サイコパスの真実 (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480071378

感想・レビュー・書評

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  • こういった犯罪系の分野にうとい自分にとって、専門分野としても勉強になったし、何より読みやすかった。ミクロな視点とマクロな視点、科学的なエビデンスや哲学的な考察など、色んな角度からの視点が書かれており、何度か読み返したいと思えた一冊。


    P231
    ■マクロな視点から見たサイコパス
    病気を克服し生命を守ろうとして医学が進歩したが、超高齢化社会や人口増加に歯止めがかからない。幸福を追求しようとして産業が発展したが、環境破壊や地球温暖化は悪化の一途である。自らの国を守ろうとして多くの兵器を開発したが、地球を破壊するほどの核兵器を保有するに至った。人類はまさに、地球と言う乗り物、知恵と言う毒針で何度も何度も続けるサソリのようである。サイコパスも、鋭い毒針で周囲の人々を刺し続けるサソリである。

    しかし、サソリの毒がサソリという種の繁栄のための武器であったのと同じように、また、人間の知恵が、人間という種の繁栄のためには必須の武器であったのと同じように、サイコパスの得もサイコパスの生き残り戦略のためには「適応的な」ものであったのだ。だからこそサソリもサイコパスも、滅びることなく存続し続けている。

    ■進化論的な意味から見るサイコパスの存在意義
    サイコパスのように利己的にしか生きれないものは、他のおとなしい者を出し抜いて生きていくことができる。それは進化論的な意味では、生き残り策としては効果的だったのだろう。そしてそれは、悪意を持ってそうしていると言うよりは、そうするようにできているというだけのことである。

    サイコパス特性の全てが「悪」で、人類に会をなすものとは言えない。強いリーダーシップや冷徹な判断力が、我々の生存や進化に役立つこともある。社会には果敢にリスクを取って前進したり、外敵と戦ったりするものも一定以上は必要なのだ。サイコパスがどの社会にも1% 程度はいるということは、それが進化にとって最も適切な割合であるとして神の見えざる手によって配分された結果なのかもしれない。

    ■現代においてどうしても気ををつけるべきこと
    P238
    進化論的な意味からはサイコパスの存在には人類にとってそれなりの意味があり1つの個性として共存するしかないことを述べたがしかしやはり、核兵器時代の現代においてはどうしても気をつけなければならないことがある。それはシリアルキラーによる犯罪でも身近な隣人のサイコパスによる迷惑でもなくサイコパスを指導者として選ばないと言うことだ。いかに表面的にカリスマ的魅力があり、響きの良い言葉を操り、強い言葉で感情揺さぶられようとも、その正体を見極める目を養わないといけない。
    乱世では革命家として国民から熱狂的な支援を得た指導者が、平和な夜になると独裁者に変貌遂げる事は、洋の東西を問わず珍しいことではない。ヒトラーを選んだドイツ国民はもうほとんどが死に絶えているかもしれないが、この民主的の時代でもサイコパスの弁舌に乗せられて彼らを指導者に選んでしまう国は歴然として存在している

  • 興味本位で取り上げられがちなサイコパスをしっかりとエビデンスに基づいて解説した良書。筆者の広範な知識となによりも実践に裏打ちされた解説は説得力がある。アプローチの方法も多様で飽きさせない。

  • サイコパス=犯罪者ではない。成功して社会に馴染むサイコパスもいる。サイコパスは身近にいる存在。心理学用語とサイコパスについて理解を深められる良い本でした。

  • 中野信子さんの『サイコパス』がベストセラーになったこともあり、日本で何度目かの「サイコパス本」ブームが起きている。が、ブームの中で粗製濫造されてきた類書の中には、「怖いもの見たさ」の興味本位で書かれたいいかげんなものもある。

     中野さんの『サイコパス』は、類書の中ではかなりよいものだったと思う。が、彼女は脳科学者だから「サイコパスの専門家」とは言えない。

     いっぽう、本書の著者は犯罪心理学が專門の筑波大学教授。元々は法務省で犯罪心理学の専門家としてキャリアをスタートさせた人である。法務省時代には、東京拘置所や東京少年鑑別所で、サイコパスとおぼしき犯罪者・非行少年と多数接してきたという。
     本書は、そのように知識も経験も申し分ない「サイコパスの専門家」が、一般向けに著したサイコパス入門だ。

     全体が最先端のサイコパス研究に基づいていて、信頼度が高い。専門用語をなるべく排して書かれており、わかりやすさも申し分ない。研究史・タイプ別分類・原因や治療可能性についての考察など、サイコパスに関する一通りの知識も手際よく網羅されている。現時点で一冊だけサイコパス入門を選ぶとしたら、ダントツで本書だろう。

     「サイコパス=シリアルキラーや冷酷な犯罪者」というイメージは、『羊たちの沈黙』や『黒い家』などのフィクションによって作られたものである。実際には、犯罪を犯さず、社会に適応しているサイコパスのほうが多い。……ということは一般にもかなり知られてきたが、本書は社会に適応した「マイルド・サイコパス」についても、かなりの紙数を割いて説明している。
     
     ただ、その中でスティーブ・ジョブズやドナルド・トランプを「成功したサイコパス」の例として挙げている(注意深く断定を避けてはいるが)のは、やや勇み足だと思った。

     過去のトラウマがサイコパスになる原因と考えるフロイト派の主張は、すでに否定されている。サイコパス研究の最先端では、脳の生まれつきの機能異常が原因と考えられているのだ。
     まだ確定してはいないものの、脳の扁桃体(感情や欲求を調節する部位)の機能不全が、「サイコパスに関連する病態の中心を成す」とされている(ブレアの説)という。

     サイコパスの治療については「きわめて難しい」との意見が多く、「治療は不可能」と断言する研究者もいる。
     そもそもサイコパスの当人が「治りたい」とは思っていないことが、その大きな要因だ。

     カナダの心理学者たちが、刑務所の強姦犯たちを対象に行なった治療プログラムでは、非サイコパスがプログラム参加によって再犯率が下がったのに対し、サイコパスの参加者はむしろ再犯率が上がってしまったという。
     他者への配慮、共感性、感情理解などについて学ぶそのプログラムを受けて、サイコパスは「学んだことを悪用し、次の犯罪に役立てた」からだ(!)。

     良心が欠如したサイコパスが、なぜ人口の1~数%も存在し、いまも淘汰されないまま世界中に存在するのか? かつて、米国の心理学者マーサ・スタウトは、サイコパスの入門書『良心をもたない人たち』の中で、次のように答えた。 

    「(戦場において)サイコパスは悩むことなく相手を殺すことができる。良心なき人びとは、感情をもたない優秀な戦士になれるのだ。(中略)サイコパスがつくりだされ、社会から除外されないのは、ひとつには、国家が冷血な殺人者を必要としているからかもしれない。そのような兵卒から征服者までが、人間の歴史をつくりつづけてきたのだ」

     本書の主張も、基本はマーサ・スタウトと同じ。著者は次のように述べる。

    「暴力が日常的であった時代、サイコパスは現代ほど目立つ特異な存在ではなかったにちがいない。むしろ、その勇敢さや冷酷さなどを武器に、優秀な指導者や英雄になっていた可能性も大きい。
     そう考えると、サイコパスという存在は、かつては時代の要請に沿った適応的な存在だったとも言える。しかも、人類の歴史においては、暴力が支配的だった時代のほうが圧倒的に長い。(中略)平和な時代は、まだたかだか数百年しか続いていない」

     いまのまま「暴力が忌避される時代」が続けば、サイコパスの割合もしだいに減っていくのかもしれない(いまは、日本にも100万人以上のサイコパスがいると考えられている)。
     サイコパスの概説を通じて、人類史にまで思いを馳せさせる、射程が広く読み応えのある入門書。

  • 学術書ではある

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/744683

  • 2022/10/29購入

  • サイコパスついて多面的な解説をするともに最後は哲学的な捉え方もしている良書と思う。
    広く一度は読まれるべき本だと思う。

  • 借りたもの。
    サイコパスを科学的なエビデンスを基に解説したもの。
    中野信子『サイコパス』( https://booklog.jp/item/1/4166610945 )よりも理論的で、エビデンスについて具体的に書いているように感じた。様々な精神疾患――反社会性、自己愛性、境界性パーソナリティ障害など――の診断基準を明記し、被るもの、異なるものがあることを指摘している。
    前述著『サイコパス』は俗的なイメージとしての“サイコパス”とそこからちょっと医学っぽい入口だけだったが、こちらの方が突っ込んでいるように思う。
    ・家庭環境や生育環境はほとんど起因しない。
    ・医学的な面(プログラム?)から見てもサイコパスの治療は不可能。
    など。『サイコパス』の内容を覆されたものもある……
    冒頭から、著者が遭遇した、犯罪を犯したサイコパスとのやり取りを読んで、惹きこまれていく……
    サイコパスの特徴は複数あるが、特筆すべきものであり‘一番の中核的要素は、良心や共感性の欠如である(p.43)’ことを主軸に話が進んでゆく。
    「サイコパスの定義」、全員が犯罪者になる訳ではない、はっきりと線引きできないものでもあるため「成功したサイコパス」や「マイルド・サイコパス」という概念まで。

    さらに興味深い…というか、突っ込んだというか、トランプ大統領を取り上げ、彼を「成功したサイコパス」とみなすのか、そもそもその判断は楽しいのかと疑問、苦言を呈し、そのようなレッテル貼りへの警鐘も併せて紹介。「深刻なソシオパス」らしいが……この本が出版されているとき(2018年)は、トランプ大統領が就任し1年。どんな方針を打ち出すのか、期待?と不安と共に多くの人が注目していた頃だった。
    後半は、サイコパスへの治療に関する様々な試みとその敗北についても紹介している。一見、効果があったように感じるものも、サイコパスに表面的な処世術を提供しただけで、学んだことを悪用するという。
    その理由を治療する側のエビデンス不足にあることも指摘している。
    その上でまだ希望があるという説も併せて紹介しているが、著者は懐疑的な模様。

  • サイコパスは良心や共感性が欠けている。その例として著者が出会ったサイコパスや日本で起こった事件、有名な人の例が取り上げられていて、とても興味深くおもしろかった。サイコパスについての研究や治療についても触れられていて、サイコパスとは一体どういうものなのかがわかりやすく説明されている。

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著者プロフィール

筑波大学人間系教授

「2023年 『現代の臨床心理学1 臨床心理学 専門職の基盤』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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