人口減少時代の農業と食 (ちくま新書 1729)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480075543

作品紹介・あらすじ

人口減少で日本の農業はどうなるか。農家はもちろん出荷や流通、販売や商品開発など危機と課題、また新たな潮流やアイデアを現場取材、農業のいまを報告する。

感想・レビュー・書評

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  • 日本の農業をめぐる現状と課題について、幅広い観点から取り上げており、その全体像を掴むのに役立った。

    農業の問題は、農家(だけ)の問題でもないし、コメ(だけ)の問題でもない。農業によって作られる食糧が私たちの食卓に届くまでの幅広い産業の仕組み自体が、人口減少や食生活の変化、グローバルな競争環境の変化を受けて、見直しを迫られているということを強く感じさせられた。


    本書では、食料品のサプライチェーンを支える物流や選果等を行う農業関連施設の整備や経営の状況、農業の担い手である農家の大規模化や働き方改革の状況、そして農産物のマーケティングや海外輸出に向けた取り組みを、各章で取り上げている。

    物流や農業関連施設のサプライチェーンについては、2024年問題や施設の老朽化等、その脆弱性や限界が顕在化している。機械と人の役割分担の見直しや、予冷、共同化といった合理化の取組みが欠かせないが、これらに事業として取り組む地域の担い手企業がいるところとそうではないところで、今後非常に大きな差が生じるてくるように感じた。

    同様のことは、大規模化の取組みにも当てはまる。認識を新たにさせられたのは、日本でも集落営農という形で担い手のいない農地について集落で営農する仕組み自体は以前からあったということだ。

    しかし、小規模な耕作地が分散していたり、収益性の高い品種への転換が進まないまま、地域全体で担い手が減少し、集落営農でも支えきれない地域が増えてきている。集団で営農するものの、経営の方針は以前のままということで、大規模化のメリットが生まれていないという状況であると考えられる。

    本書では、収量の上がる作物への転換など明確な経営方針を持った大規模化を進めている事例や、農業アプリの開発を通じて効率化や働き手の確保を進めている事例が紹介されていた。

    最後に取り上げられていた農産品のマーケティングと輸出戦略については、政府やJAなどの状況と先進的な地域の取り組みの乖離の大きさが印象に残った。

    農産品の販売動向を見ると、加工食品や加工用の野菜などの販売は堅調に成長している。その中でも、高齢化や健康志向など、より具体的な消費者のニーズに合わせて、一定の規模で作物を生産できるか否かが、勝敗を分ける大きなポイントになっていると感じた。

    一方で、政府の取り組みは、農産品のブランド化を進めようとしながら、種苗の流出に対する対策は後手に回るなど、ちぐはぐなところが目立つ。「日本の農産品はおいしい」という、誤りではないがそれだけで自然と売上げが伸びるわけではない認識にとどまっており、農家の収入向上や輸出拡大にはつながっていない。

    商品のマーケティングは、政府より民間企業に委ねた方が実効性のある取り組みになると思うが、政府としても品種や生産方法に関する知財の保護や、品種転換に伴う一時的な収益悪化や設備投資に対する支援といった、前向きな取り組みを下支えする政策を、より強化していく必要があるのではないかと感じた。


    各テーマとも、農業関連の統計で実態を押さえつつ、具体的な取り組みを行っている企業等に取材することで、課題の指摘だけではなく新しい取り組みの方向性をイメージさせてくれるような構成になっている。

    農業自体は、これからの日本にもなくてはならない産業であるし、取り組み方によっては大きなポテンシャルのある領域であるということを感じさせられた。

  • 農業のさまざまな問題について書かれてました。
    輸送、輸入品、国産米などについて。

    農業の労働生産性の低さについて
    農家は労働生産性について考えていない
    むしろ逆行してものづくりへの情熱や自負が支配している
    農家の高齢化や人手不足の根本的な原因はここにあるのではないか

    まさにその通りだとおもいました。

  • もはや農業の効率化は待ったなしとの状況が理解できた。とは言ってもそれほど悲観的に捉える必要はなく、人が減って今までのやり方が合わなくなってきたら自然に進んでいくだろうと思う。
    今ひとつスッキリしないのは、人口減少や高齢化に伴って胃袋ほ確実に小さくなる事を故意に無視していることである。生産年齢人口が減りだして人口がピークに達した現状が最も危機的な状況であるはずで、今後上手く需給バランスが取れていくのではないか。また物流危機をやたらと煽るが、何も関東であまおうを食べなくても良い。地産地消という好ましい方向に必然的に進むだろう。

  • 【配架場所、貸出状況はこちらから確認できます】
    https://libipu.iwate-pu.ac.jp/opac/volume/564793

  • 京都府立大学附属図書館OPAC↓
    https://opacs.pref.kyoto.lg.jp/opac/volume/1267337?locate=ja&target=l

  • 元々日本の食糧自給率はどれくらいなのかという疑問から、何か関連した本はないか探して読みはじめた本。農業に従事する人の高齢化やそれに伴う後継者不足、働く環境や労働力不足、生産から消費者に届くまでのシステムや、日本人の食の変化、諸外国との価格競争など、簡単に解決できない複合的要因のひとつひとつについて問題点と、実際の現場で対応している例が書かれている。ITが発達した便利な世の中で、それを享受していると生産現場の大変さに想像が及ばなくなりがちだ。ITを活用しマネーゲームのようにしてお金を得る世界と、いくらITを活用しようとも人間が汗水流して働かないといけない世界。どちらが良い悪いもない。だが今、口にしている物がどのような背景で食することが出来ているのかを知っておくべきだし、悲観的に言えばいつでも自分の好きな物が食べられる時代から、限られた物しか食べられなくなる時代が来るかもしれない。

  • 農業というビジネスに人が集まらないのは、労働がきつく給料が安い環境に理由があって、農業それ自体の将来が暗いわけでは到底無い。むしろ何らかの形で人の口に入るものを生産するのだから、この先も需要が無くなることはあり得ず、問題はやり方にあると考えなければならない。ロジスティクスにも寄与する冷凍技術、ロボット(自動化)による省力化、AIによるデータ管理等、解決策に困らない時代はすでに来ており、それらに投資し業務効率を高め、儲かる業界に転化すれば、人も金も集まるし、自ずと高齢化による離農も解消に向かう。補助金という魚を与えるのでなく、釣りの仕方を教える事が、日本の食糧自給率を高め、産業を育てる事にもなる。それは理想論としても、色々勿体ない現状がある事と、その打開策を模索する事例が興味深い一冊だった。

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著者プロフィール

窪田 新之助(くぼた・しんのすけ):農業ジャーナリスト。日本農業新聞記者を経て、フリー。著書に『農協の闇』(講談社現代新書)、『データ農業が日本を救う』(インターナショナル新書)など。

「2023年 『人口減少時代の農業と食』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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