- Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480074164
作品紹介・あらすじ
大衆の登場が始まり、激動の昭和の原点ともいえる大正時代。その複雑な歴史を二七の論点で第一線の研究者が最新の研究成果を結集して読み解く。決定版大正全史。
感想・レビュー・書評
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大正史となると、およそ100年前の時代、だいぶ現代史に近づいてきた感がする。
"はじめに"として、編者筒井氏の総論が述べられる。「大正時代というのは一言で言えば、大衆の登場が始まった時代である」そしてそれを象徴するのが、日比谷焼打ち事件であった。
第一次護憲運動、大隈ブーム、対中国強硬政策要求運動、米騒動、普選運動、排日移民抗議運動、第二次護憲運動、護憲三派内閣、普選法成立、二大政党政治、28年普選実施と事態は進んでいく、それらの駆動力となったのが、大衆であった、と言う。
全26講、それぞれに新しい知見を得ることができて勉強になったが、特に関心を持ったのは次のとおり。
第1講 大正政変〜桂園体制が壊れた原因、背景
第2講 大隈内閣成立と大隈ブーム〜政界を引退していた大隈が首相に推薦された理由
第7講 原敬政党内閣から普選運動へ〜 政党だから即普選実施ではなかった理由
第9講 人種差別撤廃提案〜日本政府が本提案に拘った事情
第18講 宮中某十大事件と皇太子訪欧〜君主制における「位」と、個人の「身」の関係
第19講 関東大震災後の政治と後藤新平〜新党問題に後藤新平が関与していたことを、これまで知らなかった
第21講 「軍縮期」の社会と軍隊〜山梨軍縮、宇垣軍縮の挫折が、「昭和の陸軍」を産み出してしまった
第24講 中国国権回収運動
第25講 破綻する幣原外交
〜激化する中国ナショナリズムにどう対処するか、内政不干渉主義を取った幣原外交に対して、英・米・日の足並みが揃わなかったことが、その後に影響したこと。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
大正時代というのは、改めて振り返ると、とても重要、且つ学ぶべき時代だと思う。
明治から始まる近代化は、大正時代において、特に政治の観点で成果が見えつつあり、文化の面でも花開くところがあった。
そんな中で、どのように昭和を迎え、何が軍国主義に追い立てたのか?
決して、徐々に軍国主義が広がったわけではなく、大正時代は、ある意味、国民の政治に参加する意識は高く、議会制民主主義の裾野が広がった時期でもある。
軍国主義が、その反動だった、という一言で片づけられる訳もなく、よくその時代を追っていく必要がある。
軍国主義へ導いたことを現象面で上げるとすれば、相次ぐ政治家へのテロがある。
それも、政治に対する不満にを受けて、それを肯定するような国民感情があったし、それを支えたメディアの力も無視できない。
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・大正政変で政治家・桂太郎は傷付き、退陣から8カ月後に亡くなった。しかし、桂が残した新党、立憲同志会は加藤高明を総裁として1913年12月に結成される。その時点の所属代議士は政友会に遠く及ばなかったが、桂系の有力な官僚出身者を多く抱え、また三菱資本がバックについたこともあって潜在的な成長力は侮りがたく、のち憲政会・立憲民政党と名称を改めつつ、政友会に対応し得る存在となっていく。
・20世紀初頭の国際政治の変化。
アメリカがイギリスに替わる覇権国として台頭しはじめ、極東政治のアクターとしても重要な役割を演じ始めた。
・二十一カ条要求は中国ナショナリズムを大いに刺激した。
・1919年には、日本の船舶保有量は急増し、1920年にはイギリス、アメリカに次ぐ世界第三位の船舶保有国となった。
それまでヨーロッパ諸国から輸入に頼ることの多かった機械工業や化学工業では、輸入が困難になったことから国産化が進んだ。
・原内閣の政策内容を簡単に要約すれば、全国各地各層の、そして多様な産業分野に従事する国民が、あまねく文明の恩恵に浴して生活を向上させることをめざしたものであった。第一次世界大戦直後という豊かな財政状況に支えられ、原内閣はそれまでのどの内閣よりも大きな成果を上げることに成功した。
・牧野の内大臣への栄転は、その後の天皇統治の安定性を考える上で、きわめて大きな意味を持つことになった。原や西園寺と異なり、牧野は天皇機関説的政治運用の枠を超える可能性をもつ天皇シンボルの積極的な活用、つまり天皇の政治的役割をより能動的に指向することになったからである。
・昭和天皇は後年、大東亜戦争の重大な開戦原因の一つとして米国における日本人移民への差別を挙げている。 -
新旧様々な学問的成果も交えて色々な知識を一般向けに判り易く伝えるということが「新書」というようなモノの本旨であるように勝手に思っているのだが、本書は正しくそういう類の良書で、広く薦めたい。
「明治」、「大正」、「昭和」、「平成」というように時代を区切る理解が在る。
そういう中で「大正」は「明治」や「昭和」に比して期間が短く、幕藩体制を止めて新たな体制を創って行った「明治」や、大きな戦争とその後の歩みの「昭和」という巨大な存在感の陰になってしまっているという一面が在ることを否めない。
しかし「幕藩体制を止めて新たな体制を創って行った」後に「如何なった?」というような事、「大きな戦争に突き進んで行く」というようになる「前段?」というようなことは、「大正」を見詰めなければ知り得ない。そして考える材料も得られないかもしれない。
本書は歴史の様々な事案を研究している人達が手を携えた一冊である。自身が学生であったような―酷く昔だが…―頃にも一部で見受けられたような気がするが、「〇〇学」というような大枠が掲げられ「第1回はA先生…第2回はB先生…第3回はC先生…」という程度に「〇〇学」というような大枠を構成する諸事案を複数の教員で講じるという授業が在ったと思う。本書はそういうような方式を採った一冊に纏まっている。
「大正」と呼ばれる時期には、政治、外交、軍事、経済というような各分野で色々な出来事が展開していて、それらは社会の変化を踏まえたものでも在って、論じられるべき内容は多岐に亘る。そこで26の「講」(本の章)を設定し、22人で執筆して纏めているのが本書だ。
「大正」と呼ばれる時期のあらましを知るには、本書は非常に好いと思う。人気が高かった政治家達やその退場、第1次大戦やシベリア出兵、米騒動のような事柄、関東大震災関連、国際的な軍縮会議等々の色々な話題が在る。
取上げられている様々な話題に関して、過去に各々の事案を主要主題として論じた本を読んだ経過が在るモノも交ってはいたが、それでも「“大正”を概観しよう」という趣旨で、他の事案と分量的に大きな差が無い程度で纏めてみたモノに触れるのは興味深かった。
多分この「〇〇講義」というような方式で色々なことが論じられている例は多く在るのであろうから、何処かで耳目に触れれば紐解いてみたい感だ。 -
大正史に関連するテーマ全26講を500ページ越えのボリュームで読み解く。
全く初心者の入門ではなく「講義」と銘打っているだけあって、一講ごとのページ数の中にギュッと詰め込まれた情報量の多さと、かならず末尾に執筆者がお勧めする「さらに詳しく知るための参考文献」が入っているのが有り難い。紹介した著作について、それぞれ一言ずつどんな位置づけの書籍なのかのコメントまでついていて、この本を読んでより深く学びたいテーマに出会ったときに、次に読み進めるべき読書ガイドとしての使い勝手も良い構成になっています。 -
<目次>
第1章 大正政変~第一次護憲運動
第2章 大隈内閣成立と大隈ブーム
第3章 第一次南京事件から対中強硬政策要求運動へ
第4章 第一次世界大戦と対華二十一カ条要求
第5章 大戦ブームと『貧乏物語』
第6章 寺内内閣と米騒動
第7章 原敬内閣から普選運動へ
第8章 パリ講和会議、ヴェルサイユ条約、国際連盟
第9章 人種差別撤廃提案
第10章 三・一独立運動と朝鮮統治
第11章 シベリア出兵からソ連との国交樹立へ
第12章 日露戦争後から日米関係と石井・ランシング協定
第13章 ワシントン会議~海軍軍縮条約と日英同盟廃棄
第14章 新人会~エリート型社会運動の開始
第15章 社会運動の諸相
第16章 女性解放運動~『青鞜』から婦選獲得同盟へ
第17章 国家改造運動
第18章 宮中某重大事件と皇太子訪欧
第19章 関東大震災後の政治と後藤新平
第20章 排日移民法抗議運動
第21章 「軍縮期」の社会と軍隊
第22章 第二次護憲運動と加藤高明内閣
第23章 若槻礼次郎内閣と「劇場型政治」の開始
第24章 中国国権回復運動
第25章 破綻する幣原外交~第二次南京事件前後
第26章 大正天皇論
<内容>
最近研究の進む「大正時代」。結構の厚さとなった。細かい事実の確認や分析は授業でも役立ちそうだ。 -
東2法経図・6F開架:B1/7/1589/K
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冒頭で編者は、大正を「大衆の登場が始まった時代」と端的に述べる。本書を通じ、やはり内政ではその文脈での指摘が多い。政党や民衆の存在感増大、社会運動(エリート型新人会も労働者の運動も)、女性解放運動。朴烈怪写真事件と劇場型政治。従来はファシズムの萌芽とみなされていた国家改造運動もこの潮流との関連で見る。
政軍関係では政府が指導力を発揮していたが、それだけにシベリア撤兵をなかなか決断できなかった政治の責任。また、世論や政党政治に親和的で、近代装備で武装した総力戦対応型の「大正デモクラシー」型の軍隊像の逆説と、熱狂する大衆に支持された満州事変とその後。
ほか、宮中某重大事件は万世一系を重んじる純血論と社会的道徳的秩序の維持という人倫論の対立だったという指摘は、現在の皇位継承の議論にも通じるものを感じた。
その他、ワシントン会議は東アジアの新秩序を準備したという論から、大国間の勢力圏外交という継続性を主張する論に主流が移っていること。関東大震災後の後藤新平は、冒険的で強引な手法、壮大なアイデアはあれど持続力や安定感は欠如、と評し、神話を否定する。 -
210.69||Ts