ファンベース (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
4.02
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480071279

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    気づけば、どの本を手に取るかを決めるとき、公式情報を使っていない。ブクログでフォローしている人の本棚、HONZのおすすめレビュー、個人サイトの書評に目を通し、面白そうなものをピックアップしている。
    それは私が、「この人の感想はなんてワクワクするんだ!」「あの人が面白いと言うなら間違いない!」と感じている、個人への「ファン」だからだ。

    これと同じことが、ビジネス書のビジネスモデルとして使われている。
    ビジネス書の購入者の多くは「著者買い」をする。「A氏が書いた」というだけで、その著者のファンが、どんな中身であろうとも真っ先に購入していく。
    ここで、別の著者(B氏)が書いた本の帯に、「A氏も絶賛!」というアオリを載せると、A氏のファンが「それならば読んでみよう」と思い、本を手に取る。そしてA氏の新刊が発売されたとき、「B氏も絶賛!」と載せれば、B氏のファンが買っていくという相乗効果が生まれる。
    ビジネス書を執筆する著者のもとには、ファン・コミュニティが固く構築されているケースが多い。著者と4%のコアファンとの距離が近く、反応速度が速い。そうしたコミュニティが著者の数だけ存在し、ビジネス業界の中で横に繋がっている。サロンやメルマガ、Twitterなどで別の著者の本がおすすめされると、「友達の友達」理論によって、本がつぎつぎと売れていく。著者1人のつぶやきが、何万ものファンに拡散されてベストセラーが生まれていくのだ。

    前置きが長くなってしまったが、今や「商品」そのものの宣伝よりも、ファンにフォーカスを当てた広報戦略が売り上げを左右しているということだ。そして、そのメカニズムを解き明かすのが本書「ファンベース」である。
    ファンベースとは、ファンを大切にし、ファンをベースにして「中長期的に」売上や価値を上げていく考え方だ。
    注目すべきは「中長期的に」の部分。商品情報を発信するには、CM、ネット広告という「短期的」広報ばかりが重要視されてきた。しかし、いまや世の中にモノはあふれており、商品の「質や値段」に注力して差別化していく戦略は、すぐに他社から模倣品が生まれてしまう。同様に、CMも広告も洪水のように流れているため、一瞬バズったぐらいではすぐに忘れられてしまうのだ。

    そんな中で大切なのは、買ってくれているファンを大切にする戦略である。
    ユーザーに愛着を持ってもらい、企業のファンになってもらえれば、新しい商品を自発的にPRしてもらうことができるし、口コミでファンを増やしてもらうこともできる。また、業績が不調であっても買い支えてもらえる。
    大切なのはお客様関係よりも親友のような信頼関係なのだ。

    ファンベース戦略の成功者としてパッと思い浮かぶ企業としては、アップルや任天堂が挙げられるだろう。
    どちらも「商品」を越えた「企業」に愛着を持っているユーザーが多く、中身がわからない新商品でも厭わずに買い、レコメンドする。
    ブランドへの愛着を持ったファンを抱えている企業は、概して「好感度」も高い。それが新規ユーザーを呼び込むきっかけにもなっている。

    一方で、ファン向けにフォーカスを当てすぎて、一般客との温度差が乖離している企業もある。ファン向けを追求するあまり内輪で盛り上がりすぎてしまい、一般客にマイナスイメージを植え付けてしまうような企業だ。
    本書ではこうした「行き過ぎた企業」への説明は無かった。「売り上げの80%は20%のファンが支えている」と論じているため、「ファンではないユーザー」への浸透戦略に紙幅を割いてはいない。完全に度外視せよ、というわけではなく、温度差が生まれないようなバランス感覚を持つことが大切なのは間違いないだろう。

    ファンの支持を強くする方法は具体的で分かりやすく、引き合いに出されている事例も面白い。広告手法を見直すうえで非常にためになる一冊だと思った。
    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
    余談だが、本書で語られる「20%のファン」って凄く狭いゾーンじゃないだろうか。
    現に、筆者はマツダのファンだが、車を持っていない(マツダに金を落としていない)。
    私はワークマンのファンだが、ワークマン製品は1つも持っていない。かたや、年間100回近くスターバックスを使うが、スターバックスのファンではない。
    こう考えると、「自分はこの企業のファンだぞ!」と思っているものの、企業側からしてみたら認知されていないのかもしれない。20%の時点でかなりのコアファンだ!

    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
    【本書のまとめ】
    1「ファンベース」戦略のまとめ(概要版)
    「ファンベース」とは、ファンを大切にし、ファンをベースにして中長期的に売上や価値を上げていく考え方。
    「ファン」とは、企業やブランド、商品が大切にしている「価値」を支持している人だ。

    Q.既に商品を買ってくれているファンではなく、新規顧客こそが売上アップに重要なのではないか?
    →20%のコアファンが売上の80%を構成する。繰り返し購入してくれるファンこそが、実は売上を支える大黒柱なのだ。

    また、世の中の情勢の変化もファンベース支持の一因となる。
    世の中には情報や商品が溢れかえる一方で、人口が減り続けている。そんな過酷な環境下では、
    ・一過性のキャンペーンよりも「中長期施策」であるファンベース戦略
    ・新規顧客の物理的な数が減り続けるからこそ、古くからのファンを大切にする
    ことが活きてくる。


    2 ファンベースが必然な3つの理由
    バズったキャンペーンも一瞬で忘れ去られ、売上に貢献しない事例が増えている。せっかく予算を組んで行った試行錯誤の数々が、すべて「ぶつ切り」で消費者に届いており、印象に残っていない。
    短期キャンペーン施策は重要だが、一過性かつ瞬間風速的に終わらせるのではなく、中長期ファンベース施策を組み合わせた「全体構築」が必要だ。

    ファンベースが必然な理由は、次の3つのとおり。
    ①ファンは売上の大半を支え、伸ばしてくれるから
    20%のコアファンが売上の80%を構成している。彼らのライフタイムバリュー(LTV)を上げていくことが、企業を長く支えていくことにつながるのだ。
    ②時代的・社会的に、ファンを大切にすることがより重要になってきたから
    現代社会は物があふれかえった「超成熟市場」であり、新規顧客の獲得が困難である。物があふれて選択肢が多いほど差別化ができなくなるからだ。
    ③ファンが新たなファンを作ってくれるから
    友人は最強のメディアである。たいていの人は、友人と価値観が近い傾向にあり、友人がおすすめするコンテンツは自分もツボにはまる可能性が高いからだ。
    そして、ファンは周りの類友をファンにしてくれる。たった100人のファンが母数だったとしても、類友やつながりの連鎖で、あっという間に数十万、数百万と広がっていく可能性がある。


    3 ファンの支持を強くする3つのアプローチ
    ファンベース施策で勘違いしがちなのは、「全員にファンになってもらいたい」と望んでしまうことだ。ファンとは少数者の集まりであり、ユーザー全体の20%くらいしかいない。

    ●ファンの支持を強くするための3か条
    ・その価値自体をアップさせること→「共感」を強くする
    ・その価値を、他に代えがたいものにすること→「愛着」を強くする
    ・その価値の提供元の評価・評判をアップさせること→「信頼」を強くする

    ●共感を強くする
    ①ファンの言葉を傾聴し、フォーカスする
    支持されているポイントはどこかをまず知る。
    そのためにはファン・ミーティングがかなり効果的。ファンの中でも時間を取って自腹で来てくれるような超マニアたちの語りによって、「偏愛ポイント」を探し出すのがよい。
    ②ファンであることに自信を持ってもらう
    ファンは意外と、「このコンテンツが好きな自分ってイケてるのかな…」と自信がない。他のファンのオーガニックな言葉を載せることで、「この商品を好きでいいんだ!」という気持ちにさせる。
    ③ファンを喜ばせる。新規顧客より長く使ってくれているユーザーを優先する。
    メディア向けの新規情報を、ファンにいち早く発表する。(任天堂の手法)

    ●愛着を強くする
    ④商品にストーリーやドラマを纏わせる
    人は事実ではなく物語に心を動かされる
    ⑤ファンとの接点を大切にし、改善する
    ⑥ファンが参加できる場を増やし、活気づける。ファンの行き場を作る。
    といっても、ファン・コミュニティを作る前に、ファンからしっかり傾聴し、より愛着を持ち信頼するような「環境」を整えることが先決である。
    「レゴのような特殊なケースを除けば、商品を軸にコミュニティが生まれることはない」

    ●信頼を強くする
    ⑦それは誠実なやり方か、自分に問いかける
    しつこい広告、迷惑メルマガ、バズ狙いの記事など、「それ本当に、信頼される要素?」と思われそうなものを消し去る。
    ⑧本業を細部まで見せ、丁寧に紹介する
    ⑨社員の信頼を大切にし「最強のファン」にする
    この企業はきちんしているという感情が社員に湧くようにする

    ファン=常連さんとイメージするとわかりやすい。
    ファンベース施策とは、あなたの店の常連さんを大切にし、彼らのLTVを上げていくこと。そして、常連さんを新たに作り少しずつ増やしていくこと、である。


    4 ファンの支持をより強くするアップグレード施策
    ファンの中でもさらにコアなファンは、全体の4%ぐらいだ。彼らの心をつかめば、より広く熱い伝播が起こる。コアファン施策とは、前章で見た「共感、愛着、信頼」のアップグレード版である。

    ●アップグレード施策
    ・共感→熱狂
    ・愛着→無二
    ・信頼→応援

    ●熱狂
    ⑩大切にしている価値をより前面に出す
    企業の価値観・理念、言うなれば「らしさ」を強く発信する。
    ⑪身内として扱い、共に価値を上げていく
    対等にもてなし、一緒に楽しむ。ファンを特権階級とみなせということではない。あくまで「特別な信頼関係」を築く。

    ●無二
    ⑫忘れられない体験や感動を作る
    特別なイベント、「身内感」のある体験を企画する。
    ⑬コアファンと共創する
    コア中のコアファンと一緒に商品開発をする。

    ●応援
    ⑭人間をもっと見せる。等身大の発信を増やす。
    「こういう人たちが、こういうところで働いている」という生きた情報を発信する。名物パーソンがいれば、彼らの「人間っぷり」をどんどん見せる。
    ⑮ソーシャルグッドを追求する。ファンの役に立とうとする。


    5 全体構築の3つのパターン
    ここまで見てきた施策の中で、一番効果的なのは「中長期ファンベース施策を軸に、短期・単発施策を組み合わせていく」ことである。
    ファンの気持ちが離れないよう、LVTを上げていく施策を継続的に打ち、そこに単発施策を組み合わせ、相乗効果を図っていく。コアファンとファンが短期キャンペーンの効果をブーストし、新しいファンに入り口を開くのだ。

    施策がどのぐらい成功したか?=効果指標として、「NPS(企業やブランドに対してどれくらいの愛着や信頼があるかの指標)」がある。

    ファンベースの仕事は、幸せを生む。
    自分たちが生み出し、愛している商品の価値を支持してくれ、愛用してくれているファンの笑顔を作ることほど、嬉しく、誇らしく、やりがいのある仕事は他にないのではないだろうか。

  • 顧客、単価などビジネスによって属性は異なるものの、本著のように「既存顧客(その中でもファン、コアファン)をより大切にする」という考え方は全てにおいて当てはまるなと感じた。

    新規顧客はもちろん大事だが、人口減少や税率上昇などの背景から既存顧客のリテンションやアップセル、クロスセルの重要性はこれまで以上に高まってきていると思う。

    企業担当者も別に突飛なアイデアや斬新な企画が求められているわけではない。顧客(ファン、コアファン)の話を聞いてニーズを理解し、それを会社やサービスの存在意義や提供価値に昇華させ続けることが大事である。大切なのは、関係者の理解を得られるかどうかと、担当者がいかに忍耐強くそれらと向き合い続けられるかどうか。

  • 本書は読みどころが多くてなかなかまとまりませんでしたσ^_^;

    ファン=企業やブランド、商品が大切にしている「価値」を支持している人
    ファンベース=ファンを大切にしファンをベース(土台、支持母体)にして中長期的に売上や価値を上げていく考え方
    と本書では書かれています。

    「ファンベース」が必然な理由として
    ⑴ファンは売上の大半を支え伸ばしてくれる
    ⑵時代的社会的にファンを大切にすることがより重要になってきた
    ⑶ファンが新たなファンを作ってくれる

    SNSこそ「ファンベース」で活かすべきツールなんですよね。
    価値観が近い人が愛用するモノは自分も愛用する可能性が高いと言えます。
    人はたくさん選択肢を与えられると選べないんですよね。
    「類友」は最強メディアなんやと思います。

    自分の言葉が周りの「類友」や友人に届くことはある意味嬉しいですよね。
    「おススメしたくなるキッカケ」
    「言いたくなる状況」
    「言いやすくなる環境」
    をマーケティング側がつくることで
    「自走式サイクル」を作ることなんやと思います。
    「類友や友人のつながり」の連鎖であっという間に広まっていくサイクルを作れば価値の提供を続けることでファンが生まれるんやと思います。

    ファンが参加できる場コミュニティを増やし活気づけることができるか。
    商品ではなく価値を軸にコミュニティを作る。
    ファンコミュニティを作る前にファンから傾聴しみんなが共感し愛着を持ち信頼するような「環境」を整えることが重要です。
    ファンが「共感」したり「愛着」を持ったり「信頼」を感じたりする「要素」を丁寧に増やしていく。
    根底に「徹底的に役に立とう」とする精神が流れているかどうかをファンは敏感に見抜くし、こういう姿勢にファンは義理堅く応え応援していくものです。

    ファンベースを作るために
    ①スモールスタートで楽しむ
    ②時間をかけることを楽しむ
    ③ファンになってもらう過程を楽しむ
    ④常連さんをお迎えすることを楽しむ
    ⑤ファンという少数と楽しむ
    ⑥コミュニティ運営を楽しむ
    ⑦キレイゴトを楽しむ
    こういうことができるかなんですよね。

    ファンベースを作るなんておこがましいので
    僕自身をブランド化して
    ファンを増やす
    こういう努力を続けたいと思います。

    本書はビジネスの世界に生きる人は役所やろうが会社やろうが役に立つめちゃくちゃエエ本やと思います。

  • パレートの法則を基軸にした考えで、自分を含めてこれが解って無いと経営だけじゃなく何も出来ないよね。

    派生的に考えたら、Twitterでも「私のフォロワー」って言うそれ自体は間違って無いけど、口語にすると「フォロワーの数=自分のファン」みたいな脳内の人居るけど、ああいう考えの人達にも是非この考えを一度は目にして欲しいと思った。

  • ファンベース、これから主流になっていく素晴らしい考え方だと思う。
    ファンはたった20%、さらにコアファンは4%。
    それでも、ほとんどの売り上げはその中から生まれている。
    だったら新規開拓よりもファン向けの施策に力を入れたほうがいいに決まってる。
    まさにお互いが幸せになる関係作り!

  • 企業マーケティングの時点でファンコミュニティを作る利点などの基礎が丁寧に説明されています。

  • 全然広告関係ない役職だけど、なんか頑張ろうと思った。

  • 良書。マーケティングの勉強になります。

  • 新規事業開発や新規施設のプロモーション的なことをすることになり、参考にしたく読んでみた。

    少数のファンが売上げを支えている、というのは何となく聞いたことがあったが、そのファンへのアプローチがここまで重要なのか!というのが、すんなり理解できた。
    ファン施策を通じて取り扱っている商品(サービス)の価値を改めて認識し、向上させていくことが重要というのは、当たり前のことのようでいて年々力をかけなくなってしまいがち。
    社内にもファンを作ると言うのにも納得…やはり担当者が好きでないと、いいファンもつかないよなぁ。

    取扱うもののジャンルや担当を問わず、どうやったらより良い価値を提供できるかを考えたい人にはオススメの本です!

  • 一部のファン(リピーター)が売上の70〜80%を構築している。
    新規顧客の開拓も重要だけれども、商品・サービスを評価してくれているファンに対して、アプローチが必要。
    ファンを増やすために必要になる考え方が「信頼」「愛着」「応援」の3点である。

    ファンに応援してもらうために、ファンの声を傾聴することは必要、でも平伏してはいけない。と言う内容には共感しました。
    自分の仕事(営業職)にも当てはまるのではないかと感じて読んでました。

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著者プロフィール

◉──株式会社ファンベースカンパニー創業者、取締役会長。大阪芸術大学客
員教授。助けあいジャパン代表。花火師。1961年東京都生まれ。
◉──㈱電通入社後、コピーライター、CM プランナー、ウェブ・ディレクタ
ーを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築す
る仕事に従事。2011年に独立し、㈱ツナグ設立。19年、㈱ファンベースカンパ
ニー設立。
◉──著書に『明日の広告』『明日のコミュニケーション』(アスキー新書)、
『明日のプランニング』(講談社現代新書)、『ファンベース』(ちくま新書)な
ど。最新刊は『ファンベースなひとたち ファンと共に歩んだ企業10の成功ス
トーリー』(津田匡保氏と共著、日経BP)。

「2022年 『ファンに愛され、売れ続ける秘訣』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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