ちくま日本文学007 江戸川乱歩 (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480425072

感想・レビュー・書評

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  • 随筆もけっこう面白い。
    乱歩世界では不思議なことを体験した人はドロドロした天候が多い。

  • 未読だった中では「白昼夢」「火星の運河」「押絵と旅する男」「映画の恐怖」「幻影の城主」が良かった。

    以下引用。

     私は活動写真を見ていると恐ろしくなります。あれは阿片喫煙者の夢です。一吋(インチ)のフィルムから、劇場一杯の巨人が生れ出して、それが、泣き、笑い、怒り、そして恋をします。スイフトの描いた巨人国の幻が、まざまざと私達の眼前に展開するのです。
     スクリーンに充満した、私のそれに比べては、千倍もある大きな顔が、私の方を見てニヤリと笑います。あれがもし、自分自身の顔であったなら! 映画俳優というものは、よくも発狂しないでいられたものです。(「映画の恐怖」p.376)

     映写中に、機械の故障で、突然フィルムの回転が止まることがあります。今までスクリーンの上に生きていた巨人達が、ハッと化石します。瞬間に死滅します。生きた人間が突如人間に変ってしまうのです。私は活動写真を見物していて、それに逢うと、いきなり席から立って逃げ出したいようなショックを感じます。生物が突然死物に変るというのは、かなり恐ろしいことです。(「映画の恐怖」p.377~378)

     お伽話の原稿を書いて、文撰工のように活字を拾って、植字工のようにそれを並べて、ローラーでインキを塗って、ザラ紙の半紙を当ててグッと手圧し器械をおしつけた時の、あの不思議な喜びを忘れることができない。私はついに、精彩の国への船を所有したのであった。その美しい船の船長になったのであった。
     社交術でも腕力でもあまりの弱者であった少年は、現実の、地上の城主になることを諦め、幻影の国に一城を築いて、そこの城主になってみたいと考えた。町内のどんな腕白小僧にも、幻影の城を攻め亡ぼすすべはなかった。イヤ、かれにはその城への雲の懸け橋を登ることさえ全く思い及ばないのであった。(「幻影の城主」p.388~389)

     この少年が大きくなって、世渡りというものを覚えて(なんとまあ人臭くなってしまったことだろう。彼は夢の国へ帰ると腹立たしさに拳を握るのである)勤め奉公をした。個人の貿易商の番頭になったり、大きな会社のクラークになったりした。勤めはむずかしくなかった。ただ地上の城の一陣笠として、現実を楽しむがごとく装わなければならないのが、極度に苦しかった。現実に執着しなくては(少なくともそう見せかけなくては)営利会社の奉公人は勤まらないからである。
     彼は朝から晩まで現実界に住まなければならなかった。夜の夢だけでは、彼の貪欲が許さなかった。もっと現実界を離れる時間がほしいと思った。(中略)孤独と幻想への烈しい空腹が彼を無性にイライラさせた。
     ある会社の独身社員合宿所では、彼はあてがわれた六畳の部屋を空っぽにして、その部屋の一間の押入れの棚の上にとじこった。(中略)
     彼は押入れの真暗な棚の上に蒲団を敷いて、そこに横たわって、終日声をひそめていた。ちょうど独逸語の稽古をしていた時で、押入れの壁に「アインザムカイト」(引用者注:孤独の意)などと落書きをしたのをハッキリ覚えている。孤独を悲しむ心もあったに違いない。しかし、彼は同時にその孤独を享楽していたのであった。暗い押入れの中でだけ、彼は夢の国に君臨して、幻影の城主であることができた。(「幻影の城主」p.390~391)

     多くの小説家は人類のために闘う戦士であるかも知れない。また別の多くの小説家は読む人をただ楽しませ面白がらせ、そしてお金儲けをする芸人であるかも知れない。しかし私にはそういう現実に即した功利的な考え方は、つけ焼刃の理窟みたいに思われて仕方がない。あらゆる小説家は、多かれ少なかれ、彼が現実の(地上の)城主に適しないで、幻影の城主に適するからこそ、その道をたどったのではないのかしら。そして、そのことがどんな功利よりも重大なのではないのかしら。(「幻影の城主」p.390~391)

  • この間友人が江戸川乱歩のことを「二次元カルチャーを先取りし過ぎた」と評していたのだけど、確かに言い得て妙。そして、そんな作品が20世紀前半に大衆文化として定着してきた事実は現代の総オタク社会を予見していたのかと考えて暫し小考、頭を抱えたくなる気分に。
    さておき。作者のエゴというものを全く感じさせない、純粋なまでに読み手を楽しませる為に描かれた作品群も良いのだが、個人的に興味を引かれたのはむしろ乱歩が自分自身について語ったエッセイの方。曰く、幼少期から口数も少なくロビンソンの様な孤独に憧れ、現実社会の事件には嘔吐しか感じられずただ自分の世界にしか興味のない幻影の城主の様なものだとか。…つまり、ヒッキー?
    何にせよ、薄情にされたり無愛想にされたりすることに人一倍敏感なくせに、気にしてない様な無表情を貫きつつも内心激しい現実嫌悪を感じている屈折した少年時代を過ごしていたって、こんな風に時代を超えて多くの人を楽しませる事だってできる。自分の世界にしか興味がなくったって、それを突き詰めれば文化になる。人生って、どんな風に転ぶかわかんないものだしね。

  • 最初の作品、白昼夢が一番好き
    読みながらもしかして…という嫌な予感とどうなるんだ、って好奇心がせめぎあう
    謎が解かれる事はなく、現実なのか夢なのかもはっきりとされ無い終わり方はいい意味で後味が悪く後を引く

    押絵と旅する男も似たような怪奇短編

    あえていうならば、芋虫をいれて欲しかった
    エログロは排除されたのかな?

  • よみやすい

  • 「江戸川乱歩すげーよ、なにこの人」って思って読み漁るきっかけとなった一冊。この表紙、最高。学校の図書館に絶対置いておいてほしい。

  • 「押絵と旅する男」が載っているからという理由で教科書を選定したうちの高校の国語教師ってある意味すごい人だったのかもしれない・・・。
    人間椅子を読んで、触感を書くってこういうことかぁと思った。気持ち悪いほど執拗な描写だけど下品じゃない。そこが好き。なんか癖になる。

  • 繰り返すようですがちくま日本文学シリーズは装丁と編集がズバ抜けて良い。

    本作収録作品もウマイと思わせるチョイス。
    『人間椅子』は一度読めばそう簡単には忘れないでしょう。
    印象強い作品が書ける、というのも乱歩の強みの一つだと思います。
    もっとも、作家はみなそうでなくてはいけないのでしょうけど……。

  • 映画を先に見たのはいけなかった。
    まあ思った以上に変態的で安心したんだけど…
    短編全部おもしろかった。
    あと、「防空壕」で不意に何かに目覚めた。

  • 十何年ぶりかで読み返す。「押し絵と旅する男」は秀逸。「乱歩打ち明け話」で同性愛経験をカムアウト。この時代の作家はみなやってた。次は「孤島の鬼」を読まねばならない。

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著者プロフィール

1894(明治27)—1965(昭和40)。三重県名張町出身。本名は平井太郎。
大正から昭和にかけて活躍。主に推理小説を得意とし、日本の探偵小説界に多大な影響を与えた。
あの有名な怪人二十面相や明智小五郎も乱歩が生みだしたキャラクターである。
主な小説に『陰獣』『押絵と旅する男』、評論に『幻影城』などがある。

「2023年 『江戸川乱歩 大活字本シリーズ 全巻セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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