緑の資本論 (ちくま学芸文庫 ナ 17-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480092199

感想・レビュー・書評

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  • 9.11のテロ事件の直後にひらめいた直観にみちびかれて書かれた論考をまとめた本です。

    「圧倒的な非対称」は、神話や宮沢賢治の作品を参照しながら、テロリズムについて考察をおこなっています。「シュトックハウゼン事件」は、「テロは最大のアート」という発言でバッシングを受けた作曲家のシュトックハウゼンについて、やはりオウム真理教を擁護したという非難を浴びた著者自身の弁明ともいうべき性格をもった文章です。いずれも、いささか以上に危うい論理の糸を取り結びながら文章がつづられているという印象はありますが、刺激的な論考であることはまちがいないように思います。

    「緑の資本論」は、一神教と資本主義の関係について考察をおこなうとともに、「タウヒード」にもとづくイスラム経済の可能性の展望が示されています。わが国では、トマスの神学を経済学の観点から論じた五百旗頭眞治郎の業績などが知られており、他方でマルクス経済におけるユダヤ的思考の影響についての研究もすくなくありませんが、いずれも専門家による研究にとどまっており、現代のイスラム経済を含めて広い視座のもとで考察するような試みはなされていないのではないかと思います。本書の議論は、著者らしい若干前のめりの議論が目につきますが、個人的には本書がこのような議論が活発におこなわれるきっかけになってほしいと願っています。

  • 資本主義世界とイスラム世界を比較した3編+1。自分のいる世界と 逆の世界を 両義的に 捉えようとしている

    「圧倒的な非対称」
    非対称の中から野蛮が生まれる。非対称=格差。テロの原因を 国家間の非対称とした

    「緑の資本論」
    イスラム経済を 一神教(タウヒード:ただ一つとする)から説明。資本主義とは異なる貨幣概念、利子概念を用い、資本主義を 聖霊(贈与)による価値概念で まとめ イスラム経済と比較

    貨幣=交換→利子を生まない→貨幣の自己増殖を否定
    貨幣は商品に形を変えない
    「欲望を断つことが 神を喜ばせる」
    「最も重要なのは 商人に対する信用」

    同じ一神教のキリスト教が 資本主義と親和的な理由を 三位一体説により説明

    社会主義や共産主義とは異なる イスラム経済は 宮本常一の描く過去の日本を想起させる


    「モノとの同盟」
    他の3編と異なり、モノとは何か を整理。哲学的。

  • 狂牛病とテロの関連性。家畜を処分したりテロリストを抹殺しても同じ事が繰り返される。非対称性世界の問題。人間と動物の間の非対称性(無理解の溝)は動物への尊厳を持たなくなった現代人類の特徴。動物と人間が結婚するという古典のストーリーは圧倒的な優位性により無神経になった人間の心に対称性を取り戻させる仕掛け。

  • 2009/07/30 購入
    2009/08/04 読了 ★★★★
    2017/02/02 読了

著者プロフィール

1950年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。京都大学特任教授、秋田公立美術大学客員教授。人類学者。著書に『増補改訂 アースダイバー』(桑原武夫賞)、『カイエ・ソバージュ』(小林秀雄賞)、『チベットのモーツァルト』(サントリー学芸賞)、『森のバロック』(読売文学賞)、『哲学の東北』(斎藤緑雨賞)など多数。

「2023年 『岡潔の教育論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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