イノベーションはなぜ途絶えたか: 科学立国日本の危機 (ちくま新書1222)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (228ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480069320

感想・レビュー・書評

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  • 今後の日本の技術衰退(予想)が具体的にどこに問題があって起こりうるのか、非常に興味深く読むことができた。

  • SBIR制度の話を聞いて,米国の税金の使い方が巧みであることが分かったが,日本で同様な制度を構築するのは各方面からの抵抗が大きいと予測される.特に大企業から.馬の骨のような奴に国の予算を配分するといった芸当はできないだろう.官僚たちの天下り先がなくなるのだから.やる気のある若者がサイエンス型ベンチャー企業を起こすのを横目で見ながら,足を引っ張るのが官僚のやり口だ.イノベーション・ソムリエの育成についても,理系文系の枠を取り払う強い声がないと実現できないだろう.でも米国で出来たのだから,真似の上手な我が国でやれないことはないと思うが,どうだろう.

  • 日本のイノベーションが途絶えた理由を具体的な事例検証も交えながら分析し、どうしていくべきかの提言までをまとめた一冊。表に見えている特定ジャンルの知の進化に邁進するだけではだめ。土壌の中で常に知の探索を進めていくことが重要。また、探索を探索で終わらせず、具体的な形にしていく支援の仕組みをもっと作っていかねばならない、ってなお話。新書でそんなにページ数多くないけども、中身が濃くて読み応えがあった。読む価値のある一冊だと思います!

    ・優秀な科学者が企業で飼い殺しにされて、新しいことにチャレンジできていないのが問題。優秀な科学者や技術者が企業を飛び出して、起業できる世の中にすることがイノベーションを生むための根治治療に繋がる。

    ・山登りのワナに気を付けろ!一度登ってしまった山を下りて別の山にいくのは、本当に難しい。たとえその山登りが死のハイキングだと薄々気づいていたとしても、ほとんどのケースではそのまま山を登り続ける。

    ・科学者にも既知派と未知派の両パターンがいる。企業にはどちらも当然必用だが、ひとたび山登りのワナにはまると、既知派が力を持ち、未知派の居場所がなくなり、次の種作りが進まなくなり、結果としてますます今登っている山を下りられなくなる。

    ・交易条件。国際競争力をみる指標。輸出価格÷輸入価格が1より大きければ国際競争力がある。

    ・米国の競争力の源泉はベンチャー起点のイノベーション。これが機能している背景には政府が取り入れたSBIR(small business inovation resarch)というプログラムがある。無名の科学者を企業家に転じさせる「スター誕生」システム

    ・市場規模が小さく、不確実性が高いものは、リスクが高く、大企業は投資をまわせない。しかし、次世代のイノベーションの種はつねに、その不確実性の先にある。このギャップを埋めるために政府が投資を肩代わりする仕組み。

    ・SBIRには3段階のステージがある。アイディアを探索するステージ⇒アイディアを具体化するステージ⇒ベンチャーキャピタル紹介等本格化するステージ

    ・1つめのステージで募集をかける科学技術のお題を、きわめて具体的に政府が提示する。政府の事務局が科学の知見を持ち得ており、どのようなジャンルのアイディアを具体化していくべきかを指し示せることが、この仕組みが成功している大きな要因。

    ・一方日本も、遅ればせながら日本版SBIRを導入するも、無名の優秀な科学者の冒険を支援するものではなく、中小企業の延命に使われる結果になってしまっている。

    ・科学とは、まだ誰も知らないことを知る発見するための研究。真っ暗闇の中をろうそくも持たずに自分の経験と勘を頼りに1人探検するようなもの。一方技術とは科学の発見を世に有用なものとして届けるための研究である。

    ・イノベーションダイアグラム。
    既存技術⇒(演繹・守)⇒パラダイム持続型技術⇒(帰納・破)既存の知⇒(創発・破)⇒創造された知⇒(共鳴場・離)⇒パラダイム破壊型技術。

    ・トランスサイエンスの問題。科学がもたらす負の側面をどうコントロールするか。コントロールする人間側の判断の危うさをも理解した上でどう設計していくかを考えていかねばならない。そのためには、科学リテラシーが問われる。

  • 久しぶりにいい本と出会った。みんなも読むべき。日本の課題が明確に書かれている。

  • 日本の大学、企業の学術論文数は90年代後半から激減。
    特に物理学分野で顕著。

    アメリカSBIR(スモール・ビジネス・イノベーション開発法)
     政府の外部委託研究費の一定割合を拠出の法令化。
     応募して採択されると3段階に賞金を授与される。
     1.可能性の探索競争:15万ドル
     2.具体的にビジネス化の可視化競争:150万ドル
     3.ビジネス支援:ベンチャーキャピタル紹介

    研究者から企業家への仕組み
    3つのタイプの科学者
     1.研究者
     2.プロデューサー(科学行政官)
     3.イノベーター
     博士号の純粋科学者がイノベーターになっている。
     累計100億ドルの賞金に対し、収益は45倍にもなっている。

    ノーマリーオフ
     物理限界を超えない設計になっていなかった。
     福島原発。福知山線。

     寡占独占企業はイノベーションの必要がない。
     減点法、いかにリスクに近よらず、幸せに過ごせるかという発想に陥る。
     ブレークスルーしないと世界に通用しない。
     リスク回避のための補助金ではなく、
     リスクにチャレンジした者が利益を得る仕組みに。

    知の越境
     2つ以上の学問を関連付けながら修める。
     誰もが科学する人へ。

  • 塚本壽 リチウム電池開発 ベンチャー
    バインド電池

    http://www.connexxsys.com/

    山登りのワナ
     ある山に登ってしまったら、他に高い山があることを見なくなり、たとえ見えたとしても、登る行為自体がワナとなって下りれなくなる現象をさす。

    鉱物性燃料(石油など)を除いて、日本経済の足をづっと引っ張っている産業はなにかといえば、医薬品である

    2000年以降相転移 そこまで6000億 2015 30000億 発見する薬からデザインする薬へと創薬の方法論が変容したことによる

    90年AT&Tベル研究所 科学研究から撤退 91年IBM 基礎研究から撤退 その後ゼロックスのPARC(パロアウト研究所)がなくなり、HPも縮小

    基礎研究を世界に先駆けて縮小したにもかかわらず、米国では科学や技術企業が日本のように凋落するどころか、どんどん勢いを増していった。

    山中教授 利根川進の講演会で、一つの研究分野に腰を落ち着けずに次々と専門領域を買える自分の将来に底知れぬ不安を覚え質問した

    「研究の継続性が大事だなんて、誰がそんなんいうたんや。面白かったら自由にやったらええやんか。」

    臨床整形外科→薬理学→分子生物学→がんの研究→ES細胞の研究とさまざま分野を遍歴
    iPS細胞の発見は回遊をしたはての創発である

  • 科学者が、日本の技術の衰退の原因を説く。シャープのこと、原発のこともこういう科学者の視点でみればよく分かる。

  • 日本発信の科学技術のイノベーションが少なくなって久しい。その理由を最近のシャープなどの事例や科学技術がどのようにして発展するかの持論を展開している本。

    1章では、中央研究所崩壊からイノベーションをするような場が日本から消えてしまった、「目利き」の存在がいないことを理由としている。

    2章では、元はイノベーション企業だったシャープの例から、危機は分かっていても「山登りのわな」から逃げられなくなったことを研究面でも事務面でもインタビューから明らかにしている。

    3章では、米国のイノベーションは、SBIRの仕組みにあり、日本はその仕組みの本質的な理解をせずに失敗してしまったとしている。

    4章では、イノベーションが生まれる仕組みを「昼の科学」と「夜の科学」、共鳴と回遊が必要だとしている。

    5章では、トランスサイエンスの必要性を訴え、それができなかった、JR福知山線転覆事故、原発事故について、まとめている。

    6章では、これまでのまとめとして、リスクに挑戦し、イノベーションソムリエの存在を作ること、科学者としての在り方をまとめている。

    多岐にわたっているが、いろいろと示唆に富むことも多い。著者の本を読んでみたいと思った。

  • 日本のイノベーションの衰退の原因を多面的に取り上げています。

  • 市民科学者社会の実現には深く同意する。非常に興味深く勉強になった新書であった。

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著者プロフィール

山口 栄一
山口栄一:京都大学大学院総合生存学館教授

「2015年 『イノベーション政策の科学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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