- Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480072177
作品紹介・あらすじ
梅田地下街の迷宮、ミナミの賑わい、2025年万博の舞台「夢洲」…街々を歩き、文学作品を読み、思考し、この大都市の物語を語る。
感想・レビュー・書評
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「大阪」という街に折り重ねられている様々な事柄に関して、色々な角度で論じているという内容であり、非常に引き込まれた。見過ごしてしまいそうな様々な事柄を捉えて、新旧様々な事柄を織り交ぜて綴っているのが非常に好い。大変に興味深く読了した一冊だ。
「大阪」の場所に関しては、かなり古い時代からの色々な経過は在るのだと思う。が、豊臣秀吉の時代に起こった街が江戸時代に引継がれ、江戸時代の状況下での展開が在って発展し、明治期に至り、明治期以降の様々な経過を経て最近に至っているということになるのだろう。
この「大阪」に関しては、一般に「キタ」と呼ばれる梅田の辺り、「ミナミ」と呼ばれる難波の辺りと繁華街が在る。こうした繁華街は、江戸時代迄の「街の端の側」であった辺りに鉄道が通って駅が設けられたことを契機に、行き交う人々が増えてサービス等が集積して起こったという一面が在るのだそうだ。
本書では、こういうような「キタ」や「ミナミ」の経過や、街中の様々な場所の経過を説いている。終盤の方では1990年頃の、何となく挫折した感の開発に纏わる話題が詳しい。この比較的新しい時代の話題が興味深かった。
「大阪」に関しては、とりあえず色々と言われている「万博」に向けて色々と様子も変わろうとしている。こういう時期であるからこそ、「色々と折り重ねられ続けた経過」を説くような、こうした本は一層興味深いと思う。
「大阪」に関しては、興味深そうな名所や博物館のような場所、人気の御店等を訪ねるというのも面白いと思うが、敢えてそうせずに漫然と街を歩き廻って、気が向けば適当に飲食を愉しむという程度の過ごし方をするのも愉しい場所であると観ている。そう感じられるのも、本書で説かれているように、様々なモノが過去から営々と積み上げられているからなのであろう。
手を打って大ウケした叙述が在る。新しいホテルが開業するということで、館内サービスの計画として「大阪の食文化を感じられるレストラン」、「大阪の歴史や文化に触れられる」というような文言が挙げられているのだそうだ。著者は「そんなことは街へ出て楽しめば済むことでは?」と言ってみたくなったとしていた。この観方には賛成したい。「大阪」は歩き廻ってみれば、独特な何かが方々で感じられる街で、長く受継がれたモノも新奇なモノも含めて飲食店のサービス等も豊かな地域であると思う。
そして本書は、「大阪」について、または主要な題材の一部として綴られた古い小説やエッセイを適宜引きながら綴っていて、それらが面白い。
何れにしても、少し愉しい一冊に出くわした。紐解けば「大阪…一寸、訪ねてみたい…」という気になる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
大阪の近代以降の歴史について書かれた本。
大阪駅の北と南では治安が大きく異なっていた。梅田(埋田)は北でインテリ的、心斎橋等は南。遊郭等の施設があったところは今もあまり治安が良くないという名残が残っている。
ユニバは、もともと重工業地帯であった土地にできたため地盤沈下にら不安が持たれる。
万博についても触れられており、大阪がいかに文化や歴史を無視した政策をとってきたかを考慮すると上手く行く気がしない。 -
本書を読んでいる最中に、ブラタモリで梅田ダンジョンが取り上げられていた奇遇。キタもミナミも繁華街の成り立ちには共通点があって、なるほどな。織田作之助あたりの文学作品の記述を随所に織り交ぜてあって、私なんかにはとっつき易い読み物だった。
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図書館でたまたま目にとまり読んでみた
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大阪市に立地する空間の地理学。著者が「約十年間に大阪の街々を歩きながら感じたこと、考えたことをもとにして、現代都市としての大阪を特徴づける<場所>と<空間>について、およそ明治期以降の歴史性をふまえて叙述する」本。書の前半は主としてキタ、後半は主としてミナミを語るが、著者の思い入れはミナミにあるせいか、後半のほうが面白かった。とくに、第5章「ミナミの深層空間ーー見えない系をたどる」は、50頁もの分量を割きながら、阿倍野と千日前、飛田新地と釜ヶ崎、黒門市場を結ぶ三角帯の歴史地理学的意義を大いに語る秀逸な章だといえる。「東京もん」からすると、なじみの薄い大阪の地名が時折見られる。たとえば、でんでんタウンやジャンジャン横丁。ワールドトレードセンター(WTC)ビルなどはニューヨークか、せめて浜松町どまりで、なぜ大阪に存在するのか、不思議でならなかった。「場所は「個」としてではなく、近接・遠隔を問わず他所との関係性のなかで存立していることも忘れてはなるまい」(228頁)という一文に、都市空間の特異性に対する著者の思いが詰まっていると言えよう。
ただひとつ残念なのは、「結果」という「接続詞」を多発しているところ(たとえば138頁の文頭)。読みやすさを考慮してのものだろうが、「その結果」と正しく書くべきだろう。せっかくの説得力が、この似非接続詞のおかげで浮いてしまっている。 -
著者:加藤 政洋[かとう まさひろ] (1972-)文化・社会地理学。都市研究、沖縄研究。
【書誌情報】
シリーズ:ちくま新書
定価:本体820円+税
Cコード:0225
整理番号:1401
刊行日: 2019/04/04
判型:新書判
ページ数:256
ISBN:978-4-480-07217-7
JANコード:9784480072177
キタとミナミの違いとは何か? 梅田の巨大地下街はどのように形成されたのか? 2025年万博予定地「夢洲」の暗い過去とは? 梅田、船場、アメリカ村、飛田新地、釜ケ崎、新世界、法善寺横丁、ユニバ、夢洲……気鋭の地理学者が街々を歩き、織田作之助らの著作を読み、この大都市の忘れられた物語を掘り起こす。大阪とはどんな街なのか? これを読めば、見える景色はがらりと変わる。
〈https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480072177/〉
【目次】
目次 [003-007]
地図1 [008]
序章 路地と横丁の都市空間 009
1 下水処理場の居住空間 009
ポンプ室の上に
生活空間としての路地
再現された〈路地〉
2 空間表象としての〈横丁〉 018
法善寺裏の食傷通路
空間パッケージとしての〈横丁〉
名は実を超えて
本書の構成
第1章 大阪《南/北》考 031
1 梅田の都市景観 033
駅頭の風景
グローカル梅田
東京の匂い
2 駅と遊郭 039
二枚の写真
縁辺の遊興空間
駅前の遊郭
3 駅前ダイヤモンド 044
カタチか地価か
地霊の不在
さながら遊郭の如し
変転する駅前空間
土地利用の高度化
4 相克する《南/北》 053
《南》――方角から場所へ
岸本水府の《南》
二つの〈顔〉
インテリの《北》
宮本又次の《北》礼讃
競演から協演へ
5 明日を夢見る《北》、懐古する《南》 064
場所の履歴――場所・水辺・火災・駅
鍋井克之の予感
明日の夢、昔の夢
第2章 ラビリンスの地下街 071
1 梅田の異空間 073
裏町を歩く
地下街の原風景
ふたつの横丁
2 排除の空間 081
はじまりの地下道
変転する地下空間
繰り返される排除
3 もうひとつの都市 085
地下街の拡散
地下街ラビリンス
第3章 商都のトポロジー 093
1 起ち上がる大阪 095
焦土と化した街
織田作の戦災余話
場所への愛着
船場トポフィリア
復興の風景と場所感覚
2 同業者街の変動 104
新旧の商工地図
谷町筋の「既製服」と「機械」
船場の問屋街
丼池の繊維問屋街
玩具・人形・菓子の問屋街
道具商の街
掘割と問屋街
脱水都化の象徴
3 新しい消費空間の登場 120
拡散する《ミナミ》
《アメリカ村》の発見
自然発生のまち?
第4章 葦の地方へ 131
1 重工業地帯のテーマパーク 132
此花ユニバ
沈む地面
小野十三郎の大阪
2 新開地の風景 142
石川栄耀の〈場末論〉
此花区の新開地
3 梁石日の錯覚 148
葦しげる湿地の開発
《今里新地》の現在
第5章 ミナミの深層空間――見えない系をたどる 155
1 石に刻まれた歴史 157
京都東山の豊国廟
阿倍野墓地と千日前
2 《飛田新地》から新世界へ 161
飛田遊郭の誕生
郭の景観
青線と芸人のまち
「糸ある女」の飲み屋横丁
3 花街としての新世界 173
歓楽の混在郷
新世界は花街だった
4 釜ケ崎と黒門市場 180
第五回内国博のインパクト
スラムとしての日本橋筋
地図にないまち
原風景――鳶田の木賃宿街
釜ケ崎の成立をめぐる語り
釜ケ崎銀座の沖縄
黒門市場の成立
5 《ミナミ》――相関する諸場の小宇宙 197
千日前へ
空間的排除としての郊外化
第6章 大阪1990――未来都市の30年 205
1 大阪湾の新都心 207
二〇二五年万博、夢の舞台
テクノポート大阪
2 ダイナミック大阪と「負の遺産」 213
ファッショナブルな都市空間
大阪1990の出発点
土地信託と「負の遺産」
3 都市の空間構造と〈場所〉 222
グローバル化時代の都市
場所からの発想
大阪2025の都市像
終章 界隈の解体 231
〈界隈〉のひろがり
再開発による分断
モール化する阿倍野
小野十三郎の足どり
界隈の行く末
あとがき (二〇一九年二月 加藤政洋) [245-247]
主な引用・参考文献 [248-253] -
人文地理学者が大阪を語るとこんなにもおもしろい。
キタとミナミ、地下街、路地と横丁、大大阪、テクノポート大阪、遊郭とスラム、そして万博。いまの大阪がなぜこのようになっているのか歴史がわかる。
また、実に多くの文学作品から引用が見られ楽しい。織田作や林芙美子にとどまらず、最近の映画や小説の言葉も大阪を語る重要な証言だ。
この本を読んでもっと大阪を歩きたいと思った。 -
読ませるっちゃ読ませるけど、概ね目新しい話はなかったかな。むしろ住んでる人間よりは外から見たい人向きの一冊かも。南港だのフェスゲだのの失敗の後にカジノだの地下鉄駅を近未来風にするだの何なのバカなの?って視点は首が振り切れるほど同意。
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大阪市内の街の生成について、フィールドワークと様々な文献を基に分析。
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大阪の様々な顔について成り立ちや文芸での取り上げられ方など。濃厚な主観というところもないではないが、純粋に興味深い。