美術館の舞台裏: 魅せる展覧会を作るには (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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本棚登録 : 644
感想 : 39
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480068613

感想・レビュー・書評

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  •  言われてみれば気になるものがある。それは美術館の行っている展覧会がどのように企画されて運営されるかということだ。その点で今回の本はぴったりだ。今回の著者は、丸の内にある三菱一号館美術館の初代館長。

     よく展覧会のパンフレットに主催者の欄に必ずと言っていいほど載っている業界の名前がある。それは新聞社だ。戦後の海外展で海外の美術館から貸してもらうための交渉をするには海外駐在員や特派員はうってつけの存在だった。何しろ1ドル360円という時代で、誰もが手軽に旅行できる時代ではなかった。そのうえ新聞社にとっても自社の存在をアピールできる。アピールも文化に関心があるというお上品なやりかたで。需要の供給の一致が今日の海外展の基礎になっている。

     1980年代以降、放送局が美術展開催の参入するようになったとある。TBSの世界ふしぎ発見を見ているとたまに展覧会の宣伝を兼ねたテーマを取り上げていることがある。その後、「商業化への道をたどる海外展」と著者が述べているように、海外の美術館は資金繰りが苦しくなってきて、日本の海外展を金の生る木にせざるを得なくなったそうだ。茶者がある美術館の名誉館長にチクリといわれた一言が載っている。それは「作品をお金で集める習慣をつけてしまったのは日本人なんだよ」と。その付けが今どっしりと響いてきているようだ。

     読んでいてびっくりしたのが美術品の扱い。日本に届いて中を開けてみたら、フレスコ画の表面の顔料がはがれ落ちていた。それに対してナポリの美術館からのもので、付き添ってきたクーリエがはがれた顔料を掌にとってごみ箱に捨てたと書かれている。さらに、「イタリア人はジオットのフレスコ画を雑巾でふいてるんだよ」という著者の恩師の言葉。「あまり細かいことは気にしない傾向が強いのです」とあるように、日本人では考えられないことをする。フランス人も同様の傾向が強いそうだ。

     美術館や博物館で働く場合も、商社で海外勤務をする人に求められる「神経の図太さ」が必要だ。可憐な一輪の花では心もとない。

     展覧会を企画、運営していくことが大変なのが分かる。今度展覧会を見に行くときは、どんな風に企画して運営しているのか注目してみるか。展覧会の公式ガイドを見るとどこかに何かしらの形で書かれている。

  • 美術ファンとしては各美術館で様々な企画展が開催される事は行きたい展示が多すぎて選べない!という贅沢な悩みだと思っていたけれど、関係者から見ると美術展の商業化という意味で良いことばかりではないのだと知って驚いた。
    海外から作品を集めれば集めるほど輸送費や保険料で莫大な費用がかかり、それを回収するため新聞社やテレビが宣伝しグッズを作り‥いわゆる日本で開催される「企画展」は失敗が許されない、ハイリスクハイリターンの一大ビジネスに(良くも悪くも)なったとのこと。関係者は大変なプレッシャーの中で準備に追われているんだろうな‥
    今後美術館に行く時は心して行こうと思いました(笑)
    あと個人的には日本の美術品は主に紙のものが多く展示中のダメージが多い事から展示期間が短いという話が印象的だった。もっと会期を延長してくれれば良いのに‥と不満だったけれどそんな理由なら致し方ない。

  • 日本の美術館・美術展の成り立ちから、美術館運営の裏側、今後の美術館の展望までを書いた本。作者の高橋氏は丸の内にある三菱1号館美術館の館長であり、彼がこれまで経験したエピソードも交えて描いており、非常に面白かった。
    この本は年に1回か2回、興味のある展覧会が開催されている時だけ美術館に行く、私のようなビギナーが最も楽しく読めるのではないかと思う。
    この本を読んで、自分が知っている画家・アーティストのみならず、未知の展覧会にも足を運んでみようと思うようになった。

  • これまでにも何冊ものアート関連の本を読んできましたが、小難しくて頭を抱えるものが多かった。でも、これはアート初心者にもやさしく解説されているのでさらっと読める。本著は「現代アート」よりも著者が強みとしている近世の「西洋アート」を中心に語られている。
    でも、美術館ってこういうふうにして運営されていて、日本の美術館市場がどのような状態なのかを把握できるのでとても興味深かった。これで、展示や企画展の見方も変わる気がする。

  • 三菱一号美術館の館長の著作。
    美術や美術館事情に詳しい人には物足りないかもしれないが、
    私のように「そんなに詳しくないけど興味はある。時々美術館にも行く」という人にオススメ。
    一通りのことが簡潔に分かりやすく書いてある。
    いちいち「へぇ~、そうなんだ~」と思いながら楽しく
    読んだ。

  • 丸の内にある落ち着いた雰囲気を持つ美術館である、三菱一号館美術館。同館の館長が書き綴る、日本の美術展と美術館の実態と現状。日本の美術館に対する公的援助が少ないことは、以前から重々承知していた。自前で用意できるコレクションに乏しく、海外にネットワークを張り巡らす新聞社・メディアの力なくしては、日本の美術館で海外芸術の展覧感を開催することは難しいのだ。そのことが、日本の美術館とメディアの関係に悪影響を及ぼし、日本に真っ当な美重点の評論が存在しないことを、筆者は心から憂えている。「寄付」と「寄贈」の違い、美術品を巡るドロドロの世界、美術品と光(太陽光、室内照明問わず)の関係…。「学芸員」の地位が、海外と日本とでは全く違うことに、驚く人も多いだろう。大学の講座で簡単に取得できる日本に対し、高度な試験を突破しないとその座につけない海外。自前で用意できるコレクションがない(少ない)が故に、日本独自で発展した様式が、海外の美術関係者から奇異の目で見られていることは、日本人美術愛好者の一人としては肩身が狭い。そしてここ数年の世界的不況で、海外の美術館も経済的苦境に陥っているのは、美術ファン、美術展覧会好きには気がかりな状況である。美術というのは、このまま「金持ちの道楽」になってしまうのだろうか。

著者プロフィール

高橋明也(たかはし・あきや)
1953年東京生まれ。東京都美術館館長。国立西洋美術館学芸課長、三菱一号館美術館館長等を経て、2021年より現職。1984~86年に文部省在外研究員としてオルセー美術館開館準備室に在籍。2010年にフランス芸術文化勲章シュヴァリエ受章。主な著書に『美術館の舞台裏―魅せる展覧会を作るには』(筑摩書房)、『新生オルセー美術館』(新潮社)他。

「2022年 『もっと知りたいモネ 改訂版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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