため、実際に樋口一葉が誰かに宛てて書いた手紙が紹介されているのだろうという誤解が生じる。例えば、「え?樋口一葉って子どもさんいたっけ?」とか、「どうして返事も一緒に紹介されているんだろう?」ということがよくわからなくなってしまうのである。
    個人的には、「夏の部」を読み終わるころになって、ようやく返事も含めたこれらの手紙文のすべてが、実は樋口一葉の創作であったということに気がついた次第である。
    著者は「実用書である」ことは自明のこととして、詳しい説明を省略したのであろうが、これは極めて不親切なことと言わざるを得ない。

  • 1

  • 一葉が亡くなった年、明治二十九年五月に博文館から刊行された「通俗書簡文」。
    その中から約半分程度を抜き出して解説したものだ。
    一葉が博文館から依頼され、わかりやすくいうと「手紙の書き方」の文例を指南したもののようだ。
    しかし小説と違わず、何と流麗で美しく調子のある文章だろう。
    現代では手紙を書くことなどだいぶ少なくなっているが、このように文章を編めたら手紙を書いてみたいものだと思う。
    勿論、文語、候文で手紙を書くわけにはいかないが、最低限、礼儀を持った相手を思いやる文章を織り交ぜた手紙を書いてみたいものである。
    「手紙の書き方」ということに拘らなくても、一葉の書いた例文を読むだけで、この本を読んだ価値がある。

  • 樋口一葉の書いた手紙の指南書、『通俗書簡文』の約半分程度の手紙文と、森まゆみによる解説がセットになった本。
    原著に収められた手紙の半数くらいを採録したという。

    森まゆみの『鴎外の坂』が大好きで、この本を手にした。
    『鴎外の坂』を読んだ時、明治の東京の自然が何と美しいことか、と思った。
    森家が上京した頃の向島あたりの描写に陶然とした。
    無秩序な都市化が進み、煤けていく東京ではないものがそこにあった。
    それはその頃の東京が持っていた輝きなのだと思っていた。

    けれども、本書を読んで、やはりそれは森まゆみの力によるところも多いと思うようになった。
    もちろん、時期的には江戸の雰囲気が色濃く残る頃。
    とはいうものの、ここに書かれた明治の東京の四季の美しいこと。
    そして、人々の情の細やかなこと。
    そういう書簡を掬い取って編集するときに、編者の志向が多く反映したのだろうと想像する。

  • ちらりと→ほのかに。
    何もせずに→空しゅう。
    見込みのない→はかなき。

    まゆみ曰く、いっそいまの私たちが、一葉時代の副詞、形容詞を積極的に取り入れて手紙を書いた方がいいのではないかと思う、と。高校生のメール文は須らく候文とすべし。そういう法律でもあると妄想できれば、日本語の力は格段に。。

  • 書店のちくま文庫の棚をぼんやり見ていたら、ふっと目に入ってきたので手に取りました。パステルカラーの抽象画がキレイ!樋口一葉が生前に1冊だけ出版できた本『通俗書簡文』を、東京の下町雑誌『谷根千』の森まゆみさんが解説された本です。明治時代には文芸の作家が実用書を手がけることがよくあったそうですが、どういうものかイメージがわかなかったので興味津々で開きました。口語文の手紙…と思いきや、「〜候」のオンパレード。そうか、明治の手紙はまだ候文なんだ!という初歩的なことから知らない(笑)。時代小説でもフルで手紙を再現しているものはごくまれなので、もの珍しさも手伝って読みました。これを読破できれば候文の手紙がらくらく書けるんじゃないか?という錯覚に陥ってしまいます(笑)。季節のあいさつや近況報告、お見舞いだけでなはく、猫の子をもらったり、子弟の落第を慰めたり…『にごりえ』『十三夜』などで感じられる口調のよさと、描かれる情景や心情の細やかさが印象に残ります。森さんの文章も、大人の落ち着きがあって素敵です。気取らないけれど品のある筆致で、背景を解説しながら一葉の文章を読み解いていきます。カタい解説でなく、ほどよい柔らかみが素敵。突飛な表現はないのに、心にすうっと入り込んでくる文章が、マイ「こんな文章、書ければいいな」の暫定トップ(笑)。華やかさも、「ぎゃはーっ」と笑える面白さもないけれど、知的な楽しみを味わえる文章に、この☆の数です。◇先日、白洲正子『私の百人一首』の感想をアップしたときに、Kurapiさんとヨナキウサギさんにコメントをいただきました。そのコメント内の「女流作家さんの名文家」つながりで「森まゆみと樋口一葉をプラスしたい」とレスをつけた数日後に、この本を発見。この2人の組み合わせでできた本があったということに本当に驚いてしまいました。手に取れたのはおふたりのおかげです。ありがとうございました。

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著者プロフィール

1954年生まれ。中学生の時に大杉栄や伊藤野枝、林芙美子を知り、アナキズムに関心を持つ。大学卒業後、PR会社、出版社を経て、84年、地域雑誌『谷中・根津・千駄木』を創刊。聞き書きから、記憶を記録に替えてきた。
その中から『谷中スケッチブック』『不思議の町 根津』(ちくま文庫)が生まれ、その後『鷗外の坂』(芸術選奨文部大臣新人賞)、『彰義隊遺聞』(集英社文庫)、『「青鞜」の冒険』(集英社文庫、紫式部文学賞受賞)、『暗い時代の人々』『谷根千のイロハ』『聖子』(亜紀書房)、『子規の音』(新潮文庫)などを送り出している。
近著に『路上のポルトレ』(羽鳥書店)、『しごと放浪記』(集英社インターナショナル)、『京都府案内』(世界思想社)がある。数々の震災復興建築の保存にもかかわってきた。

「2023年 『聞き書き・関東大震災』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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