『ノストローモ』は他の人による優れた書評がネットにあるので詳細は省く。独裁とクーデタが頻発する南米の架空の国コスタナグアに属するものの、地形的に孤立したスラコが舞台。ここには銀鉱があり、イギリス人のチャールズ・グールドが経営している。中央で起こったモンテロ将軍の反乱に立ち向かったスラコだったが、逆に打ち破られてしまう。奪われないために銀を小船に積み込んで逃げる役は、皆から一目置かれるイタリア人沖仲仕頭のノストローモに。首尾よく銀を敵方には渡さなかったものの、アクシデントから沖合の島に銀を隠す羽目になる...。妻に目もくれず働き続けたチャールズも、結果として銀を私物化したノストローモも、ともに銀のもたらす富の魔力に人が変わったようになったのが痛々しい。どす黒い欲が渦巻く一地方の歴史を交響楽的に描いた、スケールの大きさで群を抜く、疑いようもない著者の代表作。ガリバルディ派の残党ヴィオラなど、いかにもリアルでうならされた。登場人物が多く、視点が転々とし、時間さえ前後する、20世紀文学の幕開けにふさわしい難物ではあるが。
『ナーシサス号の黒人』は仮病を使って怠業する黒人ジミーと、それを利用して不平分子をかき集め、船長に反乱を企てる煽動家ドンキン。これらクズどもに対して毅然とした姿勢の船長アリストーンの格好良さが見どころ。巧さを感じさせる中編。