二・二六事件とその時代: 昭和期日本の構造 (ちくま学芸文庫 ツ 8-1)
- 筑摩書房 (2006年10月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (418ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480090171
感想・レビュー・書評
-
丸山眞男の日本ファシズム論を批判した第一章の初出は1976年、著者がまだ大学院生の頃で、実証史学の視点から丸山政治学の死角を鋭く抉った画期的論考だった。丸山は近代的政治主体の形成という理想のネガとして日本社会を描いてみせ、その後進性を否定することで戦後日本の変革を導こうとした。だがそこに描き出された日本社会は実証に耐えない虚像であった。
東京裁判とニュルンベルグ裁判について、丸山の恣意的な資料操作が批判され、また観念的な青年将校の無計画な暴発とされる二・二六事件が、極めて具体的な国家改造プラン(北一輝)と政権奪取プログラムに基づく「革命」の企てであったことが示される。伝統的秩序原理を軸とする天皇制のもとでは、下からの変革のエネルギーは支配秩序に吸収され、利用されると丸山は考えたが、橋川文三がつとに指摘したように、明治国家の支配原理を峻拒する青年層の自我の形成を見ていない。
本書を読むまで、丸山の日本ファシズム論は一面的であるにせよ、それなりの説得力があると思っていたが、大きな間違いだった。かつて明治維新が市民革命であったかどうかという論争があったが、上山春平(『明治維新の分析視点』)が見事にその革命性を証明したように、筒井は日本の「超国家主義」が、成就はしなかったものの、革命と呼ぶに値する内実を伴っていたことを明らかにした。
学問が単なる事実の認識にとどまらず、現実社会の問題関心によって導かれるのはよい。むしろそうあるべきで、我々はそのことを丸山から教えられた。だがそれにはとてつもなく迂遠で地道な作業が要求される。それを余りに軽視したことは丸山政治学の陥穽であり誤算であった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
新書文庫
-
2・26事件前後の陸軍の情勢について書かれた論文集。
陸軍の派閥の形成から、離合集散、抗争を繰り広げて、永田鉄山の後継の東條英機・武藤章ら統制派が陸軍を取る過程。そして、武藤がとってから太平洋戦争まで。
2・26事件における青年将校を二分類し、天皇主義の青年将校をいかに抑えて、改造主義の青年将校がクーデターを成功をさせようとしたのか。クーデターの成功可能性、上部工作を検討する。
概論として本当に最適。各事件については詳述された著作を参照されるべき。最近、文庫化されたものもあるので読み易く、購入しやすくなっている。 -
主に昭和陸軍軍閥の形成及び二・二六事件に詳しい論文集。
一番印象に残ったのは日中戦争〜の派閥の変化。下克上の主が下克上される、という表現はまさに。
石原派対武藤派の項では、喧嘩両成敗という日本的思考の欠点を感じた(本当は議論そのものより、議論の内容のほうが重要なはずなのですが)。
二・二六事件に関して言えば、青年将校を「天皇主義」派と「改造主義」派に分けているのはなかなかわかりやすく、226関係の論の中では一番納得できた。 -
松本清張の昭和史発掘を読まれた方にぜひ。
そうだったのか〜、と目からウロコが落ちる情報があります。2・26事件の研究はここまですすんだのね。