水辺にて on the water / off the water (ちくま文庫 な 41-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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本棚登録 : 814
感想 : 54
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  • Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480427724

作品紹介・あらすじ

水辺の遊びに、こんなにも心惹かれてしまうのは、これは絶対、アーサー・ランサムのせいだ-そう語り始められる本書は、カヤックで湖や川に漕ぎ出して感じた世界を、たゆたうように描いたエッセイ。土の匂いや風のそよぎ、虫たちの音。様々な生き物の気配が、発信され受信され、互いに影響しあって流れてゆく。その豊かで孤独な世界は、物語の根源を垣間見せる。

感想・レビュー・書評

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  • 梨木さんの世界。
    水辺をテーマにしたエッセイ集。
    陸からの水辺ではなく、カヤックからの水辺。
    そして、きちんと引かれた境界ではなく、あちらとこちらの境界線のない、その世界。
    物理的にも時間的にも境界がなく、時の流れを感じさせる世界。
    その中にほんの小さな自分が存在している。
    そのことを認めることでの解放。

    本を読んでいる時間がごちそうに感じる。

    そして、星野道夫さんの名前が出たところではゾクゾクしました。
    この本も大切な一冊になりました。。

  • かすみ雲のような霧が漂う湖畔。パドルが並べられた人のいないカヤックが1艇。霧に覆われた針葉樹の森が湖に影を映す。
    なんて幻想的な風景だろう。まるで幽玄の世界に迷いこんだよう。「境界」、そう、『水辺にて』のなかで何度も出てきた「境界」に立っている心持ちになる。
    それが表紙の写真。星野道夫さんによって撮られたもの。ずっと眺めていたい、素敵な写真。

    〈水辺の遊びに、こんなにも心惹かれてしまうのは、これは絶対、アーサー・ランサムのせいだ──〉
    こんな文章からはじまるエッセイ。それだけで、湖が目の前に広がり、「あ、わかる」という気持ちにさせられる。
    梨木さんが、カヤック「ボイジャー号」で湖や川に漕ぎだして、「変動する境界」で感じたことを描いたエッセイ。
    季節の訪れ、鳥や生き物たちの生命力、風のそよぎ、木々のざわめき、雪景色の美しさ……
    ゆっくり見渡す。ああ、世界はなんて美しいのだろう!
    梨木さんは、ひとり「豊穣な孤独」の世界に浸る。「境界」のあちら側とこちら側が混じり合うところを漂いながら、ときに物語の世界に深く潜ったり、ときにこちら側と隔絶されたメイズに迷いこんでしまう。

    宇宙船ボイジャーが太陽系の「境界」、末端衝撃波面を突破しようとしているように、水面の光輝く結界のただ中へ入ってゆくカヤック「ボイジャー号」。乾いた風にさらさらと日光が溶け込んでゆく。それは梨木さんのボイジャー号に降り注ぐ太陽風。ボイジャー号は風の境界を突破する。

  • 作家・梨木香歩が感動した、死と再生を描く映画。|特集|Culture|madameFIGARO.jp(フィガロジャポン)
    https://madamefigaro.jp/culture/feature/210607-cinema-01.html

    移動する境界で、物語の気配を。|単行本|堀江 敏幸|webちくま
    http://www.webchikuma.jp/articles/-/937

    梨木香歩『水辺にて』水辺をめぐる極上のエッセイ - 朝時間.jp
    https://asajikan.jp/article/32614

    筑摩書房 「水辺にて」梨木香歩インタヴュー 1/4
    https://www.chikumashobo.co.jp/special/water/

  • 初めての梨木さん、エッセイとは知らず手に取りましたがとても良かったです。心地良さも憂さもある、美しく雄大なエッセイでした。自然を感じ取り、想像し、それを言語化する表現力の高さ(と梨木さんの行動力)にも驚きました。
    特に印象に残ったのは「…結局は凶暴な方が、そしてより抜け目のない特性がこの世の春を謳歌してゆく、そういう仕組みからは逃げ出せない。そういう仕組みごとの変容は不可能なのだろうか。」というところと、それに呼応するような最後の文章。自然を知り、受容し、生きていくことに向き合う梨木さんの姿勢が美しいと感じました。

  • 梨木香歩は、『村田エフェンディ滞土録』を読んで、その意外な骨太な内容に驚いた。
    さらに、『沼地のある森を抜けて』では、『村田エフェンディ滞土録』と違うようで実は全然ブレていない、その内容に、この人ってふわぁーっとしているようだけど確固たるものを持っていて面白い人だなぁーと思った。
    そんなこともあって、この人ってどういう人なんだろう?という興味で、その後、エッセイを読んだのだんだけど、それは全然ダメだった記憶がある(^^ゞ

    そんなわけで、これもエッセイだからどうかなぁーと思って読み始めたんだけど、やっぱりこの人のエッセイは合わないなぁー。
    ていうか、エッセイって、最近読んでいないので。
    もしかしたら、エッセイ自体が今の自分に合わないだけなのかもしれないけど。

    ただ。
    「忘れるなよ。尻尾をつけてたときのことを」
    これは、面白かった。
    ていうか、すごく好きw
    この人は、やっぱり、物語の方が面白いんじゃないのかなぁー(^^)/

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      本ぶらさん
      本年もどうかお手柔らかにお願いします。

      > やっぱりこの人のエッセイは合わないなぁー。
      創作とエッセイでは密度と言うか...
      本ぶらさん
      本年もどうかお手柔らかにお願いします。

      > やっぱりこの人のエッセイは合わないなぁー。
      創作とエッセイでは密度と言うか、展開の妙が違いますよね。
      と言いながら、前のめり気味?なエッセイも好きな猫でした。
      2024/01/15
    • 本ぶらさん
      コメ返しが遅くなってすみません(^^ゞ

      もちろん、「前のめり気味?なエッセイ」も好きなんですけど、この場合は著者の感性が合わなかったん...
      コメ返しが遅くなってすみません(^^ゞ

      もちろん、「前のめり気味?なエッセイ」も好きなんですけど、この場合は著者の感性が合わなかったんだと思います。
      だから、この後に野田知佑の『北極海へ』を読んだんだと思います。

      ていうか、舟虫好きにツッコミいれたの、そんなに「お手柔らか」じゃなかったですか?(^^ゞ
      そんなに面白い小学生いたんだ!?くらいのニュアンスだったんですけどなぁーw
      とはいえ、ま、失礼しましたm(_ _)m
      5月になっちゃいましたけど、今年もよろしくお願いしますw
      2024/05/03
  • 大好きな著者の、カヌーを通じた水辺での世界を描いたエッセイ。
    著者の本を読んでいると「すごい日本語だ」と感嘆することが度々あるが、この本では「隠国の水」が特にその傾向がある章で、なんというか、梨木臭(良い意味)が強かったように思う。
    表現の幅と深さが際立っていて、何度も日本語を味わいたくて無意識に読み返してしまう。
    物語を生み出す人の意識下に入り込みたいと思うことは多々あるけど、言語化することを生業として、命の時間を削りながら生み出してるこの人の精神世界ってどうなってるんだろうなぁと不思議に思う。
    どの本をとっても好き。

  • 梨木香歩さんの物の見方、作品が生まれてくる土壌みたいな物が感じられて、ファンとしてはとても読みごたえのあるエッセイでした。
    イギリスに留学経験のある作者らしく、英国人流の人生の楽しみ方も随所で触れられています。
    スコットランドやアイルランドでアザラシが人々の生活に深く関わっていると知って少し驚きました。
    英国人に深く愛されている本として、シェイクスピア、聖書、マザーグースの次にケネス・グレーアムの『たのしい川べ』が紹介されていたのも嬉しい発見でした♪

  • カヤックに乗り川を下る、湖を渡る。そんな様子を描いたエッセイ。作者独特のたゆたうような文章から、土の匂い風のそよぎ水の煌めきが再生され、生き物たちの声が聞こえ、物語が生まれてきます。なるほど梨木香歩の小説は、このような世界から生み出されているのでしょうな。
    正直な処、水辺での遊びには興味ありませんし、カヤックに乗ることも今後ともないでしょう。それなのに、文章に惹かれそこに広がる世界に魅了されます。これが読書の悦びなのでしょう。

  • 鳥肌のたつような文章。梨木さんの本はエッセイのほうが好きなのだが、これはその中でも群を抜いている。
    現実と幻影が美しく交差する水面をカヌーとともに移動していく文章に震えた。

  •  エッセイ。カヤックにのって、イングランドの湿地で、かつてそこに生きた人々を思い、日本の川や湖で、水辺の鳥や植物を眺め、想像の翼を広げ、物語を探し当てて……。
     カヤックを車の屋根に積んで、各地を漕いでまわられた作者さんの、深く静かな思索によってつづられた一冊。
     いずれも美しいエッセイですが、熊野の瀞峡の描写が印象深かったです。それから、北海道の川を遡上するサケの描写に圧倒されました。

     わたしはもともと、エッセイを読むのって苦手なたちで、気まぐれに読んでも点が辛めになる傾向がありますが、梨木さんと池澤夏樹さんのエッセイは、問答無用で大好きです。
     池澤さんは、その幅広い知見と世界の広さ、ものごとのとらえ方に心を惹かれるのですが、梨木さんの場合は、その感性に、とても憧れます。鳥や植物にたいへんお詳しくて、自然や世界を見つめるそのまなざしの濃やかさに、胸がきゅーっとなります。見れるものなら、この方の目に映る世界を見てみたい……
     いい読書時間でした。

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著者プロフィール

1959年生まれ。小説作品に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『丹生都比売 梨木香歩作品集』『裏庭』『沼地のある森を抜けて』『家守綺譚』『冬虫夏草』『ピスタチオ』『海うそ』『f植物園の巣穴』『椿宿の辺りに』など。エッセイに『春になったら莓を摘みに』『水辺にて』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』『やがて満ちてくる光の』など。他に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』がある。

「2020年 『風と双眼鏡、膝掛け毛布』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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