サブカル・ニッポンの新自由主義: 既得権批判が若者を追い込む (ちくま新書 747)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 32
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480064547

感想・レビュー・書評

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  •  いわゆる「新自由主義」を批判した本。テーマ自体は有り触れているが、ネットやメディア上の動きを扱う視点は面白い。

     「新自由主義」というと小泉内閣の郵政や道路公団の民営化に見られるような規制緩和・小さな政府路線のことと取られがちだが、この本では同内閣の採った「あいつらは不当に利益を貪っている」という「既得権批判」が新自由主義的な考え方として採り上げられている。

     その「既得権」というのは人によって変わります。高級官僚の天下りが既得権とされることはよくありますが、高齢者や障碍者、在日外国人などが「差別」を俎上に載せて「弱者利権=既得権」を貪っているとされることもある。その是非は別として、特に後者はネット上でバッシングの対象になることが多い。この流れも著者の見解に従えば新自由主義的と言えるものだろう。

     著者の考える新自由主義の大きな問題点は、「こうせざるを得ない」と宿命的に考えてしまうというもの。追い詰められた者は時に犯罪など、取り返しの付かないことをしてしまう場合も多い。

     「苦しい」と声を挙げられる環境を作ることが、追い詰められることで犯罪に走る人を減らし、私たちが「ほんとうに幸せ」になるための一歩になるというのには賛同できた。

  • <blockquote>だが誰にとっても重要なのは、ゲームのルールは変ってしまったということなのだ。私たちは、二人三脚のように肩を組んでそろってゴールすることを求める社会から、足を組んでいたロープを解かれ、ばらばらに走り出すことを求める社会に放り込まれてしまった。(P.75)</blockquote>
    <blockquote>ここで求められている新しいゲームのプレーヤーが持つべき能力とは、端的に言って【クリエイティブ(創造的)】であることだ。(P.78)</blockquote>
    <blockquote>おそらくいま生じている正社員モデルへの回帰は、「あなたらしい生き方」なるものの「虚構性」を目の当たりにした人々の、「実」を求める心性の表れであろう。(P.66)</blockquote>
    セーフティーネットがセーフティーネットとして機能するかどうかは"落ちて"みないと分からない。そして、そのことは省みられていない。その精神的不安がいまの社会の焦燥感、閉塞感に繋がっているのではないか。

  • 社会・経済思想における特定の立場としてのネオリベラリズムを批判するのではなく、ネオリベラリズムの言説とその対抗言説のカップリングがその上で成り立っているような社会状況の、共時的な構造を分析した本として捉えることができるように思います。

    かつて多くの人が手にすることのできた安定した地位が失われた結果、一方では、既得権批判という仕方で資源の再分配を要求する言説が生まれ、他方では、そうした流動化が進んだ社会の中で不遇な立場に立たされる者たちによって、社会の流動化を推し進めるネオリベラリズムに批判的な言説が生まれることになります。本書の考察が向かうのは、こうしたネオリベラリズムをめぐる言説の布置を成り立たせている社会状況の分析です。

    ただ、ちょっと引っかかったのは、本書の最後で「既得権批判」をおこなう個人の動機にまで分析のメスを入れて、その実存的な構造に迫ろうとしているところです。著者はそうした実存的な切実さが、社会科学的な分析以前のところで、人びとを動かす動機となっていることを認めているようです。「なぜ、「苦しい」ということを言うために、わざわざ社会科学的な根拠を持ち出さなければならないのか」という著者の問いかけは、理解できるものではあります(著者の学問上の師である宮台真司の、システム論的な思考の限界を乗り越えようとする意図を、そこに見ることができるかもしれません)。ただ、そうした実存的な根拠を、私たちが暮らす社会を構築するための根拠とすることができるのかという疑問を感じてしまいます。もっとも、著者は本書の最後でそのような展望を示唆しているだけで、具体的な議論をおこなっているわけではないのですが、より具体的な議論を展開していくに際して、実存としての私たちが、実存としての資格において、社会について発言することができるのか、という問いを避けることはできないような気がします。

  •  新自由主義と現在日本をどう考えるべきか、若き社会学者が語る。

     今の日本に蔓延している若者のこんなはずじゃなかった感。それは上の世代のせいだ!などの既得権批判を生む。そこで新たな体制として競争社会へ行くのか、それとも助け合いの理想郷を目指すか、右派と左派は複雑に絡み合う。
     提言、結論としては分かりづらいが、巡る思考の中で様々な興味を感じ、さらに読みたい参考文献も多かった。
     現代社会を深く考える羅針盤となる一冊。

  • 『「疎外された自己」と「獲得された自己」との往復を、「カーニヴァル」と呼んでいる。』

  • なんというか消化にすごく時間がかかるし、読み終わった今でも全部理解できたのかと言われれば全然そんなことはない。けれども社会にでる一歩前、大学生の自分としては、そこで論じられている既得権やら労働における疎外の感情やらを自分とは他なるものとしてとらえることになった。それがいいとか悪いとかではなく、ただ今の時期に自分の幸せとか幸せに生きるとか、そういうことについて少しでも考える時間を得られたという点で読めて満足。

  • 世代論の本だったと思う。もう一度読み直したい。

  • 唸るー最終章というか結論としておっしゃっていることは多分理解できて同意というか同じこと考えてあるなー雲泥の差の出来だけども、なるほど!と思えたのですが、そこに至るまでの論がなかなか消化不良というかわかりませんせんせいいここわかりませんの連続でした。
    明言や断言を避けてとにかく掘り下げて行くという態度に平伏。確かにならではの深さがありました。でもわからない…抽象的すぎたか専門用語というか文脈が高度すぎて私などではついていけなかったところがばしばし。
    最終的に私は、自由とはなにか、ということをみっちり考えさせられるにいたりました。サブカル、と表題に出てくるのは効果的なのかということも考えました。少なくとも私は違う構え方をしてしまってたなー…最終的に確かにサブカルの話になるんですけど、サブカルに興味なくても絶対に面白い、社会や文化へお示唆に富みまくった一冊だと思います。
    とりま早急に読み直したい。
    鈴木氏は地方出身というファクターが、視線に膨らみと、私にとっての近さや理解の手助けを生み出しているかも、とも改めて。好きです。

  • 今仕事をやっていられるのは実力でそうなったと単に思い込んでいるだけ?ロストジェネレーション世代がそこから抜け出せないのはそう思い込まされているだけなのか?時代の空気で当たり前と思っていることに疑問を持つことに気づかせてくれた本。ただ、ロストジェネレーションの考え方はやはり難しい。

  • [ 内容 ]
    生き方のルールが変わった。
    個人の「能力」が評価軸の中心となった。
    だがそれは激しい競争へと私たちを駆り立て、マッチョであることを要求する。
    こうした新自由主義のモードが「サブカル社会ニッポン」を覆い、さまざまな「ねじれ」を生んでいる。
    ネット先進国たる韓国、米国の事例をも取り上げ、新自由主義がいかなるルーツを持っているのか、これに対抗しうる拠点はないのか、サブカルの可能性を見据えつつ、深く鋭く迫る。

    [ 目次 ]
    第1章 既得権批判?流動化と安定の狭間で(サブカル・ニッポンの不安な世代 約束の土地、終身雇用 自己啓発する宿命論者)
    第2章 インターネットと反権威主義(改革の末路 理想としての「情報社会」 ハッカーとヒッピーの六八年)
    第3章 サブカル・ニッポンの新自由主義(新自由主義の本質とは何か 競合する「人間らしさ」へ向けて 「見られること」から「見ること」へ)

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著者プロフィール

関西学院大学准教授。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員。専攻は理論社会学。ソーシャルメディアやIoT、VRなど、情報化社会の最新の事例研究と、政治哲学を中心とした理論的研究を架橋させながら、独自の社会理論を展開している。
著書に『カーニヴァル化する社会』(講談社、2005年)、『ウェブ社会のゆくえ─〈多孔化〉した現実のなかで』(NHK出版、2013年)、『未来を生きるスキル』(KADOKAWA、2019年)ほか多数。

「2022年 『グローバリゼーションとモビリティ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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